第176話:期末テストは無事に終わり
期末テストの三日間の日程は早くも過ぎ去り、答案の返却を待つだけとなった。今日は何故か隆介と彩花が家に遊びに来て、反省会ではないが、お互いの詰まった場所を意見交換しながら、それぞれの解答を突き詰めていた。
「……というわけで問7の答えはアで合ってたんだと思うし、これが間違ってると前提条件である問7の2が達成できないんでこの二問落とすだけで5点減点になるところなんだよな」
「そこはちょっとした引っ掛けなんだよな。まあ、流石に引っかかったのはちゃんと読み込んでいない生徒だけのはずなんだが……」
「そこは私もさすがに引っかからなかったわよ。教科書斜め読みしてたら確かに引っかかっちゃうところかもしれないけど」
気になっていた問題は三人ともパスして、問題なく正解した様子だ。解答欄に書き間違えていなければ問題なく正解だっただろうということらしい。
「ところで、おはぎがあるわけだが食べるか? 頭をしっかり使っただろうし、糖分の補給は必要だ」
「大黒堂のか? 比較的あそこのはお高めのイメージがあるが、まあダンジョンで稼いでる分余裕があるってことだな。一つ貰おう」
「ちょっとまて、手を洗って……と、食べやすく少し分けておくぞ」
「なんか四つあるが……誰かが二つ食べるってことか? 」
一つはアカネのだから残しておかないとな。大黒堂のおはぎはアカネの好物でもあるし、三人で四つで一つも余らないのはどういうことだと後で注文が付く可能性がある。
「一つは後日俺が食べる。だから一個ずつで我慢してくれ」
ふと彩花が俺の顔を見るので、コクリとだけ頷いておき、これはアカネのだよ、と知らせる。それでわかってくれたのか、彩花はそれ以上何も言わずにおはぎを食べ始めた。
「んー、この控えめの甘さがいいんだよな。豆の味がちゃんとするのも大黒堂の良いポイントだ」
「甘いだけだと砂糖かじってるほうがマシなのよね。その点ここのはちゃんと食べ応えがあって、食べた気になれるのがいいところ」
「小さくせずに値段を上げていくのもポイントだよな。ステルス値上げをするぐらいなら堂々と値段を上げていく、というのも好印象だな。知らない間に小さくなっていってカロリーを減らされるよりはマシだ」
三人とも大黒堂のおはぎは好きらしい。というか、甘くてお腹に溜まる物なら何でも好き、という年ごろでもある。俺がたまたま金を持っていてアカネの分を含めてしっかり持ち帰ろうとしたときに後ろから隆介に声を掛けられ今に至る……というわけだが、彩花は元々家に来る予定ではあった。期末テスト前に貸した赤本の傾向と対策が終わったという話らしいが、どこまで本当なのかは解らない。
しかし、忙しい受験シーズンに二人で会うチャンスを作る口実にはちょうどいいと言えるだろう。なんだかんだで俺達も忙しい。彩花もあんまり俺の所へ入り浸っていると、勉強をサボっているんじゃないか、と言われそうになっているらしい。
多分ダンジョン用品を俺の部屋に置いてある都合もあるんだろうが、勉強そっちのけでダンジョンに籠っているんじゃないかという理由で何度かこっちへ来るのを止められそうになったりしているわけだが、その為の言い訳アイテムとしては赤本の貸し借りは重要なキーアイテムとなっている。実際に勉強もしているので効果は二重に抜群だ。
「さて……冬休みはどうするつもりなんだ? どっかへ出かけたりとかはするのか? 」
「寒いからヤダ。ダンジョンも行きたいとは思うが、いかんせん道中が寒くてな……ダンジョンに入ればそこそこというか、この季節からしたらあったかいから良いんだけど、その移動のためだけに大荷物になるのも嫌だし、かといって防具のままでは移動が寒いし、色々と不便が多い」
「贅沢な奴だな。そんなんで金が稼げると思っているのか」
「実際稼げるからなあ。移動の間の寒ささえ何とかなるならいくらでも仕事には出るんだけどな。やはりその辺の活動を考えると難しいところではある」
布団の中から出たくないとまでは行かなくても、家からできるだけ出たくない。隆介には表向きそう言うことにしてある。隆介は男の聖域であるベッドの下を覗いたりすることは絶対にしないという確固たる自信があるからこそ、そのベッドの下には俺専用ダンジョンのドロップ品でまだ換金していない魔石やスキルスクロール、銀貨などが二重底の下に隠されている。
見られたら一巻の終わり……というわけではなく、ちゃんと言い訳フォロー用のえっちなDVDも隠されている。本当に見られたくないものは見られたくないものの更に向こう側にある、という認識阻害の一種だ。それに加えて、俺が心底嫌がることはしない、という隆介の心理を利用した巧妙なトラップでもある。
また、隆介以外の誰かが俺の部屋を訪れてうっかりベッドの下を覗いたとしても本当に隠したいものがベッドの下の更に二重底の下、なんていうピンポイントの隠しどころを一発で探り当てるような奴がいた場合、そいつはよほど察知能力に長けたやつなのでそんな奴を部屋に招き入れた時点でアウト、という考えの下にある。
これ以上出し入れが面倒ではなくてきっちり守れる方法がここまで、ということでもある。本来なら現金を入れてある鍵付きの引き出しに入れておくのが確実なんだろうが、そっちには高級品として【精力絶倫】のスキルスクロールが二枚入れてある。これだけで引き出しの中身が確実に100万を超える金額になっているし、貴重品も貴重品だ。それに人に見られたくない、これもエロ本と大差がない内容のスキルスクロールになっているので隠しておくのが吉なのだ。
