第171話:インスタンスダンジョン対応
ミニオープンキャンパスの翌日、日曜日に彩花が遊びに来た。実際には遊びに来たわけではなく、オープンキャンパスの情報の共有と何があったかを軽く話すだけにとどめる予定だ。ついでに勉強もする。受験生だからな。受験までに、もうそんなに日が残っていないのに本気で遊んでいる余裕はない。
今日も円卓を囲みながら勉強をしつつ、オープンキャンパスであった出来事を話しては、適度なタイミングで相槌を打つ彩花。どうやらそれほど勉強に集中しているわけではないらしい。
本気の集中モードに入った彩花は周りの音を置き去りにして何も耳に入らないほどだからな。それに比べたら相槌を打っている分、話半分勉強半分というところだろう。
「で、結局またあの合法ロリ准教授のところで実験に付き合って終わりだったよ」
「随分気に入られてるのね。普通来年入ってきそうだからと言って推薦でもないのにそこまで相手してもらえる学生なんてそういないと思うわよ」
「それは確かにありがたいところではあるが、あのうざさが後四年続くのかと考えるとちょっとお腹いっぱいになるかもしれない」
「それは……まあ、人生我慢の時も必要ってことじゃないのかしらね。それが嫌なら今からでもよその地方のダンジョン学部みたいなところがある場所を受験してそっちの地方へ移住するしかないだろうけど……私としてはさみしいからその話は無しのほうがいいかなって」
彩花としても環境の変化はあまり好ましくないらしい。というか、彩花の学力なら例えばいきなり関西の大学に入学するような事態になっても、よほどの場所を選択しない限りは充分実力はあるものだと考えているが、俺だけ一人離れて受験するような話に見えているらしい。
「まあ……四年後後悔するか、それとも入ってすぐ後悔するか、途中で後悔するかの違いだからとりあえず今のところは考えないでおくか」
「そのパターンでも後悔するのは変わらないのね」
「もしかしたら他のゼミへ入り浸るようになって、縁が切れるかもしれないしそれに賭けてみるのもありかな。どうやらフィールドワークを行うかどうかはまだはっきり決まってなくて、三回生までに結論を出す、という話になっているらしいから、それまでは半分趣味でダンジョンにもぐることになるかな」
「生活費も稼ぎたいし、厳しいかじ取りを迫られそうね」
「実際の所、学生生活をしながらどのぐらい稼ぐことができるかはまだ未知数なんだよな。専用ダンジョンから魔石を引っ張り出して換金するにも限界はあるし、休みの日に一日潜ってごまかしをかけて……といういつもの手段がいつまで使えるかどうかも含めて考え直す時間も必要だな」
「今の所どうするの? 新しい部屋を借りて近くへ引っ越すの? 」
「そこも含めて考え中かな。どっちかというとアカネの都合によるかも? 」
「呼んだ? なんかそんな気がするんだけど」
隣の部屋からアカネが現れる。
「前も確認したと思うけど、入口を気軽に変更できるのかどうか、という話だ。もしかしたら大学に入学した時点でこの借家を離れて大学近くに部屋を借りるかもしれないからな。その際にダンジョンの出入り口も移動させられるかどうか確認しておきたくてな」
「その点は問題ないわよ。幹也が教えてくれるタイミングで場所を指定してくれれば、そう毎回好き放題入れ替えられるわけじゃないけど、数回ぐらいなら出来るわ」
「そうか。それは一つ安心だな。何時までも誰にも触れないダンジョンがここにあり続けるの勿体ないし、あっちにもこっちにもダンジョンを作ってくれ、と頼むのも悪いしな」
「まあ、入り口の位置を繋ぎ直すだけだからダンジョンを作り直すのとはちょっと違うのよね、私の場合は」
「そうなのか? てっきり新しい場所に新しいダンジョンを作ってまた一から……と言う形になるのかと思っていた」
「そこまで色々出来るほど私の神力も強くはないのよね。だから、異次元にダンジョンを作って、入り口を繋ぎ直すだけで後は今までの物を再利用するほうが無駄がなくて済むのよ」
「アカネさんのやり方だと、複数個所に出入口をつなげて移動することで短時間で行き来したりできるようにもなったりするのかしら? たとえば、ここと大学とをダンジョンでつなげて自由に行き来することで時間と距離を飛ばしたりはできるのかなって」
彩花が思いついたことを口に出してみる。ダンジョンでそれが出来るのならば、大学へ通うのも随分楽になるし、安い相場のここの家賃で通学時間を短くすることができるのはかなり大きい。大学の付近は学生向きになっているとはいえ、今の家に比べるとちょっとだけ高い。その分部屋も少し広いのだが、たしかにそれが出来れば便利だろう。
「今の所出来るか? と言われると不可能ではないわ。ただ、あまりそういうずるをするべきではない、とは思っているわ。妥協点がダンジョンの位置の移動ということで納得してもらえるかしら」
やはりずるになるらしい。まあ、たとえ俺と彩花の二人だけとはいえ、そういう行為をあまり頻繁に行うのは良くないらしいな。
「やっぱり、そういうルールみたいなものがあるのか。ダンジョンを作る際の注意点」
