第3話:一発芸・男同士のデュエット
授業が終わって家に帰る。途中で寄り道してコロッケをコンビニで買い食いし、夕食の食材を近所のスーパーで買ってからなので真っ直ぐとは言えないが、必要最低限の寄り道であるのは確かだろう。
家に帰ると、まだアカネは帰ってきていない様子だったが、スマホはキッチリバッテリーを使い果たしてボタンを押しても反応しなかったので、早速急速充電に回し、その間に夕食を作ってしまうことにした。今日の夕食はホウレン草のお浸しとさっきも食べたコロッケ、それと肉みそ炒めに白米。割と豪華な夕食になるな。
夕食を食べるまでにはまだ時間があるので、復活したスマホの閲覧履歴を調べて、アカネが何を調べていたのかを追う。どうやら比較的近所のダンジョンまではたどり着けた様子だ。そのダンジョンは五十階層立てで、ここもダンジョンを踏破して消滅させるタイプではなく、国が管理して効率的に魔石やモンスターの落とすアイテムを拾いながら換金させる仕組みになっている。
探索者としての生活を保障するとともに国家戦略としてのエネルギー資源である魔石を効率よく産出させ、自然エネルギーの一種として使わせていくようにサイクルを回している場所でもある。
流石に国家の威信のかかる施設であることもあるが、踏破した探索者には厳しい罰が下されることもすでに法案化され、刑事罰として裁かれるようになっているらしい。違法なダンジョン踏破はちゃんと怒られる仕組みが整えられているらしい。迷惑系配信者がわざと踏破して盛り上げたりしても逃されないよう、かなり高額の罰金が科されるようだ。
調べものをしていると、玄関のほうから玄関を開けずにアカネが静かに入ってきた。初めて見た時は驚いて声を出しそうになったが、そもそも実体がないのだからドアを開けずに入ってくるのは当たり前なのだ。
「帰ったわよ。色々話を聞いてきたわ」
「話を聞いてきたって、立ち聞きでもしてきた感じ? 」
アカネは着いているわけでもない埃をパッパッとはらいながら、玄関からリビングにやってくる。
「ダンジョンを作った本人に話を聞いてきた、というほうが正確かしらね。ダンジョンは人工的……まあ、人ではなかったのだけれど、意図的にあちこちに作られ続けているのは確からしいわ」
それは……ダンジョンを管轄する省庁にとっては大ニュースなのではないだろうか。俺も今までダンジョンを作っている存在がいる、なんて話は小耳に挟んだことすらない。アカネ越しとはいえ、重大な秘密を知ってしまったような気がする。
ひとまずこの話は聞かなかったことにしよう。そこから話を聞きだしたらいつまでたってもダンジョンの話に追いつかないような気がするな。歴史的大発見なのかもしれないが、それを証明する手段も持ち合わせてないんだから、ほっといて次の話に行くことにする。
「うん、うん、それで? どんな話を聞いてきたんだ? 」
「ダンジョンの作り方……というか、どういう作法でダンジョンというものが作られているのか、というのをみっちり学んできたわ。これなら意外と早く、あなた専用のダンジョンというのも作れそうね。それに、何かものづくりって楽しいものがあるわね。しばらくは退屈せずに済みそうだわ」
確かにもの作りは楽しい。高校の文化祭でも、お客さんのための簡単な木造の門を作ったり、出し物の大工仕事は率先して受けるようにしてきた。これも隆介の仕切りのうまさもあったかもしれないが、出来が良かったと表彰されたこともある。
「ねえ、なんであなた専用のダンジョンが欲しいの? そこのところを聞いてなかったわ」
「俺、大学に合格できなかったら探索者になろうと思ってるんだ。その為の練習用……みたいなものかな。一応危険な所という認識はされてるらしいんだけど、俺の成績でダンジョン潜ってるってことになれば多分学校側から反対されると思うんだよね。そんなに学業成績がいいわけでもないのにダンジョンなんかに潜ってる暇があるのか、なんて言われそうでさ。だからこっそり潜れるダンジョンが欲しかったんだよ」
「なるほどね。後、もっと今更なんだけど……あなたの名前、まだ教えてもらってなかったわ」
「そういえば、そうだったかもしれない。俺は本条幹也だ」
「私はあなたが付けてくれた名前、アカネよ。道祖神の端くれとして、あなたの人生の筋道をつける手伝いをさせてもらうわ。ダンジョン作りはその一環ってことにしとけば他の神様にも文句は言われなくて済みそうだわ」
がっちりと握手したいところだが、そこまで実体化できる力はまだアカネにはないらしい。手を握ろうとしてすかっと空振りをした。
「実体化って結構神力を使うのよ。だから触れ合うことはまだできないけど、どうやらダンジョンを通して神力を得ることも可能らしいし、幹也がダンジョンに潜って何かしらの活動をしてくれることで私も成長したり触れられるようになるかもしれないわ。それまで頑張ってね、ふふっ」
◇◆◇◆◇◆◇
それから、俺とアカネの奇妙な生活が始まった。朝起きる時と夜寝る前にアカネにお参りをすることで、アカネが青白く光り、それによって神力を補充することができるらしい。信心は大切、ということらしい。
