第57話:隆介十八歳
隆介の誕生日が来た。お互い約束した、一緒にダンジョンに潜ろうという日でもある。そのせいか、隆介は今日の昼からそわそわしっぱなしで、お昼になっても俺の隣で落ち着かない様子だった。
「そんなに急いでも授業が終わるまではダンジョンへは行かないし、ダンジョンも逃げないぞ」
「解ってはいるんだがな、四月生まれと六月生まれの間には大きな壁があるんだ。特に肉体勝負の世界では誕生日が早いか遅いかで成長度合いに差があるから四月生まれが特に有利とされているんだぞ。その二ヶ月の間にお前がいくら稼いでダンジョンでどれだけ実力を発揮してきたかを考えると、俺だって大人しくしている訳にはいかないって寸法よ。それに、今日で俺も晴れて成人ってわけだ。緊張感と責任感が付加されることになってなんか盛り上がらないか? 」
「そこは個人の感情の差だな。俺にとっては来たからなった、というイメージしかなかったな。まあ、そんなお前に誕生日プレゼントがある。家に置いてあるから取りに行く必要はあるが……そういえば結局武器はどうするんだ? 俺の包丁槍を使うか? 」
「そうだな、ゴブリン相手ぐらいなら出来るという話だし、防具と盾で金は手持ちがほとんどない。前に言ってた通り、お前から譲ってもらうって形で良いだろうか? 」
隆介が目の前で手を合わせて頼む! といった風に俺を拝む。
「まあ、もとよりそのつもりだったからな。だったら話は早い。授業が終わったらちょっと俺の家に寄ってくれ。武器もそうだしプレゼントも渡さなきゃいけないからな」
「それは有り難いな。どんなプレゼントなのか楽しみだ」
モリモリとツナタマゴサンドを食べる隆介と、角煮を一つ潰してパスタに和えた角煮パスタを食べる俺。その角煮の匂いに反応した隆介がこっちの弁当箱を見つめる。
「なんか甘いすげえいい匂いするな。それ、ただの肉じゃないな? 」
「ほう、気づくとはお主もなかなかやるな。オーク肉を角煮にしてそれをすりつぶしてパスタに和えたものだ。誕生日だし一口分けてやろう」
パスタ四本分ぐらいの量を開いたサンドイッチの包みに乗せてやると、上を向いてあーんと口を開けて食べる隆介。その後、もぐもぐもぐもぐもぐもぐと高速で口の中で咀嚼している。大分気に入ったみたいだ。
「メチャクチャ美味いな。これいくらだ? 」
「自作だから原価はタダだ。手間暇かけた分美味しく出来ているだろう」
「お前に彼女が出来たとして、料理スキルの差がありすぎて凹む彼女の顔が思い浮かぶな」
ふと、誰かがこっちを見ているような気がしたので顔をあげると、結城さんがこっちに近づいてきていた。
「やあ」
「この間はありがとう。これ、ラードの入ってた容器。返しておくわね。かなり喜んで色んな炒め物に使ってたわ」
「また角煮をやった時は出るだろうから、ラードが入荷したら知らせた方がいい? 」
「うーん……うちのお母さんなら自分でやってしまいそうなのよね。だから良いわ。毎回取りに行くのも面倒だし、こうやって容器を返すのに目立つ必要が出てくるでしょ? 」
「確かに、今の幹也は目立つからな。で、結城はまだ幹也とダンジョン通い続けてるのか? 」
隆介が気軽に結城さんに話しかけている。俺はまだそこまでフレンドリーに接するのはダンジョンと……自宅だけだったな。他の目が多いとまだ厳しいらしい。
「週に一日だけよ。小林も今日誕生日なんだってね、おめでとう」
「ありがとう。頑張って二人に追いつけるように努力してみるさ」
「それはどうかしらね。小林も彼女さんとダンジョン行くんでしょう? 本条君を彼女だと思ってちゃんと守ってあげることね」
俺が隆介の彼女役を演じることになるのか。まあ、いやではないがちょっと言葉では言い表せない何かがあるな。どっちかと言えば現状は俺が隆介を守る側だろうに。まあ、カバーリングの練習をさせるという意味ではあっているのだろう。
「結城も、もし三人で潜ることがあったらよろしくな」
「ええそうね。それじゃあ失礼するわ……今日もパスタだけど……あの角煮を使ったパスタね」
「うん、美味しいからちょっとずつ解凍して食べてる」
「それも中々美味しそうでいいわね。じゃあ、また次の時にでもよろしく」
「うん、また」
結城さんは容器を返しに来ただけらしいが、そのついでで俺と結城さんのダンジョンデートを邪魔しに来るらしいぞこの隆介は。彼女が探索者になるまでのつなぎだろうが、俺のささやかな幸せ時間を奪いに来る、ということらしい。出来れば別日で潜りたい。
隆介とは日曜日、結城さんとは土曜日、と曜日を分けてくれると助かる所だ。俺としては結城さんとのダンジョンデートは中々楽しみな日でもあるし、二人で稼いで帰れる貴重な時間でもある。この楽しみがいつまで続くかは解らないが、出来るだけ楽しい日々を送りたいものだ。
授業が終わり、隆介を伴って帰る。隆介の家の前で着替えるのを待ち、着替え終わって出てきた隆介は似たような防具を装備して、特に膝と肘に重点的に防御を供えた全身服を着こんでいた。ちょっと動きづらそうだが、着ている本人曰くちゃんと全身動かせるので問題ないらしい。
