第155話:学校外模試の結果
十月も上旬に入り、中間テストのテスト範囲が発表された日に郵便が届く。学校外で受けた模試の結果が返ってきたらしい。
模試の結果は受けた人間の総得点でランキング形式になっており、本名では無くても自由な名前で受けることが可能になっているため、ウケ狙いの名前で模試を受講して、ランキングにその名前が載るかどうかで賭けをしていたりこの名前でランキング載りました! みたいなひと騒ぎをしている奴もいるらしい。
俺はというとそういうものには興味がないので普通に本名で受けたが、模試の結果は総合11位。まだ上に俺より賢い奴が10人いるらしい。受験者数が20万人ほどだったのでそれほど多いわけではないが、単純計算すれば俺より賢い奴は後50人ぐらい居ても不思議はないってことだな。
どうやらレベル差では覆せない何かというものがあるらしい。まあ、それでもこれだけ順位が取れていれば充分だろう。この中の全員がダンジョン学部に入るわけでもないだろうし、学部指定のほうの順位で上のほうに配置されていればそれでいいかな。
確認したところ、どうやら新設学部であることも含めてそれほど人数が受験している様子はなく、32人中の1位を取っていることだけはわかった。同じ模試を受けてダンジョン学部に入ろうとする奴がいないだけかもしれないが、それでも1位を取れたという満足感はかなりのものだ。
思わず彩花にメールを送る。
「学校外模試、ダンジョン学部志望者中1位だった。やったぜ」
しばらくすると返事が返ってきた。
「あんまり受験者が多くなかったのかもしれないけどやったわね。これであのちっこい准教授に粘っこいこと言われずに済みそうね」
大泉准教授か。確かに彼女なら成績はもちろん必要だがそれよりも大事なのは……と講義が始まりそうな予感がするな。それも大事な情報なので聞き逃さないようにしないといけないのか。
とりあえず模試にも慣れてきたし、本番の空気を味わう準備は少しずつ整えてきたってところだな。実際に何が必要で何が不必要かはともかくとして、できる範囲のことをできるだけやっていく、という方針に変わりはない。海外のダンジョン情報を入手する必要も出てくるだろうから外国語もある程度できている方がいいのは確か。
やはり英語も必要になってくるんだろうな。もし英語圏以外の国でダンジョン探索の最先端を行っているようなら、その国の言葉も覚えておく必要があるだろうし、まあそれは入学してからでもいいか。今は受験のことだけ考えておこう。さて、中間テストの範囲は……うむ、大体網羅できているな。今からテストが近いからとあたふたしながら必死に勉強をするようなことはしなくてもいいらしい。
だとすると、細かいところを詰めつつ、受験範囲で使いそうな場所をメインに覚えておくことにするか。教師のほうもそういう方面をテストに出しそうな気はするし、無駄な覚え方をさせたくはないだろう。
さて、教科書をぱらぱらとめくり、テスト範囲をそれぞれ確認すると、先に夕飯の準備をする。腹が減った時にすぐにエネルギー補給できる方が効率がいいからな。エネルギーが残ってるうちに料理をしておいて、エネルギーが尽きたら食べて回復してすぐにまた勉強に取り掛かれるようにしておこう。
夕食の準備を済ませ、後は温め直して食べるだけの状態にした後、勉強を開始する。時間は、空腹を感じて手が止まるまでだ。それまでは集中して勉強に費やすことができるだろう。さあ、俺も彩花ほどではないがそれなりに集中して勉強できるようになったところを誰にというわけでもないが見せつけておかないとな。
作り置きをしてさて勉学に励むか、と部屋に戻ろうとすると、丁度本業を終えたアカネが帰ってきたのでアカネにお供えしていつもの神力を発生させておく。
「うん、今日も美味しいと思うわ」
「それは何よりだ。夕飯は勉強が一段落ついてから食べようと思っていたから、お供えするのにちょうどいいタイミングで助かったよ」
「それは何よりね。あと、模試の結果がそろそろなんじゃない? 」
アカネには何となくわかっていたらしい。アカネに模試の結果と順位、それから学校、学部、学科ごとの成績を見せると、とても喜んでいた。
「ここまで出来れば私の氏子としては上等ね。あとはこの成績をいかにして維持するかが大事だから、これにかこつけてサボらずにちゃんと……ちゃんとしてるから言うことないのよね。今からの勉強頑張ってね」
そういうとリビングの定位置に向かい、ふよふよと浮き始めた。これで報告も済んだし、さて勉強に打ち込み始めるとするか。
◇◆◇◆◇◆◇
結局午後七時ごろまで集中して勉強することが出来た。三時間ほどか、わりと持ったな。彩花の集中力にはまだ及ばないだろうがこれだけの間まともに一つのことに打ち込めるなら充分じゃないだろうか。
人間の集中力は45分か90分が限界であると言われているし、ポモドーロ法という勉強法に則ってやるならば、25分か50分に一度休憩をはさむことで効率よく学習ができるという話らしい。どっちか好きな方を選べと言われたら50分のほうが今の調子にはあっているような気がする。