食事こそできないものの、朝と夕の食事はできるだけ一緒にするようになり、食事を作ったらまずアカネの前にそろえて出し、お供え物だということにしてお祈り、それからおさがりさんとして俺が食べる、というルーティンを繰り返すことでアカネの神力は段々溜まっていくそうだ。
アカネの神力は自分自身の維持以外にも、ダンジョン建設のための素材としても使われるらしく、俺が学校へ行っている間にダンジョンを作ってはああじゃないこうじゃない……と色々と作り替えたり、ダンジョンの主に会いに行って情報を聞きだしに行ったりと熱心にお仕事をしてくれている。
「最近幹也、付き合いが薄くないか? 何かあったか? それとも彼女でも出来たのか? 」
毎夕きちんと自宅で食事をとったり、毎日アカネの報告を聞いたりする時間を作るためにプライベートの時間を増やしたおかげで、隆介は何やら俺が怪しい行動をとっているのではないか? と勘繰り始めたらしい。勘のいい奴め。そういうところも含めてモテる要因なのだろうが、まさか自分専用のダンジョンを作るために頑張っているとは言えない。
「最近勉学に目覚めたんだ。できるだけ家で予習復習できるように頑張ってるところだ」
「お、進学に向けてようやく重い腰を持ち上げ始めたか。俺の説得がようやく実を結んできたということだな? 」
隆介が短い髪をかき上げながらポーズを決める。その瞬間飛び散る少しの汗や香りに、後ろで遠巻きに見ていた女子が湧く。これは……隆介のかっこよさに湧いているのか、それとも隆介×俺の腐った思考が展開されているのかどっちなんだろうな。
「まあ何にせよお前が何かに打ち込むという姿は悪くない。次の小テストの結果が楽しみだな」
「隆介に勝てるとは思ってないけど、追いつけるように精々頑張るさ。ちなみに結果で賭けるのはなしだぞ。やる前からわかってる勝負に乗っかるほど俺は無謀じゃないんだ」
隆介は自分の成績を鼻にかけている訳ではないが、周りを鼓舞させるために時々こういう勝負をあちこちに挑んでいる。そのおかげで隆介と勝負を受けた奴は間違いなく成績が上がっているので、賭けが良い物なのかどうかはともかく、学生全体に対していい影響を与えているのは確か。
こういう主人公系キャラクターのような奴は友達としても貴重。これからも精々利用されて利用していく利害関係の一致をみて、いい思いをお互いにしていきたい。
「で、今日ぐらいカラオケいかねえか? 女の子たちに誘われてるんだ」
「今日ぐらいは……そうだな、あまり付き合いが悪いのもお前に悪いが、俺が居ないほうが女の子たちのためになるんじゃないか? 」
「でもお前とのデュエットは盛り上がるんだ。精々俺の引き立て役になってくれよ。今日はちょっと狙ってる子がいるんだ。今はフリーだし、ここで見せつけて落とすところまで行きたいんだよな」
「お前なあ……まあいい、付き合うと言った以上二言はない、夕食の買い物は今日はしなくていいしちょっとぐらい遅くなっても問題はないかな」
「じゃあ決まりな。よろしく頼むぜ相棒」
ニカッと白い揃った歯を見せて俺に笑顔を見せる。この笑顔にあらがえないのは女子も俺も同じか。俺にそっちの気があればお突き合いを願っているところかもしれないな。
◇◆◇◆◇◆◇
放課後、隆介と連れ添ってちょっと家から離れた駅前までカラオケをしに行く。向こうは女の子三人、こっちは男二人。
「小林君だけじゃないんだ。四人でカラオケだと思ってたのに」
女の子の一人がそうつぶやく。ごめんな、余計なオプションついてきて。
「まあそう言わないで。その代わり、俺とこいつの神デュエット見せられるから。こいつ歌はうまいんだ、歌以外にも色々上手いところはあるけど、俺一人だと場が持つか心配だったから助っ人を呼んだんだ」
「本条です。今日はよろしく」
「鈴木です。こっちは前田と唐沢」
「今日はよろしくねー」
「よろしくお願いします」
さて、どの子が隆介が狙ってる子なんだ? おっぱいで差別する奴じゃないことがわかってる分だけ逆にわかり辛いな。精々女の子の相手はあいつに任せて、俺は曲と曲の間が出来て妙な空気にならないように精々歌い込むことにしよう。久しぶりのカラオケでもあるし、歌いたい曲結構あったりするんだよな。
そのまま五人でフリータイムでカラオケの部屋を一つとる。ここは持ち込み大歓迎のお店なので、飲み物やお菓子はあらかじめ隆介が用意していた。ちゃんとウーロン茶は入っていないという念の入れ具合。これは今度こそ長続きさせる気満々なのかもしれないな。
まあ、どっちにせよ俺の今日の仕事は添え物だ、精々隆介の機嫌を取りながら楽しませてもらうことにするか。少なくとも友情の代金としてお菓子代は出してもらってることだしな。食べ過ぎず喋り過ぎず、それでいてしっかり盛り上げ役を務めよう。
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