第201話:大学生活、始まる
引っ越しの日程が迫りつつも、講義の日程を引っ越しに合わせてずらしてもらうことは出来ないので、荷物が少ない状況でも講義は始まる。彩花のほうは昨日付けで女子寮に引っ越したことを伝えてもらったので、彩花の部屋にアカネを解き放つ準備をしておかないといけないか。今度の講義にこっそりアカネを連れてきて、彩花の部屋へ連れていってもらうことにしよう。
そんなわけで、彩花の部屋を案内しようとアカネを大学まで連れてきて、早めの時間に女子寮近くまで連れていき、彩花に引き渡す。
「アカネさん久しぶりー」
「彩花も久しぶりね。元気にやってるかしら。幹也が引っ越し終わってからはどちらにもちょくちょく寄らせてもらうからよろしくね」
「あれ、私の呼び名結城さんじゃないんだ。何か変わったことあったかしら? 」
そういえば、あれ以来お互い忙しくてアカネを介して会う機会はなかったから、急に結城さん呼びから彩花呼びに変わって驚いているようだ。
「そりゃもちろん、幹也の初めてをもらってくれた大事な人だからよ。幹也からも好き好きオーラがでているし、もはや身内と言っても過言ではないわ。だからこれからはちゃんと彩花と呼ばせてもらうわね」
「それは……嬉しいけど恥ずかしいわね。でも、受け入れるわ。アカネさん、これからもよろしくね」
彩花が照れつつも、受け入れられたうれしさを隠そうともせず、もじもじしている。文字通り体を張ったおかげでもある……というところか。
「じゃあ俺ここで待ってるから、部屋だけ案内しててやってくれ。さすがのアカネも大学内を下手にうろついて騒ぎになるようなことはないとは思うが、見える人が捕まえたりしないようにしないといけないしな」
「神様を掴もうなんてそんな不遜な輩には罰をくれてやるから良いわよ。それより、幹也の頭の中にちょくちょく出てきてた合法ロリ准教授のほうが気になるわね。キャラが被ると困るのよ、属性的に」
「別に同時に存在して言い合いやらなにやらをするわけじゃないから良いとは思うが……まあ、迷子にはならないでくれよ。道祖神が迷子では笑い話にすらならんからな」
「その辺は大丈夫よ。とりあえず彩花の部屋でじっとしていることにするわ。もっと外に慣れたら改めて幹也にくっついてその合法ロリ准教授のお姿を拝見しに行くことにするかしらね」
「はいはい、じゃあアカネさん、こっちよ」
「じゃあ、幹也はそこで待ってなさい。女の園なんだから間違いなくあなたが立ち入っていい場所じゃないわ」
「わかってるよ」
彩花に連れられアカネは女子寮の中へ入っていった。その間暇なので外で少し時間つぶしをする。スマホでポチポチとネットニュースを見ている間に、部屋の場所と間取りを教え終わったのか、結構早く帰ってきた。
「さあ、講義に行きましょ」
「アカネは部屋かな? 」
「とりあえず今日は大人しくしてるらしいから大丈夫だと思うわ。帰りに幹也についていくならその時また声をかけるってことにしたから」
「じゃあ、心おきなく授業に集中できるな」
◇◆◇◆◇◆◇
俺の通う大学では必修科目として全学生が一回生二回生の間に受けておくべき大学基礎科目と、それぞれの学科コースによって指定された科目、それから複数のコースから選択して単位とする副専攻科目の三種類に大別される。
とりあえず必修は取れるだけ取るとして、副専攻科目は大泉先生のエネルギー研究と中谷准教授のダンジョン経済学は時間が被ってないのでその二つは選択肢に入れた。他の専攻やゼミについては講義時間が合わなかったりコマ数が足りなかったりということで、前期の講義予定には入っていないことになる。
副専攻科目については本来三回生四回生向けの講義ではあるのだが、前に言った通り研究室を遊ばせておくのはもったいないという大学の都合から、特別に今年だけ一回生からゼミの副専攻科目にあたる内容の講義を受けることができるようになっている。
こっちとしては一回生二回生でみっちり知識を蓄えて三回生四回生で専門科目に取り組もうと思ってたのだが、とんだ都合狂わせが起きてしまった。まあ、仕方ないので従うことにするし、せっかくゼミを専攻するなら顔を知った相手のほうが色々とやりやすくはあるだろう。
そんなわけで週に3コマほど専攻科目が発生し、その専攻科目に向かうのだが……さすがに初日からウザ絡みしてくるような教授もそうそういまい。可能性としては、俺と彩花しか科目を取っていないということもあるが、それはそれでなんだかなあなあで話が進んでしまいそうなので不安でもある。
今日は一般必修科目の講義は午後からで、午前の2コマ目から専攻科目ということになる。1コマ目の英語を一通り終わらせて、頭の切り替えを行ってから大泉ゼミの前に立つ。
「中に誰もいなかったらこの半年は漫才で切り抜ける形になる可能性が高い。誰かがいたら救いだ。運命の一瞬だぞ」
「誰もいなくても、後から誰かが来るのを祈りましょう」
彩花も大泉先生のキャラをかなり理解しているのか、でもそれなら他のゼミを取ればよかったのでは……いや、出来るだけ一緒にいたいのは解るが、自分の目指すべきゼミを受講するのが一番いいんだぞ?