そして盾。かろうじて自転車籠に入らないぐらいの大きさのシンプルな丸盾を用意していた。これなら縦に並べば二人分ぐらいはかばうことができるだろうという程度の大きさの盾だ。ちゃんと防具も準備しているようだし、早速家へ来てもらう。
駅前ダンジョンとは逆方向になるが家に寄ってもらい、まずは上がってもらう。そして、机の上にあらかじめ準備しておいたスクロールを手に取り、隆介に渡す。
「俺からの誕生日プレゼントだ。是非受け取って、覚えてもらいたい」
「スクロールって結構値段がする者じゃないのか? いいのかこんなもの貰って」
隆介はおいおいそんなに張り込まなくても誕生日プレゼントなんて安い物でいいんだぞ? という雰囲気を全身からみなぎらせていた。
「スクロールの中では安いほうのものだから問題ない。ちなみに【盾術】といって盾の扱いがちょっとだけうまくなるスクロールらしい。重ねて覚えていけばどんどん上達するらしいから、隆介がその気になれば盾名人になれるぞ」
「俺のためにそこまでお膳立てしてくれるとは思わなかったよ。ちょっと泣きそうだ」
「泣くのはダンジョンに入ってからにしたほうがいい。違う意味で泣きたくなってくるかもしれないからな」
「で、スクロールってどうやって使うんだ? 」
「スクロールを開いて、使いたい、と念じれば使えるようになるらしい。試しにやってみてくれ」
「よし、解った……使いたい! 」
声に出さなくてもよかったはずだが、わざわざ声に出して使いたいとスクロールに念じたらしい。スキルスクロールの文字が光り、隆介の中へ吸い込まれていくように文字がなだれ込んでいく。
安いスキルだからなのか、それともそういうスキルなのかわからないが、俺が【忍び足】を覚えた時よりも短い時間で終わった。
「これで覚えたことになるんだよな……なんか実感ないぞ」
「ゼロからスタートだからじゃないかな。もしかしたら何度かモンスターと戦ってみた後で使ってみたら違う感想が出たのかもしれないな。まあ、下駄は履かせた。これでちょっとはマシな戦いができるだろう。後、包丁槍はお前の探索者証が正式に発効されてから渡すことにするよ。それまでに持っていて警察に職質されたら最悪没収されちゃうからな」
「解った、任せる。じゃ、早速行こうぜ」
「ちょっとまて、水分位補充していきたいからな」
水道水で程よくお腹を膨らませた後、空いたペットボトルに水を充填して持ち込む。今日は稼ぎにならないだろうから、コンビニで調達をするだけ赤字になるだろう。
「なるほど、水分か……俺にも一つ空いたペットボトルをくれ。俺の分も詰めていきたい」
「わかった、用意する」
隆介も、今日は稼げなさそう……という空気を存分に俺から感じ取ったのか、水でいいと言い出した。普段ならコーラとかビタミン飲料とかコーヒーとか言い出すところだが、そこは流石に遠慮したらしい。
二人とも背中のバッグに水分だけ詰めて、早速駅前ダンジョンまで出かけることになった。
道中、二人の格好に笑う子供もいたが、探索者だとわかると、今日も稼いでくるのかな、と言った感じの人もいたので探索者という仕事も馴染んできてるんだな、という感想すら浮かぶ。
駅前ダンジョンに到着して、まずは隆介の正式な探索者証の発行を待つ。どうやら探索者証自体は依然講習を受けた時に既に作ってくれてあったらしく、すぐに手元に来ることになった。
「これで俺も探索者か……」
「ケガするのは初日が多いらしいからな、しっかりしろよ。ほれ包丁槍。組み立て方はだな……」
隆介に包丁の組付け方と、簡素な家具を作る時についてくる六角レンチを渡して自分で組み立ててもらっている。今後は俺がいなくても組み立てられるようになってくれないと困るからな。そこはしっかりしているのか、一発で理解したらしい。
「よし、早速潜るか。まずはスライムからだな」
「そうだな、その槍で一発で核を割る練習からだ」
入場し、早速スライムを探す。ゴブリンと戦うかどうかはさておき、スライム一匹倒せないようでは探索者として笑われる、と煽ったところ、数匹でものにしてやるからな、と気合が入った隆介の後ろをついていって、スライム相手に戦う様を観察する。
隆介は基本的に物覚えが早いので、十匹倒すまでにほぼ核の位置を見定めてその場所に槍を振るう、という動作を身に付けることが出来ていた。スライムに気圧されることもなく、体当たりされてもサッと盾で受け止めて受け流す動作が出来ているし、中々の早さだ。
十一匹目でようやく本日の収入である魔石を手にすることが出来た。
「これ一個でいくらだ? 」
「200円だ。二人で分けるなら100円だな。ジュース一本持ってこなくてよかったな。買ってたら完全に赤字だ」
「安いな……次のモンスターはゴブリンだったか、そっちの方がまだ金になりそうだな」
「そっちは400円だな。集中して狩れればそこそこの稼ぎにはなるが、みっちり稼ぐなら更に奥に向かって盾や弓矢を持ってるゴブリンのほうが数が居るしドロップも期待できるぞ」
「じゃあさっさとそっちへ行こう。体の動かし方は徐々に解ってきた。後はモンスターそれぞれでどう動かしていけばいいかを学べばいいか」
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