第6話:探索者一日目
講習とテストを終えて、無事に探索者証が発行された俺と、仮免状として誕生日を迎えると探索者証と交換してもらえる書類を受け取った隆介。
「さて、これで探索の準備はできたな。じゃあ幹也、約束通りダンジョンに潜ってみてくれ。俺が潜れるようになるまで防具のほうは預けておくからさ」
「わかったよ。ダンジョンがどういうところかちゃんと確認してくるさ。精々稼いで防具を渡さなくても良いようになることを祈っていてくれ」
「そうだな、でも次の小テストの結果が落ちるようなら早めにこっちに渡してもらうのも考えておかないとな」
痛いところを突いてくる。学業もダンジョンも頑張れ、と隆介なりにエールを送ってくれているのはわかる。裏切らないようにしないとな。
そのままダンジョン前で別れて家に帰る。防具は確かに手元にあるが、肝心の武器がないので今すぐ潜って確認、ということが出来ないのが口惜しい。しかし探索者証もなしに武器を携帯しているのは危険極まりないし、講習の中でもその手の武器を携帯する際にはすぐに探索者証を出して探索者であることを認められない場合、銃刀法違反や危険物所持で逮捕される可能性があると言われているのだ。それに元々今日は潜るつもりもなかったからな。
まっすぐ家に帰って玄関のドアを開けると、アカネが宙に浮いて待っていた。
「おかえり。ダンジョンのモンスターの配置が終わったわ。早速潜ってみる? 」
「ただいま、その前にご飯かな。ちょうど防具をそろえてきたところなんだ」
「よくそんなお金があったわね。結構かつかつの生活してるんじゃないの? 」
アカネには我が家の懐事情を教えているので、防具を買い求めるだけの資金が足りていないこともわかっている。
「ちょっとした取引があってさ。しばらくの間だけ俺が使わせてもらえることになったんだ。時期が来るか、それまでに稼いでたら今度は向こうに渡すって契約で、ちょっと金を出し合ってみた」
「ふうん、まあいいわ。とりあえずモンスターが出現するようにはしたから、次にダンジョンに入る時はできるだけちゃんとした服装で入ることをお勧めするわ」
とりあえず、今日も塩パスタなことは確定しているので、いつものワンパンパスタに塩胡椒だけを振って食べる。若者に必要なカロリーやエネルギーが足りてないのは承知の上だし、これからしばらく塩パスタが続くことも覚悟済みだ。なんとかして稼ぐ手段を見つけないといけない。その為の俺専用ダンジョンでもある。
腹を満たして休憩し、さて早速潜ってみるかと服装と装備を整え、包丁を改造した槍も持ってクローゼットに出来ているダンジョンの入口へスッと入っていく。やはり異空間というか、クローゼットの向こう側とこっち側、つまりダンジョンの外側では空気も温度も湿度も違うんだな、というのがわかる。ダンジョンの中はほのかに涼しいのだ。
ちょっと歩いて奥に入ってみると、早速第一村人発見だ。ぽよんぽよんと跳ねている緑色っぽい丸い液体状の物体。講習でやったばかりでまだ記憶に新しい最初のモンスター、スライムである。どうやらこっちにはまだ気づいてないか興味がないようで、こちらへ向くこともなく、どちらに行くでもなく、ただ不規則にジャンプを繰り返している。
そのまま少し近づくと、スライムはこちらに気づいたようでジャンプするのをやめた。襲っては……来ないな。何をしているんだろう? という無邪気な思考が行動に現れているようで、とても微笑ましい。
早速、講習で習った通りにスライムにゆっくり近寄って、スライムの中心辺りにあるという核を狙って包丁を加工した槍で一突き。流石に慣れていないせいか、核から少しずれたところに槍が当たった。そのままずぶりとスライムの中に入り込んだ槍を即座に手元に引き戻す。
話によるとスライムは自分の体内に入った何かを全て溶かすだけの力を持っており、ダンジョンの浅いところにいるからと油断すると装備を溶かされてしまうらしい。
再びスライムに向けて槍を突き動かす。二回目で核にあてることが出来、核を真っ二つにすることが出来た。するとスライムはそのまま地面に溶け込むかのようにつぶれていき、やがて何もなくなる。すると、スライムが居た場所に黒い石が落ちていることに気が付いた。
「これが魔石か? 」
「あら一発目で出たのね、おめでとう。それがドロップ品よ」
後ろを見ると俺についてきていたアカネが俺が持ち上げた石について解説をくれている。これが魔石、これが現代の最新エネルギー源か。
「これ一個いくらぐらいになるんだろう。流石に一個で防具代は稼ぎきれないよな。もっとたくさん戦って数を増やしていこう」
「その調子その調子。もっと頑張ってね」
今はアカネというサポーターがついてるラッキータイムだ。きっと見逃したモンスターがいたとしても教えてくれるだろう。そのまま奥へ進んでいく。
少し道を進んで三叉路に来たところで次のスライムが現れた。ここは今の所スライムしか湧かないのかな。その間に魔石をかき集めて戦えるようにしておこう。今はポケットに魔石を放り込んでいるが、それなりに長い時間戦うなら背中に背負うバッグか何かを持ち込んで荷物運びを便利にしていく必要もあるな。
