第162話:自宅ダンジョンの改築について
「幹也、ちょっと相談があるのだけれど」
ある日曜日、勉強中にふとアカネに呼ばれる。なんだろう、とリビングにまで出てきたついでにコーラを出して、飲み始め、ふぅっと一息ついたところでアカネの話を真面目に聞くことにする。
「して、相談とはなんだ? ダンジョンの話か、それともまた祭壇の様子でも見に長期で行くのか、祭壇が汚れてるから掃除しに来てほしいとかか? 」
「祭壇のメンテナンスは相変わらずやってくれている人がいるから問題ないわ。今日はそこのダンジョンの話よ」
ふむ、クローゼットの中身のことだな。なんだろう、改築予定が決まったとか、どこまで改築するのかとかそういう相談だろうか。
「とりあえず十五層までは作っておいたのだけれど、幹也的には二十層ぐらいまであったほうがうれしいのかしら? 」
何層まで作ればいいか、という話題だったらしい。何層まであればうれしいか、か……
「そうだな、そういう意味では二十層まであったほうがキリが良くてうれしいかな」
「それはワープポータルがそこにあるから、ということよね? 」
確かに、十層おきにワープポータルがあるのがダンジョンの基本というか備え付けの機能であるならば、二十層にも同じワープポータルが出来るはずだ。そこまでは行きたいな。
「それもあるが、十五層の中ボスと二十層のボスもまだ俺にとっては未知の領域だからな。それらを見るまではまだちょっと時間はかかるだろうが、いずれは挑んで勝ってみせるつもりではある」
「そ、ならいいわ。このまま引き続いて作っていくことにするわね」
「はい、よろしくお願いします、アカネ様」
「素直でよろしい。ちなみに二十層のボスはすごく美味しいらしいわよ。楽しみにしてたほうがいいんじゃないかしら」
「美味しいのか……どんなモンスターなのかなっと」
早速スマホでダンジョンの二回目のボスの情報を集める。すると、ダンジョンによってそもそもボスモンスターが違う、という結果が表示されている。
ある程度法則的なものはあるらしいが、ダンジョンボス、ダンジョン中ボスとして配置されるモンスターには強さによって法則性があり、たとえば五層中ボスであったオークチーフも、場所によってはハイコボルドというコボルドチーフの強化版だったり、ケイブストーカーの上位種であるナイトストーカーという蜘蛛だったり、あるいはゴブリンロードというゴブリンの強化種であったりと様々だ。
十層のボスにしても、オルトロスである場合とリザードマンの強化種、陸生リザードマンであるサンドストーカー、そしてゴブリンキングやオークキング……というそれぞれ違うパターンがランダムで存在しているらしく、一番厳しいダンジョンの場合、ゴブリンロードとオークキングというパターンらしい。
そういう意味ではこのダンジョンは優しすぎず、厳しすぎず、そしてダンジョンの狭さから考えてもちょうどいいぐらい、というところなのだろう。
十五層の中ボスも複数パターン用意されていて、十層のボスであるオークキングやゴブリンキングが出てくる場合もあるらしい。流石にそこまで弱く……いや、会ったこともないのに弱いと決めつけるのは危ないな。それは自重しないと舐めた真似晒して怪我して帰ってくるでは爺ちゃんにもアカネにも、彩花にも合わせる顔がなくなるからな。
モンスターの出現パターンから、酷似したダンジョンを見つけ出す。すべてのダンジョンが同じモンスターで構成されている訳ではないし、モンスターや場所によっては形状や風景も変わるダンジョンだ。すべてが同じというわけではないが、少なくとも駅前ダンジョンはここのモデルになっていることから、参考にするにはちょうどいいのだろう。さて、駅前ダンジョンの情報を集めていくとするか。
◇◆◇◆◇◆◇
調べた結果、駅前ダンジョンでは三十層辺りまでの情報が調べられて公開されていることが分かった。それ以降は特別な許可を受けた探索者でないとそもそも入り込むことが制限されているらしい。
どうやって見分けているのかはともかくとして、三十層までは駅前ダンジョンはある。つまり、このダンジョンも三十層までは問題なく実装できる……いや、もしかしたら三十層以降もダンジョンの管理者に教えてもらって作ることができるかもしれないということか。それは期待が高まるな。でも、換金できないものが増えることについてはどうすればいいんだろう。まあ、その時考えればいいか。
調べた結果だが、十五層の中ボスはケンタウロス、二十層のボスはミノタウロスで、それぞれ肉をドロップするらしい。馬肉と牛肉か。できれば地面の土が付かないようにパックになってくれていればいいんだろうけど、オーク肉のドロップ風景を見る限りそこまでの配慮はされてないんだろうな。
ちなみに道中に出てくるモンスターは、十三層がカエル型のモンスター、バブルフロッグ。十四層がレッサーじゃないトレント。十五層が猫の妖精と言われているケットシーということらしい。どれもどこかで聞いたことがあるようなモンスターであるが……バブルフロッグはちょっと想像がつかないので動画で調べる。
