第60話:初めてのキスはサイダーの香りが残る爽やかなものでした
「え、キス!? 」
「はぁ!? なんでいきなり! 」
結城さんより先に俺が驚く。結城さんもそれなりに驚いてはいるが、俺ほど驚いてはいない。
「二人も気づいている通り、幹也との体液の交換……というより幹也の体液の摂取が私をどれだけ正確にみられるか、そして私の効力を受けられるかにかかっているわ。だとすると、これ以上のことをするには幹也とキスしてみて、それで入れるかどうかを区別するのがわかりやすいわよね? 」
「えっと……言ってることはわかるんだけど俺にも心の準備がだな」
「それとも、もっと先まで体液の交換をしてみる? 幹也の大事な分身を直接舐めたり、それから一緒に床にはいったり、それ以上のことをしてみる? 私のことはお構いなく。終わるまで外で待っててもいいわよ? 」
「分身って……それに、床、床に入るってそれ要するに」
「女の子が言わないで! 俺も我慢できなくなっちゃいそうだから! 」
「まあ、そこまで行くのは冗談として、ブチュッとやっちゃいなさい。結城さんも男の子の家に上がるぐらいなんだからそのぐらいの度胸はあるでしょ」
全く、なんて条件を突き付けてくるんだアカネの奴。完全に半分からかっているな。俺にとってはファーストキスなんだぞ。
「本条君……」
なんだか結城さんの目が潤んで見える。彼女、こんなに可愛かったっけ。それともキスといわれて乙女モードでも発動しているとでもいうのか。
俺はどうする。俺から行くべきなのか、それともそこまではいきすぎといってアカネの悪戯を止めるのか。どうするべきなんだろう。
悩んでうろうろしていると、結城さんが俺に近づいてきて、俺の首元をガッとつかむと、そのまま俺に……
初めてのキスは、レモンサイダーの味でした。しかも結城さん、舌まで入れてきている。せっかくのキスなのだし、よく味わおうということなのか、しっかり体液を摂取して今度こそダンジョンに入ろうという気概があるのか。今この時点に関しては、よほど結城さんのほうが男らしいのだろうな。
ほんの十数秒だったんだろうが、俺には数分にも感じられるキスだった。そのまま唇を話すと、唇の間にたらーっとよだれが垂れる。これがどちらのものであったのかは解らない。そのぐらい長い間、結城さんのキスに蹂躙された俺の口の中は、結城さんの味で一杯だ。
唇が離れてもまだ結城さんの吐息がかかって、頭が真っ白で言葉が出ない。目が合った瞬間お互い赤くなってすぐ逸らしてしまった。やべえ、多分俺今顔が熱い。そして、女の子との初めてのキスしちゃった。その場で舞い上がりたいところだが、顔を逸らした後結城さんはそのままダンジョンの入り口のほうへと歩いていった。
「こ、これでどうよ! 」
口の周りを拭くこともなく、そのままダンジョンへ入っていこうとする結城さんに頼もしさすら感じる。そして、その背中が見えなくなっていった。どうやらキスまできっちりすると入れるようになるらしい。出る時もまた同じぐらい濃厚な奴が必要になるんだろうか……と、そうだ。裸足でダンジョンは危ないし武器も防具も身に着けてない。二人分の武器と防具を持ち出すと、結城さんの後ろを追いかけていく。
結城さんは入ったすぐのところで立ち尽くしていた。どうやらクローゼットにダンジョンという光景がまだ信じられないらしく、出歩いたりはしていないらしい。
「結城さん、装備一式持って来たよ。着替えて着替えて」
「ありがとう。靴も……あるわね。でも、こんな隠しダンジョン持ってたなんて。ダンジョンは出来たらちゃんと報告しなきゃいけないんじゃなかった? 」
「報告しても俺しか入れないダンジョンだからしょうがないとは思ってたんだが……まさか入る条件が、濃厚なキ、キスで行けるとは思ってなかったし」
「ま、まあそれは……女の子どうしではキスなんてよくするし、その、本条君は最近妙にかっこいいし、私も嫌いじゃないし……その、あの……」
段々声が小さくなっていく。それがかえっていじらしさを演出して俺まで恥ずかしくなってきた。
「とりあえず、これから、よろしく? 結城さん」
「彩花で良いわ。私も幹也って呼ぶから」
「解った。あ、あ、彩花」
名前で呼んでしまった。本当ならキスより先にするべきイベントじゃなかったか、名前呼びイベントというのは。これでまた青春のレベルアップを数段飛ばして行ってしまった。
「さて、彩花……には早速このダンジョンの売りを見てもらっていこうかな。とりあえずスライムを十匹ぐらい倒してみて」
「わかったわ……幹也。しばらく慣れるまで時間がかかりそうね」
「そこは努力する」
早速モンスターを探し、スライムがぽよんぽよんと跳ねている姿を確認できたので、彩花に潰していってもらう。どうやら彩花というダンジョン的に言えば不純物が紛れ込んでも特性は変わらない様で、ちゃんと魔石を落とした。
「早速魔石が出たわよ。次に行ったほうがいい? 」
「うん、説明するより体験してもらうほうが早いかなって」
構わず次のスライムを探す俺と彩花に、アカネがこっそり後ろからついてきていた。
「早速名前呼びとはなかなかやるわね。ちょっと前までは結城さんじゃなかったっけ? 」