扉を開けて中に入ると、普通サイズの人間が椅子に座っていた。どうやら合法ロリ准教授ではなく、生徒のほうらしい。
「やあ、君らも一回生ってことでいいのかな? 」
大人しそうな同い年ぐらいの男がそこに座っていたので、おそらくはこのゼミの受講生ということになるのだろう。
「ああ、君らも、ってことは君もか」
「うん、朝日奈健っていうんだ。よろしくね」
大人しそうな口調で優しく話しかけてくる。第一印象は悪い奴ではない、ということがうかがい知れる。
「俺は本条幹也だ。よろしくな。良かった人がいて。俺達だけだったらどうしようかと思っていた所だ」
「私は結城彩花よ。よろしくね朝日奈君」
「二人ともよろしく。二人は他の専攻ゼミは受講しているのかな? もしかしたらそっちでも出会うかもしれないからさ」
「えっと……俺は中谷先生の社会システム・ダンジョン経済学科は取っている」
「私も同じく。後期は同じものを取るかどうかはわからないけど、とりあえずわかる講義を二つ取ってみた感じね」
「なるほどね。僕は渡辺学部長のモンスター生物環境学のコマを取ったよ。流石に一回生からゼミに入れるとはいえ、時間は有限だからね。手伝いぐらいしかできることはないだろうけど、それでも一回生から専門分野に携わることができるのはお得だよね」
どうやら一回生の内で、本来なら三回生から受けることになる講義を受けられて経済的にお得、というところが気に入っているらしい。その気持ちはちょっとだけわかるな。
「それで、朝日奈は何を基準にしてここを選んだんだ? ちなみに俺達はオープンキャンパスでお世話になったからというのもあるが」
「僕もその口かなあ。あとは先生がちっこくてかわいくて、見てるだけで癒されるのがいいよね。年上で大人で見た目が子供、最高だよね」
「それは、お前……」
「うん、僕、合法的な範囲で幼く見える人にとても性的興奮を覚えるんだ。だから大泉先生はかなりストライクゾーン真ん中と言えるね」
そっち側の人でしたかあなた。これは大泉先生には黙っておいたほうがいいな。その方が面白いしもしかしたら彼女の最後の春がここに訪れているのかもしれない。そう思うと馬に蹴られる前に微笑ましく外側から眺めている方が安心確実で安全だろう。大泉先生、頑張るんだぞ……
講義の時間が始まり、しばらくして大泉先生がテキストを何部か印刷して現れた。
「ふぅ、すまないねえ、少し遅れた。簡単なゼミの内容を記したものを冊子化して手折りするのに時間がかかってしまったよ」
「そのぐらい、最初の作業としてみんなでやれば早かったのでは? 」
「それもそうだが、初日ぐらいは講師らしいことをしなければならないからね。まあ、とりあえず出来上がった冊子を配るからそれを基に今日としばらくは講義を続ける、と考えてくれていい。必要な分はビデオや動画、そして……ちょっとした実験も今期はできそうだからね。それに期待してくれるといいよ」
俺のほうを明らかに見ながら、大泉先生が解説を始める。
「さて……私のゼミの研究はエネルギー環境学、ということになっている。ざっくりと言うに、ダンジョンから産出される魔石のエネルギーについて、どこまで搾り取れるのか、そしてどこまで効率的に運用、運搬、使用、そして廃棄できるか、という部分を担当している。現在有力なエネルギー環境学の分野での議題としては、魔石からエネルギーを取り出す際のロスをいかに抑えるか、という研究と、魔石からどれだけエネルギーを搾り取った状態で廃棄にまで持っていくか、という二系統が主流の意見となっている。当ゼミの場合、今の研究テーマは主に後者だな。魔石からどれだけのエネルギーを搾り取れるか、という研究が主だ。幸運なことに、現在魔石内のエネルギーを使い終わった魔石は産業廃棄物として処理されているため、産学共同研究の名の元で少量ずつではあるものの、エネルギー産出企業……要するに魔石発電所だな。そこから少しずつ袖の下のように流してもらっているため、研究材料には事欠かない。どんな形でもいいので、人が介在する形ではなく、できるだけオートメーション化した上でのエネルギー放出研究を行いたい、というのが私の研究テーマになる。ここまでで何か質問はあるかい? 」
「あの、この三人で当面半期を回していく、ということになるんでしょうか」
朝日奈が早速質問をしている。ここで三人しかいないと来たら、俺と彩花がいちゃついてる間に朝日奈も大泉先生とイチャイチャできるって寸法だろう。頑張れ朝日奈、その合法ロリの未来はお前の両肩にかかっているぞ。
「事前に提出してもらった履修表によると、この三人だけということになる。良かったよ一人もいないなんてことにならなくて。正直ほっとして少しちびりそうになった。履修生徒がゼロ人でこのまま話が進んでいく……となった場合、私の負担が大きすぎるからね。その分君達にも手伝ってもらうことになるだろうけど、その辺はよろしく頼むよ。後、私は見た目通りかなり年上だが、気楽に大泉先生と声をかけてもらえればいいので、そっちのほうも仲良くやっていこう」
にぱっという少女のような笑顔をしながら大泉先生が笑う。このゼミで取り扱う広辞苑で言うところの見た目通りの年上という単語の意味が書き換えられた瞬間でもあった。
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