第164話:ミニオープンキャンパス
期末テストが近づきつつあるが、その前にオープンキャンパスの日が来た。今回は彩花は塾の都合で参加せず、俺一人の参加だ。
土曜日一日かけて行われるが、前回のように学校全体を使う形ではなく、一部の校舎やゼミを開放してこじんまりとした内容でイベントを行うらしい。対象は三年生だけでなく一年や二年に向けても行われているらしく、来年入るとしたら学生として参加の手伝いぐらいはさせられるようなそんな雰囲気だ。
既卒者や在学生が居ない俺が狙っているダンジョン学部については、既に内定して実際に研究しているゼミの教授が……ああ、なんかうっとうしい顔が目に浮かんできた。またいるのかなあの人。できればもう一人の教授……中谷准教授か。あの人がいてくれると非常に助かるし、話の内容も解りやすく何をすればいいのか、というのが明確に見えてくる。
大泉准教授のほうは、将来性のあるテーマと実験、そして実用化に向けた取り組み姿勢は評価できるが、あのロリボディとねっとりした話し方、そして鬱陶しさみたいなものが先に来る人間性を考えると、素人にはお勧めできない上級者向けの教師ということになるのだろう。
さて、はたして今回のオープンキャンパスではどのような話が聞けるのか楽しみだ。早速家を出て、大学まで行ってこよう。
大学までは駅前ダンジョン……つまり駅から急行で四十分、そこから徒歩で十五分と、ドアツードアで数えると一時間半はかからないがちょっと遠め、というポジションにある。近くに家を借り直して通うかどうかは悩ましい絶好の距離感になるな。まあ、実家でもないんだから近くに借りられるところがあるなら借りて、そこにダンジョンの入り口も移動させてもらうと一番俺にもアカネにも都合がいい、ということになる。
睡眠時間をどれだけ取れるかがキーポイントになりそうなこの通学時間を耐えるか、それとも同じぐらいの金額で借りられる宛てがあるならばそっちに借り直す、という手もある。彩花も同じく近くに家を借りるなら、同棲してお互いに費用を出し合うというのも考えられるだろう。
電車の中で揺られつつ、今日のオープンキャンパスで得られそうな情報を考える。どんな人材が欲しいか具体的に教えてくれるのか。どんな人材でもいいからとにかく今は新しい人材が欲しい、ダンジョンに携わるのは学部に入ってからでいい、という話にはなるだろうな。なにせ、誕生日の都合によっては合格が決まってもまだダンジョンには入れない、という人だっているのだ。
誕生日の早い遅いでそこを仕分けすることは大学としても不本意だろうし、それで優秀な学生が居なくなってしまうのはマイナス面しか生まないだろう。だから、入学した時点でヨーイドン、であることは考えられる。
それ以外に仕入れられる情報とは一体何だろう? 近所にある美味しくて安い飯屋なんかの情報は必要そうだな。自炊派だとしても、自炊する時間がないかもしれないしダンジョンに潜って収入をある程度稼ぐ以上、自炊の時間を探索に当てて換金し、その分で飯を食う必要もあるだろうからな。
後は教材を扱ってる古本屋があるかどうか、なんかも重要かもしれないな。新設学部なので過去の教本はないが、ダンジョン学部に近い他所の大学の学部の教科書なんかを扱っている可能性はある。それに共通教養科目はあるはずなので、そこの過去問やチェック項目が記された古本は手に入れたらそれは儲けものだろう。
後はあんまり寄り付かないが、遊ぶ場所やショッピングを楽しむ場所なんかがあればより良いが、果たして存在するかどうかはまだよくわかっていない。そういう相談も受け付けてくれるんだろうか。
ぼんやり考えていると、目的地の一つ手前の駅まで来た。もうすぐか。ここに来るのは二度目だが今後は何度も通うか、大学近くに引っ越して大人しくしている可能性もあるからな。願わくばウォークインクローゼットがある部屋が空いていると良いんだが、そううまくいくのかな。
◇◆◇◆◇◆◇
大学に到着した。バスは使おうかどうか迷ったが、丁度行った後だったので健康のことも考えて歩いて大学までたどり着いたが、次のバスを待っていても待っていなくても、ほぼ同じタイミングで到着できるようになっていたらしい。朝は歩かなくてもちゃんとバスがある、という学びを得ることは出来た。
そして片道分バス代が浮いたのも確か。ダンジョンで普段歩き通している分だけ十五分ほどのこの歩いている時間も苦にはならない。雨さえ降っていなければ毎日歩いて健康を管理していくのも悪くないかもしれないな。
大学の入り口でオープンキャンパスの場所を教えてもらい、そちらに行くと確かに前回ほど大々的に賑わっていないが、受付と整理番号の確認をやっていたので手続きを済ませて講堂に入る。どうやら最初のオリエンテーションは全学科共通らしい。ここも前と同じかな?
