第4話:ダンジョン設置
カラオケは盛況のまま終わり、隆介は女子たちを丁寧にそれぞれの最寄りまで送っていくそうだ。相変わらずマメな男……でもそこが隆介のモテる秘訣か、真似できそうにはないな。
「じゃあな、幹也。俺は彼女たちを送っていくからお前は一人で帰ってくれ」
ひどい言い草だが、少なくともおやつは隆介のおごりで、女の子ともデュエットする機会があったことだし、充分楽しませてもらった、と考えるべきだろう。あいつの告白が上手くいくことを願って一人寂しく帰るか。
ちょっと暗くなり始めてしまった帰り道を自宅へ急ぐ。アカネはもう帰ってきているだろうか。だとしたら夕食が遅れたことを少し詫びなければいけなくなるな。
自宅に着き、家に帰るとアカネはもう帰ってきていた。リビングにふよふよと浮んで目をつむって、何か瞑想めいたことをしていた。
「ただいま」
「おかえり。遅かったわね」
ただいま、といってお帰り、と帰ってくるのは一人暮らしを始めて以来じゃないだろうか。なんかそれだけでもほっこりするな。非常に心地よいというか、また明日も帰ってこようという気分にさせてくれる。いってらっしゃいもきっと同じなのだろう。
「ちょっと友達と遊んでたよ。最近付き合いが悪いって言われちゃったから、せっかくだしと思って。ごめんね、帰りが遅くて」
「人付き合いなら仕方がないわよ。私の付き合いをひたすらさせるってのも何か違うしね。それより、ダンジョンのひな型が出来たわ。とりあえず入るだけなら入れるようになったけど、見る? 」
お、もうダンジョンの形というか、簡単なダンジョンが出来たらしい。これは先行きが楽しみだ。
「早速ダンジョンに入ることは出来るのか? 」
「入ってもいいけど、まだ何もないわよ。後、出入り口を設置しないといけないから……どこかいい場所はないかしらね」
出入口か……確かにそれは問題だ。部屋の何処かに出入口があるにしても、不便な場所だと困る。トイレの中とか風呂とか、そういうスペースにうっかり作るとしばらく使えなくなるのは困るな。
「その出入口は気軽に取り外しが聞くものなのか? 」
「その内そういう使い方ができるようにはしたいけど、今の所は難しいわね。だから今お試しで入るなら、しばらくはそこを出入口として固定させてもらうことになるわ」
仮止め、というところだろうか。何にせよ、俺専用ダンジョンというものの形が見えるのは悪くない。是非とも仮の出入り口を作っておきたいところだ……そうだな、ここはオーソドックスにウォークインクローゼットの壁際にでもセットしてもらうことにするか。そのほうが秘密基地感もでてお得かもしれない。
早速場所を少し開けて、クローゼットの中を整理する。
「ここでどうだろうか。ぱっと見でも解りにくいし間違ってはいることもないし、見た目にも収納にも影響が無さそうだ」
「中々センスがあるわね。押入れの中にあるダンジョン、というのも風情があっていいわ」
アカネも気に入ったらしい。場所を決めたら先にご飯だ。夕食を作るといつも通りお供えとしてアカネに手を合わせながら夕食を並べる。アカネが青く発光し、お供え物効果が現れたところでおさがりさんになった夕食を再び手を合わせていただきますする。
今日の夕食はシンプルにトマトソースのパスタだ。カラオケでそこそこ飲み食いをしたおかげでそれほどお腹は空いていないし、時間がかからず手間なしで作れるワンパンパスタは時間も金もない食欲はある学生には人気のメニューであることは間違いないだろう。
ササっと食べ終わって食器を片付けると、アカネがダンジョンの入り口を作り出す様を見ていく。どうやらクローゼットの奥行と横幅に合わせた設計にしてくれるらしく、俺一人半ぐらいが通れるぐらいの入り口がそこに出来上がっていた。
これが俺専用ダンジョン……なんか感動するな。秘密基地を見つけた時のワクワク感を思い出す。今思えばあれは認知されていない場所の不法占拠でしかないが、こういう内緒のスペースというのは男の子の心を打つのは間違いないだろう。
「さ、出来たわよ。といってもまだモンスターも出ないし、ダンジョンの中身もそれほど複雑になってない、本当にダンジョンがあるってだけの内容だけど、それでも見ていく? ……みたいね」
アカネがまだまだ作ってないぞ、という言葉を口にするが、もう俺の目はダンジョンに釘付けである、というのを察すると、ふぅ、とため息をついてやれやれだわ、と言ったような口調に変わり、俺が今にも入りそうになっているのを止めたりはしなかった。
一歩、ダンジョンの中に入る……と、その前にサンダルぐらい履いていこう。モンスターもいないただのダンジョンなら今はサンダル履きでも充分なはずだ。その内中身が出来てモンスターが湧くようになればサンダルでは危ないのでちゃんと靴を履いていくべきだな。
ダンジョンの中はザ・洞窟ダンジョン! と言った感じで、岩肌のあちこちに苔が生えてその苔が光ってダンジョンの中をほのかに照らし出していた。