「あるわね。その中のルールの一つではあるわ。一つのダンジョンに複数の出入り口を作らないってのがあるのよ。だから結城さんが言うようなやり方はルール違反になるわ」
「やっぱり駄目かー。できれば便利だと思ったし、私も通学費用が浮くから便利だと思ったのになあ」
「そう簡単にはいかないってことね。ちなみに、同じルールの中には人を入れたままダンジョンの出入り口を閉じないってルールもあるわよ。だからダンジョンの入り口の付け替えで出口を好き勝手に移動させるのもダメってことになるわ」
ふむ……ということは、インスタンスダンジョンを攻略した時に力尽きて気絶していたりしている時も、ダンジョンは閉じないもしくはダンジョンから無理矢理押し出して消滅する、という形になるんだろう。
「ま、そんなわけだから幹也の新しい住処が決まったら早めに教えてほしいものね。私も移動させるには一つ面倒な仕事をしなきゃいけないから」
「わかった。と言っても、学業のほうは報告もさせてもらうし進捗確認はしていくから、ある日突然大学受かって家も決めたからここによろしく、なんて話にはならないと思うぞ」
「期待してるわ」
話し終わって勉強を再開してしばらくした後、突然市の防災無線が鳴り始める。
「こちらは、市の広報です。現在、市内の鍛冶屋町付近においてダンジョンが発生いたしました。該当地区の方々はダンジョンの出入り口に近づかないようにお気を付けください。また、探索者の方々はダンジョン消滅のためのご協力を宜しくお願いします。こちらは、市の広報です……」
どうやらインスタンスダンジョンが新しく発生したらしい。ちょうどインスタンスダンジョンの話をしていたのでいいタイミングではあるな。
「このダンジョン発生も予測の範囲内だったりするのかな? 」
「どうかしらね。案外予想されてて既に準備が行われてたりするかもしれないわ。それで、どうする? 行くの? 」
「俺はともかくとして、彩花は一度参加しておいたほうがいいかもしれないな。大事なインスタンスダンジョンの経験として体感しておくのは悪いことじゃない。それに、俺が換金するにもちょうどいい言い訳が出来るしな。そんなわけで俺は行くつもりだ。勉強するつもりではあったが、インスタンスダンジョンなら仕方ない」
「そうね、最近ちょっとご無沙汰だし、体をちゃんと動かさないと私も幹也にいい顔できない体型になっちゃうかもしれないし。適度な運動は必要よね」
「あら、行くのね。充分注意していきなさいね。後、ちゃんと水分補給もすること。喉カラカラで探索するのは結構ストレスになるわ。ちゃんと着替えて装備してから向かうことね。それと……駅とは逆方向にダンジョンができたみたいだからあなたたちが着替えてる間にちょっと調べてきてあげるわ」
そういうと、アカネはふよふよと家の壁を通り抜けてダンジョンができたらしい方向へ向けて移動し始めた。こっちもいそいそと着替えをし始め、いつもの装備を持ってダンジョン探索の準備を終える。
するとスマホから着信があり、確認すると隆介からのものだった。
「あ、幹也? なんかインスタンスダンジョンが発生したみたいだけど、行く? 」
「そのつもりだ。隆介も来るなら家で待つぞ」
「解った、準備してそっちへ向かおう。少し待たせることになるが……まあ、何とかなるだろう。流石に手持ち無沙汰で来ただけで何も仕事がなくて終了、ということにはならないはずだ」
「じゃあ、短めに会話を切って早く準備してきてくれ。こっちはもう準備が完了していつでも出発できるぐらいの勢いだからな」
「小林、急いでよね。来るなら来るで急いできてくれないと、せっかくの稼ぎ時がパーになってしまうわ」
「結城の声がすぐに聞こえるってことは二人勉強中だったってところか? それじゃあ余計に急がないとな。合流して詳細を話そう」
隆介からの電話を切って、家から出て外で待つ。外は冬が始まる前のほんのりとした暖かさに包まれていて、服装のせいで暑いとか寒いとかそういう可能性もなく、丁度いい感じ。これなら数分どころか二十分ぐらい待たされても許されるぐらいの気温だが、今は時間勝負のインスタンスダンジョンダッシュ大会の会場にすらたどり着けていない現状だ。隆介とアカネの合流を待って、方向を教えてもらいながら向かわないと時間が勿体ない。
すると、二分ほどしてアカネが、そしてそこから更に三分ほどして隆介が合流した。よほど急いできたのか、既に少し汗をかいている隆介。
「本当に急いできたんだな。あんまり無理しすぎて中で活躍できないなんてことはないだろうな? 」
「そうなったら情けなすぎてどうしようもなくなるから、今日の稼ぎは二人に譲ることになるだろうな。まあ、移動中に体力を回復させていくさ。で、ダンジョンはどっちだ? 広報の連絡では鍛冶屋町って行ってた気がするが」
アカネのほうを見ると、アカネがコクリと頷いている。方向はバッチリらしい。
「場所は把握済みだ、こっちだついてこい」
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