「まあ、一種の契約だからな、彼氏彼女ってのは。それにキリをつける意味もあるし、俺も色々と成長していきたいお年頃なんだよ」
「そういうことにしておくわ」
アカネもなんだかうれしそうである。からかいがいのある相手が一人増えた、というところなんだろう。気にせず彩花がスライムをどんどん倒していくのを後ろから彼氏面で見る、という実績もこれで解除だ。
「ねえ、さっきから魔石が必ず落ちるんだけど」
「このダンジョンだとそうなってるんだ」
「それは……狡くない? 」
「ただ、換金するときに誤魔化さなきゃいけないから大変なんだよね。彩花とデートする前に朝早くから潜ってたのも実はそれが理由でさ」
「なるほどね。長い時間潜ってたからこれだけドロップ落ちました、というアリバイ作りだったわけなのね」
彩花が納得してくれている。朝早くから頑張って探索している、というのを不思議がっていたかもしれないし、その分だけ強くなっているのかも、という思いがあったのかどうかはわからないが、一つこれで説明をしなくていいことが増えた。
「ねえ、このドロップも次回ダンジョンに行くときに家から持ち出していくわけなの? 」
「そうなるね。だって誰にも認識されないけど存在するノーマライズダンジョンだし、当然買い取りはギルドでってことになるけど、一切潜ってないのに換金、ってことを考えると怪しまれる可能性が高くなるからね。どこかにダンジョンを隠して運用してるんじゃないのか、って怪しまれるのはまずい。真っ当な探索者としての活動がしにくくなる」
そして、十匹目のスライムを倒したところで結城さん……彩花に変化が訪れた。
「わっ、わっ、なんかフワッて来た。何この感触、気持ちいいんだけど、これなに? 」
「多分レベルアップしたね。このダンジョン、経験値倍率がおかしいことになってるんだ。俺もレベルがそれなりに上がってることになるし、レベルが上がった分だけ身体能力とかオツムの出来とか……後自分ではわからんが見た目とか、色々と強化されるらしい」
「なるほど、最近本条く……幹也がかっこよく見えてると話題になってるのはそのレベルアップのせいなのね。こんなのチートじゃない、黙って使ってるなんて卑怯よ。私もしっかり使わせてもらわないと」
「……そのままでも彩花は充分魅力的というか。可愛いぞ」
「……ありがと」
そのままお互い赤くなる。ごほん、と咳払いして話を続ける。
「リザードマンが出る辺りまでは作ってあるらしいけど、途中ボス部屋もあるから気を付けて。後、ボス倒してもドロップ品が換金に出せないからそこも注意かな。オークに行くまでぐらいなら少しずつモンスターも出てくるし、もう二、三レベル上るかもしれないけど、レベルが上がると体の動かし方に違和感が出てくるから注意した方がいいよ」
「体の動かし方の違和感……今まで動けなかったような動きが急にできるようになるとかそういうことね。早速次のゴブリンかスライムで確かめてみるわ」
そういうと彩花はまた奥へずんずんと進んでいく。ドロップ品のことを忘れているのでドロップはこっちで拾っていくことにしよう。
ゴブリンゾーンまで来て、ゴブリンが出てきた。彩花が攻撃を仕掛けようと踏み込むが、踏み込みが深すぎてゴブリンに体当たりを仕掛ける格好になった。そのまま吹き飛ばされたゴブリンが壁にぶつかり、ぐったりとする。これ幸いと彩花がトドメを刺す。ドロップは当然落ちる。
「なるほど、動きの調整が面倒くさいってこういうことなのね。急に強くなったのは間違いないらしいわね」
「おかげでレベルアップするたびに微調整が大変なんだよね。お金稼いで強くさせてもらって不満を言うのは違うとは思ってはいるんだけど」
「まあ、幹也への恩返しだし、その辺は嬉しい悲鳴と受け取っているわよ」
アカネがひょいと顔を出して俺に話しかけてくる。
「全く、アカネのおかげで彼女はできるわ生活に余裕ができるわ賢くなるわ……ありがたみしかないな」
「何かの怪しい広告みたいな言い方ね。気を付けたほうがいいわよ。そういうのは後で絶対何か裏があったりするものだわ」
「あら、じゃあさっきのレベルアップの恩恵は要らなかったってことかしら? 私はそれでもいいけど、強くなった自分に酔いしれても良いとは思うわよ? どんな恩恵であれ、あなたの努力の成果であることに違いはないんだし」
「ぐぬぬ……言い返せないのが悔しいわね」
なんか姑と嫁の言い合いみたいになってきたな。ほどほどに終わらせてもらって続きの探索へ行きたいんだが、そういうわけにもいかないのかな。ここは俺が止めて次へ行こうと促すのが大事かな。
「まあ、もうちょっとレベルが上がってからアカネに文句を言うのでも遅くはないと思うぞ。せっかくあんなに……一杯キスしたわけだし、その分のありがたみを享受するのも大事だと思うし、その、なんだ。秘密の共有仲間なんだから仲良く行こうよ」
「……それもそうね。幹也の言う通りだわ」
アカネは若干勝ち誇った様子だが、今回のところはアカネの勝ちってところでいいだろうな。
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