確かにまだ何もない、道だけが続く場所だが、ここはTVやネット配信でも見られたダンジョン。その空気を今まさに感じている。嬉しいなあ。ここが俺だけの秘密基地だ。心が躍るとはこういうことを言うのか。
「どう? 出来栄えのほどは」
「後はモンスターが出て、倒してアイテムが出るなら言うことなしだな」
「それはよかったわ、第一段階は終了ってことね」
「ああ、ありがとうアカネ。これから毎日ダンジョンが出来上がっていくのが楽しみで色々と捗りそうだ」
ダンジョンの中をぐるりと歩いて回る。簡単な迷路状になっているとはいえ、迷うほどのスペースはまだ作られていないものの、ダンジョンの雰囲気と良さは伝わってきた。
うん、うん、いいぞ。なんか出来始めのこの瞬間が楽しい。ここからアトラクションが追加されていくことを考えても、充分に楽しめそうだ。もう今からすでに楽しんでいるとも言っていい。
「ではアカネ軍曹、引き続きダンジョンの構築をよろしく頼む」
「誰が軍曹よ。まあ、それは良いとしてモンスターはどういうのがいいわけ? オーソドックスな部類の奴から選んでいくことになると思うけど、希望があればそのようにするわよ」
モンスターも自由に選択できるらしい。例えばスライムばっかり出るダンジョンとか、ゴブリンばっかり出るダンジョンとか、そういうのもできるってことだよな。
「そこも選択できるのか……いや、そこはアカネのセンスに任せる。俺専用だとは言え俺が全部決めてその通りになっちゃったら多分物足りなさが勝っちゃうと思うんだよね」
「わかったわ、じゃあその辺はお任せということで適当にぶち込んでおくわね」
アカネも楽しそうにダンジョン作りをしてくれているようだし、出来上がりが楽しみだな。出来上がったら武器を持って……そうだな、モンスターを倒すための武器を用意しないといけないな。キッチンの包丁じゃ物足りないかな? もっとちゃんと倒せる武器を用意しないといけないかな。
武器は何が良いんだろうか。これも調べてみて、探索者が一般に使ってる最初のころの武器、というのがあるはずだから手に入れていくのが大事だろうな。
早速調べてみよう。探索者が集まるサイトで初心者向けの講習サイトやダンジョン配信をしている人の動画を見て、最初のダンジョン探索ではこれを持っていけ! というものをいくつか出してくれている。
やはり、刃物が人気らしいが、鈍器も効果的である、と教えてくれている。スライムなんかは切り刻めばそれで終わりなんだそうだが、鈍器で叩き潰すのも中々にきくらしい。また、奥に行くと出てくるしばらくのモンスターについても、この二つの戦い方はしばらくは続くようだ。
刃物を買いに行く……とはいえ、流石に包丁一本持ってダンジョンに立ち向かうことは出来ない。何かしらの加工が必要だろう。例えば、柄を括り付けて槍のようにするとか、そういう加工が必要になるな。俺は幸か不幸かそういう加工が大の得意だ。手持ちの包丁の一本を槍に加工するのはそう難しいことではないだろう。
それに、槍はリーチがある。射程距離が長いほうが有利であるのは間違いない。ヨシ、武器はお手製の槍に決めた。ちゃんと普通に包丁としての機能を失わせないように取り外しができるようにしておけば……大体頭の中で図面が引けてきた。早速明日にでも柄にする部分の部材を買いに行ってみよう。
◇◆◇◆◇◆◇
翌日、学校帰りにホームセンターによって単管パイプを買い、穴の中に包丁の柄を通して槍の形に調節できるように加工してみた。結構時間はかかったが、これで武器はいつでもよしだな。後はダンジョンが出来上がってモンスターが出てくるようになるまでが楽しみだ。
武器は手に入れた。防具は……防具は考えてなかったが、膝パッドとか肘パッドとかをつけていたような気がする。初期投資が結構かかるが、最近は初心者卒業した探索者の中古品が結構な数流れてきていて、初心者でも比較的安めの値段で供給することが出来ているらしい。探索者用品の中古ショップへ行けば安く手に入るかもしれないな。
明日は探索者ショップに行ってみよう。買うかどうかはさておき、こっそり自分だけのダンジョンを作ってもらったところで怪我をしてそこでやる気をそがれて終了では、せっかく作ってくれているアカネにも悪いし、望みをかなえてもらった分の恩に報いることが出来ない。
もし、アカネが俺への恩でダンジョンを作っているならば、俺はそのダンジョンを楽しむことで恩を返すことになるはずだ。恩を返し合って両方が幸せになるならば、それが一番いい。だから明日は今度は探索者ショップへ行ってみよう。
今日と昨日と、いつもよりもワクワクした日々が続いている。実際にダンジョンに入ってみて、モンスターが出て、更にワクワクが続くのかどうかはわからないが、少なくとも入った先のダンジョンぐらいは楽しんで毎日頑張れるようにしてみよう。
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