第5話:探索者講習
さらに翌日、探索者ショップに出かけると、そこには隆介がいた。
「お、なんだ、珍しいところで会うな」
「隆介こそ。何で探索者ショップなんかに用事があるんだ? 」
隆介から探索者になりたいなんて話を聞いた覚えは全くない。それでも探索者ショップに居るということは何かしらの事情があるんだろう。
「この間の子、探索者にあこがれてるらしいんだよ。俺も勉強だけやってると暇だし十八歳になったら一回ぐらいは体験しておいても人生の経験にはなると思ってさ。それで色々調べものに来たんだけど……幹也はまたなんで? 」
「俺も似たようなもんかな……せっかく四月の初めに誕生日があって高校に通いながらダンジョンにも通えるって時期だし、探索者というのに触れてみて、やっぱ稼げないならまじめに勉強するしかないかって集中できるかもしれないからさ。その経験は多分どっかで生きてくると思うんだよね」
「幹也にしては深いことを考えてるんだな。ただ遊ぶ金欲しさにダンジョン通いだすのかと思ったぞ」
ほっとけよ。流石に隆介とはいえ、俺専用のダンジョンが作られてるから一潜りして強く賢くそしてついでに金も稼げればいい、なんてことは口が裂けても言えないし、そもそも昔祠を作った道祖神が女の子の姿になってそれを手伝いに来てくれている、なんて追加情報を言いだした日にはさすがの隆介もいい病院を紹介してくれる事だろう。
「まあ、なんだ。とりあえず遊ぶ金をちょっと回せば一式買えそうな値段ではあるな、浅いところを潜るだけなら」
「そうなのか……どれどれ」
装備品の値段を見て回る。中古品とはいえ破損はなく、それなりに綺麗なものはやはりお値段はするが、それでも新品で一通りそろえるよりはかなりお安く購入できるようになっている。ふむ、これなら昼食塩パスタで乗り切れば何とか工面できるな。
全身防具で、膝や肘には厚めにパッドか、生地が厚めに作られている。ぱっと見はアイスホッケーの防具のような感じだが、そこまでプラスチックでできているというわけではなく、全身の駆動には支障がないレベルで全身を覆ってくれる一揃いのセット装備だった。
「どうだ、幹也なら手が出せそうか? 」
「多少生活に無理が出てもいいなら……ってとこだな。流石に上を見ると際限がないけど、最初のほう、一層分で満足して探索者気分を味わうだけならこれでも良いかもしれないが……ちょっと厳しめではある」
二人で防具の前でうーんとうなる二人。そして、隆介がひらめいた! とばかりにこちらを見る。
「どうだ幹也、半分ずつ出し合って、幹也がまず使ってみてダンジョンに潜る。その後俺が引き取るってのは」「それだと一回二回しか使わない俺に大分不都合がある、ということにならんか」
「そこはもし、もし、だ。幹也が探索者を気にいって稼げるようになったら、残りの半分を稼いで現金で返してくれればいい。大事なのは今手元に防具があることだと思わんか? 」
ふむ、一理ある……か。隆介の誕生日はもう少し先だし、その間使いまわさせてくれる、というなら話は分かるが、それまでに稼げるかどうかはわからない。そもそも、俺専用ダンジョンにいつモンスターが湧きだすかもわからない上に、どれだけの資産価値が生まれるかも不明、そこに金をかけてみるという一種の賭けか。
「うーん……それでも悩むな。大きな買い物ではないが勇み足をするには少々余りあるってところか」
「じゃあ俺が六割出す。それでどうだ? 」
「お前、そんなに探索者やりたい人物だったっけ? 」
「この間の子がそれだけ魅力的だったんだよ。女は男を変えるだけの魅力があるんだぞ? 彼女いないお前にはわからないかもしれないけど」
そこはほっとけよ。確かにモテたことも好意を寄せられたこともないけどさ。頼りにされたことは何度かはあるが……まあ、そこはいいんだ。しかし、そこまで良い女の子だったんだろうか。まあ、カラオケで奢ってもらった分には遠く及ばないが、普段勉強を見てくれていたり何かと気にかけてくれることへの恩を返す、という意味では話に乗ってもいいかもしれないな。
「わかった、それでいこう。本当に俺が四割で良いんだな? 」
「よし、話が分かる友を持って俺は幸せだよ。早速買ってくる」
俺から金を四割分きっちり取り立てると、そのままカウンターへ精算に行った。防具なしでも戦える可能性はあったんだが、それを口に出す前に実行するあたり、果敢に富む友人であり、その手の早さや切り替えの良さ、機敏さがあいつのいいところでもあるんだが。
レシートと装備片手に戻ってきた隆介は、俺に防具セット一式を渡す。本当に買ってしまった。これはもう戻れない奴だな。なんとしても自分のダンジョンから収益を上げて分でも返却しないといけない奴だな。
「ダンジョンに入るには講習会を受けなきゃいけないらしい。ダンジョンに入れるのは十八歳からだが、講習会は半年前から受講できるらしい。今日丁度今からあるらしいから一緒に受けていこうぜ。どうせいつかは受けるわけだし、それが今日になっても問題ないよな? 」