バブルフロッグは頭から食いつきに来て胃の中で溶かそうとしてくるヌメヌメダイレクトアタックをしてくる物理専門のモンスター。舌に突起があるとか特殊な攻撃方法があるとかではなく、とにかく胃袋に探索者を収めて溶かそうとしてくるモンスターらしい。ヌメヌメするので、捕まった瞬間に舌を切り落とすか本体を倒さないとその後の探索が大変なことになると注意されている。
十四層のレッサーじゃないトレントも、複数の太い蔓をまとわせ、切っても徐々に再生しながら蔓をグルングルン振り回しながら攻撃しに来るらしい。こっちも樹液を落とすが、レッサートレントの樹液よりもより濃厚でゼロカロリーの甘味として確固たる地位を築いているらしい。
そして十五層のケットシーだが、こちらは打って変わってマジックミサイルという誘導型の魔法を打ち放ってくる。魔法自身を切り裂くことで回避はできるらしいので絶対命中というわけではないらしい。魔法を切り裂く……というのも意味はわからない。
しかし動画で見る限り、たしかに魔法という物理的な現象を手持ちのぱっと見普通の剣で切っているので、どうやら他の魔法と違ってマジックミサイルは物理的な作用のある魔法らしい。魔法をぶつけられるというより殴られるという感じの魔法なのだろうか。
マジックミサイル……と、どうやら物理系魔法というよくわからないジャンルの魔法らしい。十五層というキリの良いところでドロップする魔法でもあることで、十五層の中ボス周回をするついでにケットシーを倒し、スキルスクロールを手に入れるというのも探索ルートとしてよくある話らしい。
こっちとしてはまず十三層のモンスターを潜り抜ける所から先にやらないといけないからな。もしかしたら十二層でスキルスクロールをある程度集めてスキルレベルを上げてから戦うほうがいいのかもしれないが、そのためにはやっぱり専用ダンジョンでしばらく籠ったほうが良さそうだな。
十五層に潜るにはまだまだ経験も試行回数も必要そうだが、あんまりまごまごしているのもよろしくないし、一人で潜ってどこまでできるかを試す必要もあるだろうな。
後はそうだな……彩花とそれぞれなにか一つ魔法を覚えて重ねがけしておくのも必要だろう。さすがに物理攻撃しか戦闘手段がないのはこの先なにかしら問題が起きるかもしれないしな。
その辺も調べておくか。探索者の育成マニュアルみたいなものを探して、それに添ったスキル構成にしておくのも一つの目標にはなる。
まずはソロで十二層まで潜れることを目標にするのが良さそうだ。十三層は複数人いる方が安全そうだし、一人で戦って呑み込まれてそれで終わり、何てことになるのはあまりにも寂しすぎる。
「とりあえず、ソロで十二層に潜れるようになって、もうちょっと強くなれてからでも悪くはないかな。流石に今年中とか区切るのは難しいだろう。時期が時期だし、勉強に問題が出ないようにしたい。ここまで賢くなった以上、好きな大学には通いたいしな。元々探索者志望だったし、探索者関係の学部に入りたい。初設立の学部の初年度だからどこまで学力が必要かもわからない。だからできるだけ万全の態勢で臨みたいんだよな」
「要するに、二十層までは欲しいけどいつまでに踏破するかは未定、という話なのかしら。作らせるだけ作らせておいてすぐ潜らずに、しばらく寝かせる時期が必要だ、ということね」
「放置プレイみたいになって申し訳ないがそういうことになるな。それでもいいかな? 」
「そうね、こっちも暇潰しで作ってる部分もあるし、そこに関しては問題ないわ。口だけじゃなくて本当に申し訳ないと思ってるのも伝わってきてるわけだし、納得しておきましょう」
アカネからはそれでもいいと言ってくれた。だからといって放置するのはあまりよろしくないだろうから、適度に運動になる程度には通って、ちゃんと利用しているぞ、というのは見せないといけないな。
とりあえず一歩づつ、まずは一人でホブゴブリンを倒せるようになるかどうかを確認するところから始めるか。
確実性を考えたら、オークチーフを周回して【威圧】をかき集めて、ホブゴブリンでも完封できるようにするのがより楽な方法かもしれない。
しかしそれもまた時間と手間がかかるし、時間がない身の上としては難しい問題だな。でも、食料調達のついでと考えれば悪くはないかもしれないのか?
うーん、悩ましい。とりあえず、頭をスッキリさせる意味でも一度潜って体をほぐして、血の巡りを良くしてから考える、というのでも良さそうだ。
「よし、考えるより行動だ。今日のところは食料とスキル調達に出掛けることにしよう」
目標は三層、食料と【威圧】のスキルスクロールが目当てだ。【精力絶倫】が出た場合はどうしてやろうかな。流石にこれを売りさばくと扶養家族から外れてしまうからな。それに……どのぐらい凄くなるのか興味があります。
さて、暇つぶしと食糧確保、そしてスキルスクロール集めに出かけるとしますか。
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