第166話:構内散策
教えてくれたお姉さんたちにお礼を言い、食堂を離れる。そのまま後ろをついてこられるかとも思ったが、流石にそこまでのことはしないらしい。ただ、熱視線を送られていたことは間違いない。このテクニックはほどほどにしておこう。
さて、ダンジョンは……こっちだな。構内案内のパンフレットにちゃんと記載されていた。危ないから近づくな、とも書かれていたが、こっちは通い慣れたダンジョンでもあり、装備がないのはともかく、探索装備をこっちのダンジョンで潜る場合どこに置いておくべきか……いっそのこと、大泉准教授のプライベートスペースにフィールドワーク用として置かせてもらうという手もあるか。
たどり着いたダンジョンは駅前ダンジョンと雰囲気が似たようなものだった。どうやらダンジョンを見に来たオープンキャンパス参加者もいるらしく、ダンジョンを前にして記念撮影こそしているものの、実際に中に入っているわけではなさそうだ。
こっちのダンジョンは掃除とか溢れ防止とかどうやってるんだろう。今年からダンジョン学部ができるということは、それまでは外部から探索者を招いてある程度の掃除を行っていたことになる。それをダンジョン学部がある程度受け持つような形になるんだろうか。
ここにもギルドのような施設があり、換金所も設置されている。大学構内にあるということで、実学研究の場所でもある、ということなのだろうか。
「やはりここに来ていたのだねえ、興味を持ってここに居るんじゃないかと期待していたよ」
さっき食堂で振り切ったはずの声がする。振り返ると合法ロリがアホ毛をぴょこんとさせながら解説を始めた。
「多分君の考えている通りだと思うよ。ダンジョン学部にはダンジョンのある程度の清浄化も期待されている。私としては貴重な研究時間を取られてしまうのはデメリットだが、大学構内からモンスターが漏れ出して周りに迷惑をかけるというのも大人としては困る話だからねえ」
「大人……? 」
「そこに疑問を持つでないよ。年齢上私は立派な大人だからねえ。体のほうは立派とは少々……いやかなり……みき太君がいじめるよう」
「俺まだ何も言ってませんよね? 自縄自縛で精神的に落ちていくのはやめてもらっていいですか」
「まあ、それはともかくだ。ある程度の手伝い……浅い層のモンスター掃除ぐらいなら、探索者サークルの力も借りて毎日というわけではないが定期的に掃除はされているらしいのでそこは安心してもいいところだよ。探索者サークルにも学部から少し補助を出して、より性能の良い装備で探索を進めることも可能にはなるだろうし、ダンジョン学部にだけ負担がかかることはないとは思うんだけどね」
まあ、大学のサークル活動は自由にやっていいものだろうし、各個人の収入にもなるだろうし学費の足しにできるならそれもいいだろう。なにせ、腹が減っても三十分我慢してダンジョンに潜れば学食で一食分の食事が腹いっぱい食えるのだ。そういう意味での学生の生活を助けるためにもここにダンジョンがあるのは生活補助みたいなものなんだろうか。
「まあ、君もその様子だと入ってみたいという気持ちがあるんだろうが、危険がないように頼むよ。学内で今の所ダンジョンからのモンスターの溢れ出しの記録はないそうだし、重傷者が出て一騒ぎあった、という話も今のところ見られないが……君は相当潜ってるほうだったね。今はどのぐらいまで潜れるのかな? 参考までに聞いておこう」
ダンジョンの中には興味がないと言いつつ、オープンキャンパスの暇つぶしなのか、俺がどれぐらいできるか、という点については評価してみてくれるらしい。
「一応三人パーティーで、ですが十二層までは潜りましたね。三人とも同級生で、先日レベルアップも果たしました」
「ほう……レベルアップをねえ。それはなかなか興味深いねえ」
大泉准教授……もうこの先心の中では合法ロリでいいか。彼女がレベルアップという言葉に反応した。
「レベルアップという現象が発生するようになったのは地球上にダンジョンができてから、という点について君はどうとらえているんだい? 見解を聞きたいねえ」
「それは何故、ダンジョンでモンスターを倒すことでしかレベルアップしないということについても含めて、ということでしょうか」
「そういうことになるねえ。ダンジョンという不思議な現象が起き始めて、その後でダンジョンで一定量頑張ってモンスターを倒すとレベルアップしていき、そしてレベルアップしたものはその分だけ人間としての格があがる……そして、身体的にも精神的にも、頭脳面でも優秀になっていくという。さて、みき太君は何レベルアップしたのかな? 」
正直に話すと大問題だろうから、ここは素直に一つだけ、と言っておくのが安牌かな。
「まだ一つだけ、先日上がったばかりです。ただ、実感としてはレベルが上がった後のほうが大変かもしれませんね。全力で、というイメージの強さが変わってしまうことになりますから、頭のほうも体のほうも、自分の精一杯の力のラインがずれてきちゃうんですよ。それを実感して修正して、その上で身体や頭を使いこなすイメージを作り直さなければいけません。中々にこれは面倒くさいですね」
「なるほどねえ。上がったはいいけど使い切れない力はただの暴走と同じ、というところかな。で、賢くはなったのかい? 」