さすが手も早いだけのことはある、既に二人分の講習手続きの申請書をもう片手に持っていた。そのまま背中を押されるように探索者資格講習会に参加することになった。こんな時間からも講習会をやっているとは思わなかったが、仕事帰りにダンジョンによってそのまま帰る、もしくは平日の夕方のうちに講習会を済ませておいて、日曜探索者になる、といった人もいるんだろう。
講習会はそう人は多くないので、かなり定期的に行われているんだろう。ホワイトボードの消し切れなかった部分を見るに、少なくとも三日前にも行われた形跡が見えた。
講習会は二時間ほどあり、ダンジョンがなぜ発生するのかは解らないが、日本各地で発生し、基本的には二つのタイプに分かれるという話だった。
一つはランダムに発生し、出来上がるたびに踏破されて消えていくインスタンスダンジョン、もう一つはインスタンスダンジョンをあえて踏破せずその場に固定して延々と潜り続け、モンスターが湧き出なくなるその日までモンスターを倒した際にドロップする魔石や物資の買い取りを行う機構、いわゆるダンジョン関連施設を建設したノーマライズダンジョンの二つだ。この講習会が開かれているこの場所自体もノーマライズダンジョンにカウントされるらしい。
ノーマライズダンジョンでは、ダンジョンから得られたドロップ品を全品買い取る形で、省庁が管轄するギルドという組織が運営している。ギルドは得られたドロップに対して報酬を渡し、報酬に少しマージンを取ってその得られたドロップ品を必要としている電力会社や素材を扱うメーカーなどに売却をしている。そのマージンで運営されている、というのが実態らしい。社会に素材や資源が公平にわたるための措置は行っているものの、ギリ黒字ぐらいを目安に運用をしているらしい。
ここまでですでに幾人かが眠りに入り始めた。勿論隆介はギンギンに起きていて、一字一句漏らさず聞いている、というここでまずやる気や普段のお疲れ具合がテストされていると言っていいだろう。基本的にはギルドに直接渡すのが一番わかりやすい金の儲け方、ということだけは頭に詰め込んだ。
インスタンスダンジョンの踏破の場合、ダンジョン踏破記録として探索者証明番号とダンジョンが出現した場所、ダンジョンを踏破した時間等を記名した上で最寄りのノーマライズダンジョンに設置されているギルドに報告する義務があるらしい。
インスタンスダンジョンが攻略しきれない場合はどうなるのだろう。応援が来るまで戦い続ける必要がある、ということだろうか。その場合、ドロップした品物は普通にギルドで買い取ってくれるのだろうか。
「すいません、後で質問良いですか」
「はい、今でも構いませんよ」
隆介が声を上げる。おそらく俺と同じ疑問が浮かんだのだろう。こういうところで勘がきくのもこいつのいいところだ。
「絶賛攻略中のインスタンスダンジョンで手荷物が一杯になって一時的に帰還が必要になった場合、それでも報告義務は発生するのですか? それとも、攻略を完了した時点で報告義務が発生するのでしょうか。その際、途中まで得られたドロップ品の買い取りは行ってもらえるのですか? 」
隆介が俺が考えていたのとほぼ同じ質問をしてくれた。これは俺専用ダンジョンにも適応されるものだ。もしノーマライズダンジョンやインスタンスダンジョンの攻略の段階でのドロップ品買い取りがされない場合、ダンジョンの経済的価値は非常に劣ることになってしまう。
「良い質問ですが、心配ありません。どこのダンジョンのドロップ品で今攻略中か、それとも踏破済みかに関わらず、ノーマライズダンジョンの周りにあるギルド施設にまでドロップ品を持ってきてくれればギルドは全品買い取りを保証します。そうでないと、インスタンスダンジョンの進み具合によっては中々踏破できないダンジョンが出来てしまいますからね」
つまり、俺専用ダンジョンを攻略しきらなくてもモンスタードロップが認められた時点で換金は可能、ということになる。一つ安心要素が出来たな。
「ありがとうございます」
「いえ、当然の疑問にお答えしただけです。他にも、質問や疑問が出てきたら随時お答えしますのでどうぞお好きに質問してきてください」
その後も講習は続き、俺と隆介と他数名は寝たままの人もいれば真面目にメモを取りながら聞いている人もいる。俺と隆介は真面目に聞いてはいるものの、隆介はメモも取らずに諳んじているらしく、さすがの優等生っぷりを演じてくれている。
俺は時々メモを取りながらだが、特に換金のシステムに関することと、モンスターとして出てくる代表的な相手の戦い方やお薦めされる戦い方や武器などについて解説もしてくれている。けが人を出さないための注意事項的なものだろう。
一通りの講習が終わり、最後に確認のテストが配られた。これにある程度正解していれば講習は終了となり、探索者証が発行されるらしい。寝ていた人はもう一度受講してくださいってところだな。
問題は元々用意されていたもののようで、綺麗にプリントされた用紙に名前と年齢、答えを書いて提出。俺と隆介は真面目に講義を受けていたのでほぼ回答を埋めることはできた。
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