人は……そこそこいるな。満員御礼とまでは行かないが6割から7割ぐらいは埋まっている感じだ。みんながどこの学部を志望しているのか、というところまではわからないが、ライバルは少ないほうがいいのでみんなほどほどに散っていってくれると嬉しい。後、この中に三年生で同じくダンジョン学部を志望する学生も居るだろうから、今のうちにお互い知り合っておくのも大事かもしれない。
しかし、今知り合って実際に受験して、本当に来るかどうかもわからないんだよな……それはちょっと待った方がいいか。
周りが俺を見てひそひそと噂をしている。【聞き耳】を立てるまでもなく、俺の顔面のお出来がよろしゅうございますな、あのお方はどこの学部に入られる気なんですやろ、といった感じの話が漏れ聞こえている。
そうだ、後で彩花にも教えられるよう録音モードにしてオープンキャンパスの様子を記録しておくか。こうしておけば後で話を共有できるぞ……っと。
やがて時間になり、オープンキャンパスの説明が始まった。今日の予定はまず全体説明があり、その後共通科目や教養分野への話、そしてそれが終わり次第施設説明を経た後で学食等周辺で昼食。午後からは各学部各学科での専門分野のお話し合いが始まるらしい。
つまり午前中はあの准教授に出会わなくて済む、ということになるのだろう。しかし、俺が用事があるのもまた午後になるわけで、できるだけ情報を仕入れておくためにもあの准教授のゼミは……考えてみれば、将来性という意味では考えうる限り現状社会貢献度の高い研究であることは確か。
なにせ、現在ゴミとして扱われているエネルギーを使い切った魔石くずから更に発電エネルギーとして絞り取ることができる。MOX燃料ではないが、廃棄物を廃棄物ではなく、完全に使い切って本当に最後の最後まで搾り取ることは出来るという意味では期待度の高い話ではある。きっと社会的にも意義ある研究の一つなんだろうな。
しかし、あのちょっとうざったい性格はなんとかならないものか。ならない……んだろうな。すべての人にニコニコ対応して面倒見のいい人よりも、私生活や普段の接し方こそ問題があるもののきちんと課題に取り組み解決していける人物のほうが大学として必要な人材と言えばそうなのだろう。
「……これで、本校全学部の簡単な説明を終わります。各学部でどのような活動や勉強をしているかについては、午後のオリエンテーションでそれぞれの学部に立ち寄ってもらって、そこでの話になると思いますので、どうぞご自由に参加してください。続きまして、本校の学生が食事を始める前ではありますが、早めに食堂を案内しますので、食事する場所を考えてなかった方や学食に期待していた方はお早めに食事を済ませて午後のオリエンテーションに向かっていただけますようご協力願います」
考え事をしていたら全体オリエンテーションが終わってしまった。大事なこと聞き逃してたりしないよな? この後構内を見回って昼食、というところだけは抑えているが後のことは少し頭から抜けてしまっている。これもあの合法ロリのせいである。後でもし会ったら文句の一つでも言っておかねばならないな。
そのまま前回案内されたまま構内を回り始め、学食に通される。確かこの間は胃に重たさの残るこってりカレーを食したんだったな。今日は何を食べようか……鶏南蛮定食が500円で食べれるのか。今日はこれにしようかな。
食券を買ってカウンターで手渡し。しばらく待って、揚げたての鶏にたっぷりのタルタルソースがかかって、キャベツもしっかり盛り付けられていてスープもついて、ご飯もしっかり大盛で出てくる。これで500円か。個人で作るにはちょっと真似できない価格だな。
よし、しっかり食べて午後の学部訪問に向けてしっかりとエネルギーを蓄えて挑もう。しかし、これだけ量が多いと満腹になりそうだ。眠気が来なければいいんだが……
「おばちゃん、いつもの! 」
「あいよ! 今日も元気だねえせんせ」
「私は元気と研究熱心さが取り柄だからね! 今日も午後からは高校生の相手をしなければならないんだから、しっかり食べて大きくならないといけないね! まあ、この年まで伸びなかったからもう今更手遅れな気がするんだけどね? 」
聞き覚えのある声がする。そして、そっちを向いてはいけない気がする。気が付かないふりをしてそのまま食事に集中して、さっさと食べ終わったら休憩がてら構内を散歩して今のうちに学内に慣れておこう、そうしよう。
「おやー、見慣れた学生が居るねえ。久しぶりだねえ。元気だったかい? 」
聞こえない聞こえない……ちっこいのが俺の目の前を横切るが、気づかないふりをしておく。
「なんだい、私に対して冷たいねえ。あんなに熱い思いをしてくれたというのに私に用事が無くなったらポイかい? 寂しいなあ」
「熱い思いをしたのはコーヒーのせいでしょう。それに、人聞きの悪い話し方をしないでもらいたいですね。用事はこれからできるかもしれませんからその時はよろしくお願いしますよ」
顔を上げると、正面の机に唐揚げ定食を置いて、夏休みのオープンキャンパス以来久しぶりに再会した大泉准教授がいた。
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