おはぎをそれぞれ食べ終えて手を洗い、最後の一つを冷蔵庫に入れたところで、隆介が用事は終わったとばかりに帰り支度を始めた。
「なんだ、もう帰るのか。俺におはぎをせがむだけせがんで帰るとはいい度胸してるな」
「まあ、期末テスト中イチャイチャできなかった分だけ二人で存分にイチャイチャしてくれ。俺は馬に蹴られる前に逃げ帰ることにする」
そういうとこっちの言い返しも聞かずにそのまま本当に帰ってしまった。
あとに残される俺と彩花。そして隆介がいる間ひたすら黙っていたアカネ。
「さあ、ひたすらイチャつくといいわ! 私はじっと見てるから! さあどうぞ、存分に好きな所まで! 」
いきなりとんでもないことを言い出すアカネ。
「見られながらする趣味はないんだが……」
「私は居ないようなものだから大丈夫よ。実際今日来たばかりのころの隆介には見えてなかったみたいだしね。その後は見えてたかもしれないけど」
「えっ? 」
アカネがとんでもないことを言い出して固まる俺と彩花。
「だって、急に顔色が悪くなってそそくさと帰り支度を始めたの、おはぎを食べてからでしょう? おはぎを食べる際、幹也が素手で触ってほんの少しでも体液がついた、なんてことはない? 私は目を開けて隆介のほうを凝視こそしてなかったけれど、隆介からの視線がなかなかに熱いものだったから私もちょっと年甲斐もなく照れちゃったわ」
思い出そう。確か手を洗って、それから手でおはぎをより分けて……ああ、たしかに、タイミング的に無ではないな。
「100%大丈夫という保証はないな。手を洗った時に俺の分泌物が少し残って、それがおはぎに乗り移ってそれを隆介が食べた、という可能性はある。アカネに触れられないのは当然としても、ちらっと見えるぐらいなら可能性はある。ただ、アカネが何の反応もしなかったから隆介は疲れてるのかと思って早めに言い訳して退散したってことか」
「あくまで可能性よ。幹也だって、お前昨日何か見えてたか? なんて明日問いただすつもりもないんでしょう? もし隆介から言い出して来たら、受験疲れを真面目に心配してあげると良いわ」
そうだよな……俺にだけ見えてないものが見えている。俺と彩花は意識的にアカネと間を合わせないようにしてるとはいえ、反応がないなら自分だけ見えている謎の女の子ってことになるし、お前疲れてるんだよ、と言われるだけで済む可能性は非常に高い。
「そうだな、明日会って何か言い出したらお前受験疲れでも起こしてるんだよ。ゆっくりぬるめの風呂に長時間入って疲労を抜くと良い、とでも伝えておくか」
「小林もタイミングが悪いところでアカネさんが見えたものね。本当に受験疲れだと言い切れなくもないところがなんとも。他のタイミングだったら、アカネさんも小林を信者に仕立ててここで皆で探索する、という流れになるのかしら? 」
「そうねえ、隆介のことは嫌いではないから、それも一つね。ただ、私について説明する以上はダンジョンについても説明しておくほうが平等ではあるわよね。そうすると、あなたたちが履いてる下駄の正体にも言及しなきゃいけなくなるし、黙ってて狡いぞ、と言われる覚悟が必要だけどそれはいいの? 」
「そうなったらもうぶっちゃけるしかないさ。ただ、それについて詳細に聞かれても答える術を俺は持たないし、出来るだけ多くの人にこの力を、と言われても無差別多数にダンジョンのことを教えるつもりはないからな……そういう意味では隆介には伝えないほうがいいかもしれないな。隆介がありなら隆介の彼女も、という話になりそうだしそこまで行くともう他人だ、キリがない」
彩花がそれもそうね……と納得し始める。
「さらに言えば、隆介の彼女もと言ったら隆介の彼女の友達に情報が漏れる可能性も考えないといけないからな。秘密はできるだけ少ない人数で、というのが大原則なんだから、やっぱりこのまま隆介にはお疲れだったんだよ、ということにしておくのが問題なさそうだな」
「そういうことなら幹也の好きにすればいいと思うわ。私自身も隆介が入るかどうかはギリギリのラインだからね。それが隆介の彼女も、という話になれば……そうね、隆介の彼女が幹也のディープキスを受ける気があるかどうかってのを入会条件にしておけばいいんじゃないかしら。良かったわね幹也。ディープキスをねだられる新興宗教の教祖様みたいになれるわよ」
「そんなのは一人いれば充分だよ」
「……というわけで、いつおっぱじめるの? 私は待ちくたびれているし早くしないと乾いちゃいそうなんだけど」
「その体つきで乾くとか濡れるとか言われると罪悪感しか……いや、でも大分成長してきたしそろそろありな気が……」
「……幹也? 」
ふと振り返ると、少し怒り顔の彩花がこちらを見ている。
「まあ、触れられない以上見るだけで楽しむ、という趣味もないからな。その辺は安心してほしい。こうやってちゃんと触れ合えないとお互い寂しいしな」
「あ、ちょっと、誤魔化したでしょもう! 」
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