「なりましたね。現状のいくつかの模試の結果でもここのダンジョン学部にはほぼ確実に入れるだけの実力は身についている、と思っています」
「ほほう、それはそれは。それだけレベルアップによる恩恵が大きいとなると、ダンジョン探索者の年齢制限も下げる可能性が出てくるというところかもしれないねえ。なにせ、受験の結果に左右されるのが勉強時間ではなくダンジョン探索してモンスターを倒した効率で決まる、という世界に変化するかもしれないんだ。それを見越して探索者の資格取得年齢を下げて十五歳にしておくべきではないのかとか、色々議論の余地はありそうだねえ」
「そこは……本末転倒になってしまうのではないかと思うのですが。高校卒業して本格的に探索者の道に進むのが中学卒業して探索者の道へ進むかどうかの違いになりますし、さすがにまだ15歳の若さに人生の選択をゆだねるのは厳しいのではないかと思います」
「それは国によるかな。例えばドイツでは10歳で自分の人生の先行きを決めるように決定されているからね。あっちでいろんな仕事のシミュレータゲームが人気なのも、自分の人生では味わえない仕事を体験して、他の仕事の大変さを味わって自分の進路は間違っていなかったんだ、と納得させるための施策であるとも言われているぐらいだからね。年齢で左右されるというのは言い訳にしかならないんじゃないかな」
そうなのか……一つ勉強になった。しかし、そうなると中卒で探索者になってレベルを上げてから大検を取って大学に挑む、という選択肢も生まれることになるのか。それはそれで選択肢の幅が広くなっていいんじゃないだろうか。
「そういう意味では、ダンジョン探索者になってレベルを上げてから、再度自分が学業を修めたい、と考え直して再び学生に戻ることもできる、と判断することもできるようになる、とお考えなのですか」
「それもありだと思うねえ。何にせよ、そのダンジョンのおかげで私も飯を喰えているんだ。ありがたみは充分に感じているところではある。後は研究が無事に進んでくれることを願うのみだがね」
「その様子だとかなりご苦労されてるみたいですね」
「そりゃ、基礎研究なんてものは積土成山しつつ、三歩進んで二歩下がるものだ。ストレートにそんな簡単に進んだりはしないさ。そこまでスムーズに研究が進むなら、今頃私はイケメンを侍らせてナイトプールでぷかぷかと浮んでいるころだろう。そういえば、会わないうちにまた一段とイケメンになったが、それもレベルアップの恩恵かい? 」
……これは、レベルアップを複数回行っているのではないか? という引っ掛けの可能性があるので迂闊に返事をするのは良くないだろうな。危険が少なそうな言葉を選んで対応しよう。
「自分ではよくわからないのですが、たしかにレベルが上がる前に比べるとちょっとカッコよくなったかも、とは言われましたね」
「レベルが上がったら私も背が伸びたりしないだろうか。もっとスラっとした背丈のあるスレンダーな女性を目指してみたいところなんだがね」
「そのままの姿で可愛い系ルートをひた走る可能性もあるので何とも言えないんじゃないですかね。そればっかりは実際にレベルアップを体験してみないと」
「それもそうだねえ。やっぱりフィールドワークって大事だと思うかい? 現場の人間としての意見を聞いてみたいものだ」
ふむ、フィールドワークが必要かどうか、か。確かにやるかやらないかで言えばやったほうがいいのは確かだが……
「まず、魔石にしてもドロップ品にしても、拾うためにどれだけ危険な真似をして手に入れてきているのか、というのは知っておくべきであるとは思います。その上で、という話でしたら研究内容によって左右されるとは思いますね。ダンジョン学部だから全員が必修でダンジョンに潜って大変さを知っておくべき……とまでは思いません」
「ふむ、それなりに理由がありそうだね。続けてみてくれたまえ」
「ダンジョンに潜ると一口に言っても、装備をそろえる必要がありますし、中古品であふれていると言っても、講義のために必要な出費が大きすぎます。まずそこが一つですね。俺も最初のダンジョンアタックをするための費用捻出にはかなり大変さを味わいましたから、そこでくじけて講義に参加できない、という学生が居ないと言い切れないのがあります」
「確かにそうだねえ。中古品をお互い使い合ったり、学部として保持しておく、という点でレンタルできるようにしておくというシステムはありかもしれないが、今すぐ来年からそれを始める! という形ではおそらく難しいだろうね」
「後は人数的な問題や、性格としてモンスター退治やそれに準ずる行為に向いているかどうかという問題もあります。研究には向いているけれど戦闘には向いていない、という人材はいくらでもいるでしょうし、そんな貴重な人材をダンジョン内の怪我や事故でちびらせてしまうのはもったいないでしょう」
一通り思ったことを口にすると、足元に転がっていた小さな石を拾って投げて、ふーん、という顔をした合法ロリが納得したように頷いた。
「なるほど、参考にしておくよ。さて、そろそろ昼休みも終わりだ共に戻って同伴出勤と行こうじゃないか。午後のダンジョン学部の話をしっかり聞いていってくれたまえ。私も参加するのだから退屈はしないはずだよ」
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