第178話:教師から見た俺達
生徒指導室の前で襟元をただすと、ノックをして中に入る。中には、鬼沼先生と学年主任を含めた数名の教師が食事中だった。
「もうちょっとゆっくりしてきた方がよかったですかね? 」
食事中の教師に遠慮して出直しましょうかと質問してみる。
「いや小林に会ったからもう少しゆっくりしてくるかもしれないと思って先に食事を取っていただけだ。用件をとっとと済ませるほうが大事だからな。こっちの食事はいったん中断にして、話し合いをしよう。昼休みが終わるまでに話を聞いておきたいところではあるからな」
鬼沼先生が音頭を取り、こちらに向き直る。生徒指導室の長机にこちらは三人、向こうは学年主任と鬼沼先生、そして生徒指導部長と教頭まで参加している。なかなか豪勢なメンツだ。
「さて……質問したいことがいくつかあるが、まずメインの話をしよう。お前たちの成績の話だ。具体的にはテストの点数についてだ。お前たち三人は、小林はまあ元々成績が高かったからまず置いといて、本条と結城は探索者活動を始めてから、成績の向上が著しい。探索者活動をやっているにもかかわらず、というところが疑問点だ。なので、どこかから答案を入手してカンニングしているんじゃないか、という話が持ち上がってな。正直な話をしてほしいのだが、ダンジョン探索者となることでカンニングができるような技能やスキル、それから方法なんてものは存在するのか? 」
はじめからこちらを疑ってかかっている……というのは仕方ないところなのだろう。実際、その気になれば使える技能だってある。
「皆無、とは言いませんが、非常に限定的に使えるものは存在する、と言った方が確実でしょう。ただ、本当に限定的なので効果があるとは思えませんし、それをお認めになるのは難しい内容であると考えられます。その前置きをまず了解していただきたいです」
「ふむ、状況によってはカンニングができる、というわけだな? さあ、正直に言ってみろ。どんなカンニングをしたんだ」
生徒指導部長はカンニングをしている、と決めつけてこの場に列席しているようだ。では、できるかどうかはともかくとして不可能ではない可能性、という範囲でこっちの手の内を明かすことにしよう。
「まず、テスト問題を俺のある程度近くで一から全部読み上げて確認する必要があります。壁が一枚ある程度の……そうですね、丁度この部屋の外から普通の声で読み上げるぐらいのイメージを持ってください。そのぐらいの距離と声量なら、俺でも聞き取ることが出来ますので、後は問題と解答をひたすら声に出して読み上げてくれればそれを記憶して解答のカンニングとして行える、という具合ですね。そういうスキルがあります」
「そんなバカなことをする教師がいるわけないだろう。仮にいたとしても一人二人、それも他の生徒がいないことを確認してから行うはずだからお前の言い分は通用しないぞ」
「だとしたら、俺ができるカンニング行為はできない、ということになりますね。【聞き耳】といいまして、遠くや近くにある小さい音を拾い上げるスキルがあるので、壁一枚ぐらい、というのはそのぐらいの音の遮断なら問題なく聞き取ることができる、という意味でお伝えしたまでです」
鬼沼先生を含めて三人はそれじゃあカンニングの可能性は低いな、と口々に言い出す。しかし、納得がいっていない生徒指導部長は他に方法があるんじゃないか? と怒り出した。
「こっそり教員室に忍び足で入り込んで問題を探し出して盗み見ることぐらいはできてもおかしくないだろ! 探索者ならそのぐらいできてもおかしくない! 」
「教師全員分をまとめて教師がいないタイミングや、場合によっては鍵のかかった引き出しに入れてあるであろう問題用紙をそんなに簡単に目に映る範囲に置いてあったのだとしたら、そもそも問題の管理に問題があるのではないでしょうか。それに、そんな面倒くさいことをするぐらいなら素直にテスト範囲を勉強し直す方向に努力するほうが建設的であると思います」
「口答えするなよ。証拠は絶対あるはずなんだ。でないと、今年になるまでギリギリ三桁をうろついていたような生徒がいきなりトップに近い成績を叩き出すなんて可能性は本来あるわけがないじゃないか」
ふぅむ。どうやら真っ向から喧嘩を仕掛けてきている、ということで間違いないらしいな。なら、それなりの対応をさせてもらうことにするか。
「では、お聞きしますが。中間テストと期末テストとそれぞれ二回行ってきました。それのすべてで好成績を収めることが出来た俺と、期末以降成績を伸ばし始めた彩花……結城さんと、今回成績がちょっと伸びた隆介の三人の成績が伸び始めた時期がバラバラであることと、一学期の中間テストから引き続きひたすらカンニングをし続けたことになりますが、そのカンニングを見抜けなかった教師側にも問題があった、ということになりませんか。そんな恥ずかしいことを晒して先生方には何の得があるんですか? 」
顔を真っ赤にして怒り始める生徒指導部長と、鬼沼先生が俺と生徒指導部長の間に入ってぶつかり合いを制止しようとしている。