ともかく、腹が減った。しっかり頭をフル回転させたおかげで糖分が切れかかっているらしく、頭にもやがかかったようなぐんにょりとした気分になっている。これは早めにお腹に食べ物を入れてやらないとそのまま倒れてしまいそうな気分になるぐらい腹が減った。
作っておいた夕飯を温め、夕飯の麻婆春雨を食す。ご飯に春雨と、かなり炭水化物よりの食事だが、脳の栄養源としては間違っていないだろう。量もしっかりあるし、細かい栄養分は明日にでも摂取することにしよう。
食事を終えてスマホを手に取ると、彩花から着信が来ていた。俺も気づかないほど集中してたってことか。
「冬休み前のミニオープンキャンパス行くのよね? 」
今からでも間に合うかな? 「行く予定」と返信すると、すぐに既読が付いた。どうやらこっちの返信を待っていたらしい。
「二日間あるけどどっちに行くの? 」
「初日に行く予定。両日参加でもいいけど、やる気を示すためには初日に行っていた方が印象がいい気がする」
「なるほど。私も初日にしよっと」
彩花もダンジョン学部に来るのだし、他の学部を見回るのでもいいから行きたいところのオープンキャンパスにはできるだけ行くようにしたほうがいいだろうな。
「他の志望の大学の学部もちゃんと見回るんだぞ、俺に遠慮しなくてもいいし、一人で行くのが寂しいなら俺も付いていってもいいし」
「今のところここだけで良いわ。ほかに行きたいところも思い浮かばないし」
思い切りがいいのは結構だが、いざ入ってみてつまんない……ってなるといけないからな。他の大学や他の学部にも行ってみて、より面白い講義であると感じるならそっちに行くのも俺は賛成するし、応援もする立場だ。
彩花に一番似合う学科や学部がどこなのかというのは俺にはわからないが、場合によっては別の大学へお互い通って会うのはたまに、ということもありえるのだ。そうなれば、貴重な時間でお互いを確認しあう儀式に費やす時間も増えるのだろう。
……考えていたら血の気が胃袋から下半身に向かい始めた。今は我慢今は我慢。全部が終わってお互いの進路が決まったときに確かめあおうという約束なのだ。それまではデコピンでもして落ち着かせておこう。
さて。早めに風呂に入って湯冷ましがてらもうひと頑張りする形で続きをするかな。風呂でしっかり洗ったあと、髪の毛を乾かしながらスマホでニュースを確認する。
すると、すぐ近くでダンジョンが発生したらしいことがわかった。さすがに学生身分でこの時間からダンジョン対策をするのは……本来なら探索者の義務としてそれが求められるのだろうが、さすがに時間が遅すぎるし明日は学校もある。
明日が休みとか、テストの期間外であったなら喜んで手伝いに行くところだろうが、時間もタイミングも悪すぎる。今日のところは申し訳ないがパスさせてもらおう。専属探索者というわけでもないし、明日も朝から授業だ。風呂も入ってしまったし、体は眠りに入ろうと既に全身リラックスの姿勢だ。明日授業が終わってまだ終了してなかったら、その時は入り込んで中を確かめに行くことにしよう。
眠ろうとすると、スマホに彩花からの着信。すぐに出る。
「あ、幹也? 近くにインスタンスダンジョンが出現したらしいんだけど」
「ああ、俺も見た。でも明日がある学生の身分ではさすがに今から行くのは難しいかな。明日授業が終わってまだ進んでなかったらその時は見に行くのもいいかもしれないけど」
「やっぱりそうよね。幹也なら一人でも行くかもと思って連絡してみたんだけど心配なかったみたいね」
「俺を何だと思っているんだ。さすがにこの時間からっていうのは俺でもやらないかな。中間テスト近いし」
そういう目で見られていることはさておき、たしかに最近は成績もいいし余裕があるのも事実。しかし、それにかまけて楽をしているとすぐに落ちてしまう時期でもある。今はしっかり勉強して地力を更に足し込んで、受験で少しでも楽が出来るようにしておくほうが大事だろう。
「そっか。ちょっと安心したわ。それだけよ。ちょっと声が聞きたいとかはそのついでだから気にしないで」
電話ぐらい普通にかけてきてもいいのにこういうときだけ控えめであることをアピールするのはちょっとだけあざといが、まあ可愛げの内かな。
「今日はもう後は寝るだけにしようかなと思ってたところだ。だから話し相手ぐらいにはなれるぞ」
「でも、大丈夫なの? ちょっとした夜更かしになるわよ」
「今日ぐらいは……と、アカネに釘を刺されているところだが、やる気を維持するための機構は大事だからな。彩花との話でやる気が盛り上がるならこれも大事なやる気回復装置ということで納得してもらおう」
ふと、リビングのほうを見ると、アカネがドアから首だけ出していた。
「青春の香りがするわ」
神様は青春の香りでも満足できるらしい。また一つ要らないことを覚えてしまった。
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