二匹目のスライムは一発で核に槍を差し込むことが出来た。よし、中々の慣れっぷりだな。スライムはまた魔石を落とす。ドロップは必ずくれるものなのかな。それとも運が良いだけなんだろうか。その辺も調査が必要だな。
「うん、なんだかわかってきた気がするけど、そのわかってきたって感覚が一番怪我につながるような気がしてきた。何かしら変化が現れるまでは油断しないようにしよう」
「その注意深さは大事ね。今日初めてモンスターと戦って高揚するのはわかるけど、それに飲まれずに自分を律しているのはよくできているものね。育ちがいい証拠だわ」
そう言ってアカネは空中から俺の頭をなでなでし始めた。感覚はないが、馬鹿にされている訳ではないということは伝わった。
「さあ、次を探してみよう。まだ時間はあるし、そんなに広くないこのダンジョンならモンスターを探し回ってしっかり探して、戦闘経験を積むんだ」
「その意気よ。次も頑張ってね」
アカネに応援されながら次々にスライムを探しては、核を狙って一突き、核を狙って一突き。五匹目ぐらいで完全にコツをつかんだのか、確実に倒せるようになってきた。今の所ドロップは毎回出ているので、魔石は必ずくれる、というイメージでいいのだろうな。
そして、十匹目を倒したあたりで身体がふわっと浮き上がる感覚を覚える。なんだろう、この感覚は。人生で初めての出来事だ。何かができるようになったと感じるような、不思議な感覚だ。
「どうやらレベルアップしたみたいね」
「レベルアップ? ゲームとかのあれか? 」
「人間としての格が一つ上がったってことよ。これで力が強くなったり賢くなったり素早くなったりするはずだわ。何かしらの身体の向上が見込めるってことね」
レベルなんてものがこんなに早く上がるものなのか。これも講習では教えてくれなかったぞ。モンスターを倒せばレベルアップする話は聞いたことはあるものの、本当にそんな現象が早いサイクルで行われるなら大きく話題になって広まっていてもおかしくないはずだ。
「うーん……レベルアップはまあ置いといて、もうちょっと戦ってみるか。本当にレベルアップしたなら動きとかが変わってくるはずだろうし」
「そうね、新しい体に馴染んでおくのも大事ね」
レベルアップしたことはひとまず置いておいて、先に進むことにした。戻りの道は忘れても、そんなに広く作ってないなら迷ってるうちに入口まで戻ってこれるだろう。
少し進んでまたスライムが出てきたので、さっきまでと同じ動作を繰り返そうとするが、明らかに戦いやすくなっている。スライムの動きがゆっくりに見え、自分の繰り出す槍も槍先と狙う先がまるで事前に解っているかのように綺麗に核を狙ってスッパリと切り落とすことが出来た。
「さっきまでとは動きが違うわね。それもレベルアップの効果ってことかしら」
「戻ったら調べてみないとな。レベルアップについて色々と。明らかに体の動きが変わっているし、なんだか動体視力まで上がっているようだ」
しばらく魔石を拾ってポケットに詰め込み、そろそろポケットが一杯になってきたので来た道を戻る。しかし、三十分そこらで最初のレベルが上がるならもっとレベルアップについて周知徹底されて情報が共有されていてもおかしくないはずだ。俺専用ダンジョンだからレベルが上がったのか? それとも、このレベルアップの効果はこのダンジョンだけで適応されるものなのか? 色々考えられるな。
入口に戻ってきてダンジョンから出る。ダンジョンから出ても、レベルアップの効果は続いているらしく、ティッシュを一枚取って鼻を噛むと力を入れ過ぎて鼻の血管が少し切れた。これは加減が必要だな。
専用のバッグにスライムの落とした魔石を入れておくと、スマホでレベルアップについて調べ始める。しかし、レベルアップという言葉が一般的な言葉過ぎてゲーム系の情報に溢れかえってしまい、ダンジョンに関することにキーワードを絞ってもレベルアップに関する情報は得られなかった。もっと違う切り口での検索ワードが必要になっていそうだ。
ううん……今は考えてもしょうがないかな。とりあえずレベルアップという現象が俺に起きたのは確か。それによってどう変わったのかはこれから考えていくしかないか。
「でも変ね。少々のスライム程度でレベルアップするなんて話、私もダンジョン作ってる人からは聞いてないわよ。何かパラメータ間違えたのかしら? ちょっとこっちでも調べてみるわね」
「頼むよ。もし俺だけに関わるパラメータで、しかもダンジョンの内外に関わらずレベルアップの効果が出てるなら、何かしら変化はあるはずだしそれを調節しながら色々と考えていくことにするよ」
アカネにお願いをしつつ、今日はもう遅いので風呂に入って寝ることにした。明日筋肉痛になってませんように、と。
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