「本条もそんなに物事をエスカレートさせようとしないでくれ。佐々木先生も落ち着いてください。彼らがカンニングしたという証拠は何一つないですし、そもそもカンニングを疑っているのは佐々木先生だけなんです。落ち着いてください」
「探索者なんて野蛮で下等な職業をしている奴らがまともな方法で勉強している訳ないでしょう! 絶対何かしているはずなんですよ! 」
さすがにカチンと来たので、言い返すことにするか悩んでいると、教頭が口を挟み始めた。
「佐々木先生はまず、生徒を疑うことから離れてください。それができるまではしばらく口をつぐんでいてもらいます。良いですね? ここは悪魔の証明をさせるための裁判ごっこをする場ではないんです。あくまで、生徒の自主的な申告と思いつく限りの話で彼らが取った成績の裏付けを取るところです。彼らの言い分がもし本当ならば、佐々木先生にはそれ以上の疑いをかける以上、その分の責任を取ってもらうことまで考えさせてもらいますので、うかつに口をはさまないように注意してください」
生徒指導部長は佐々木という名前だったらしい。三年間気にしたことはなかったが、それはそれでお世話になることがなかった、という品行方正の良さを証明してくれるのでそれはそれでよし、としよう。
「三人ともすまないね。佐々木先生がこういってきかないので、今回集まってもらった形になるんだ。それで、ダンジョンに通うことと成績が向上することについて、何か関連する出来事やダンジョンでモンスターを倒し続けることで何かしら……そうだな、ゲームで言うところのレベルアップがあってそれで賢さが上がる、みたいなものはあるのかな? 」
ここは、正直に言ってしまうほうがいいだろうな。
「隆介、この間ダンジョン内であった、フワッと全身が浮き上がるような感覚を覚えてるか? 」
「ああ、なんか気持ちよかったあれか。あれがレベルアップということだよな? だから今回いつもより調子が良かったのかもしれないとは思うが、それだと結城はともかくとして、幹也のほうは説明がつかないんじゃないのか? 」
「そうだな。確かにそれはそう。なので、段階的に説明をするしかないんだが……まず、ダンジョン探索で賢くなる可能性があるかどうかで言えばある、というほうが正しいでしょう」
「そんなバカな。ただ野蛮にモンスターを倒しているだけだろう? それでどうして賢くなったりするんだ? 」
佐々木先生はハナから信用してないようだが、その言い分を無視して、他の三人の先生は興味深そうにこちらへ身を乗り出してきた。
「具体的に、そこまでの実力や効果を得るためにはどのぐらいの努力が必要になるんだ? 」
「具体的に数字で出せるものではないのは確かです。ただ、一定量のモンスターを倒すと、こう、背中から押し上げられるようにフワッと体が浮き上がるような感覚が流れて、それがいわゆるレベルアップという現象であることはわかっています。一言で言うと人間の格が上がった、という効果が得られます。効果範囲ですが、力は強くなりますし、素早くもなりますし、賢くなる……というより、脳をより効果的に使えるようになるのは間違いないですね。あとはちょっとずついい男やいい女になるらしいですね。周りから言われるだけなので自覚は難しいのですが」
「そういえば、本条を見て騒ぐ女子が増えたって話もあったな。それもレベルアップのおかげ、ということか? 」
「そうなるかと思います。あとレベルアップまでに必要な経験値……要するにどれだけモンスターを倒したかの数値には個人差があるようでして、俺や彩花……結城さんは比較的早めのレベルアップを見込んで複数回のレベルアップをすることが出来ましたが、小林の場合はかなり時間がかかりましたね。もしかしたら地頭や容姿によってレベルアップまでの差が大きくなるか、そこに差がある分だけ一レベルアップ分の効果が違うのかもしれません」
「そんな話は聞いたことがないな……この話、他の誰かに話をしたことはあるのか? 」
学年主任が心配そうにこちらに話しかけてくる。おそらく、この話が広まって全員ダンジョン探索者になり始めて最後の冬休みの追い込みをダンジョンでかけることになるんじゃないだろうか、と心配しているのだろう。
「ダンジョン探索者をやっているとレベルアップする、という話自体は前から存在している様子ですが、十八歳からでないとダンジョンには入れないということから、おそらくそれほど広く広まっていないか、受験に影響するまでに念を入れてダンジョン探索者をやっている人間が少ない、というのがあるんじゃないですかね。とにかくほかでは話をしたこともありませんし、この三人だけの秘密、ということにはなっています。もし他の誰かに聞かれたとしても、濁して伝えないようにはする予定です。今更始めたとしても、多分手遅れになって購入した装備品の代金分だけ損をする、という話になるでしょうから」
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




