第130話:大泉ゼミ
大泉准教授はプロジェクターからパソコンを外し、パソコンの中で魔石のエネルギー変換の様子をタイムラプスで追いかけた映像を見せてくれた。
「現在ではこのように魔石をエネルギー変換して電力などに加工している訳なんだけど、この通り、最後には魔石の残りかす……現在では魔石くずと表現するのが最もわかりやすい言い方になるんだけど、最近の研究ではこの魔石くずにも魔石と同じエネルギーがまだまだ豊富に含まれていることが分かってきている。このエネルギーをいかにして引き出すか、というのが今の私の研究テーマというわけ。そのためには、エネルギーの残りかすであるところの魔石を搬入する必要があるのだけれど、これについては産業廃棄物の効率的運用という形で受け取っているため、資金や資材の出所については問題はないことになっている」
パソコンをまとめて移動し始めたので、そのままついていく。彩花も他にピンと来る研究室はなかったらしく、俺の後についてきている。
「気になるゼミがあったら行ってきても良いんだぞ?」
「今のところここが一番気になるって返答で良いかなって。電気代が安くなるかもしれない研究と考えれば将来性はあるしね」
「確かに、発電所からの依頼ではないけど、現物支給の形で残りかすを受け取って研究に使わせてもらっているから、間違いではないかもしれないねえ」
「つまりお金のほうはそれほど心配はない研究室であると言える、と考えて良いわけですか」
「他の研究室に比べればそうと言えるね。研究室によっては特定階層の特定モンスターでなければドロップしない素材を使っていたりするので、それを入手するための苦労に比べれば楽なものよね」
大泉ゼミの前まで来たので中に入れてもらう。ゼミの中では濃厚なコーヒーの香りが漂っていた。どうやらかなり消費量が激しいらしい。
「すごいコーヒーの消費量ですね」
「研究に加えて、今日のプレゼンの資料も作らなきゃいけなかったからね。これでもなかなか忙しい方なのだから講義が始まるようになったら、もっと大忙しになるわね。そうなったら自分の研究をしてる暇なんてないかもしれないわ。あなたたちが早く三年生になって私のゼミの扉を叩いてくれることを待ち望んでいることにするよ」
「まだ共通テストも始まってないのに気が早すぎませんか?まだ僕らはどこの大学を志望するかも決めてないような生徒ですよ?」
「まず一つ、他の学部や学科の説明会に目もくれずダンジョン学部の説明会に足早にやってきたこと。この時点で、ダンジョン学部以外にはそれほど興味がないことが言える。二つ目、機器の操作を手伝ってくれたこと。これで自主的に行動を行う人物かどうかがある程度計り知れる。三つ目、来いとも何とも言ってないのにホイホイと私についてきて、こうしてコーヒーまでごちそうになっていること。この三点から、君らは今日のオープンキャンパスの目的はダンジョン学部であって、他の学部ではなく、できればここで知己を得ておいて後で何らかの人間的な感情に基づいたつながりを求めてやってきている、ということになる。それが今回はたまたま私だったわけだが、もし最初の発表の教授陣が私ではなく他の先生だったら、そちらに行っていたかもしれないねえ」
言われてみればそういうことにもなるか。言ってることは大体当たりってわけだ。コーヒーを飲んで大泉准教授の言う通りになってしまっていることに納得する。コーヒーはかなり苦く、濃いめに作ってあるのかイタリアンローストなのかってところだろう。
「おっしゃる通りかもしれません。だとしたら、もうちょっと浅めに踏み込んだ方がいいってことでしょうかね。他の研究室に顔を出す意味でも、もしかしたら同じ同期として顔を合わせることになるであろう学生に会うことも必要になってくるかもしれませんし」
「それは必要だろうね。隣の彼女も……おそらく君たちは付き合っているんだろう? いいなあ羨ましいなあ。私も学生時代そういう相手欲しかったなあ」
急に駄々っ子みたいになりはじめた。この人本当に准教授なんだよな?
「私は見た目がこう幼いからさあ。妹にしか見れないって振られ続けて五十回。逆に告白される相手はみんなロリコン予備軍みたいな相手でさあ。私を対等に見てくれる人が結局居なかったよ」
なんで俺達はオープンキャンパスで准教授の身の上話を聞かされているんだろうとふと思ったが、面白いのでこのまま聞き続けてみよう。素に戻った時が楽しみだ。
「結局、専門もそれほどいい男のいないような分野に進むことになってそれはそれでいいんだけどさあ。もう三十過ぎてるのに男の話は一切なし。給料だけは良いからお金は溜まっていくけどその分ストレスと鬱憤ばかり溜まっていくからもうこの際新入生が相手でも良いから私をもらってくれる人が居ないかなーなんて考えるようになってきたってわけよ。いやあ、ここまでこじれちゃあもうおしまいだよねえ」
「流石に三十代で十八歳は犯罪だと思います。せめて卒業するまで待たないと難しいのでは」
彩花が必死にフォローしているが、微妙にフォローになってないし、四年後には三十後半が見えている。そこまで待たせて結婚と行くのも中々厳しいものがあるんじゃないだろうか。
「さて、私は良いとして、だ。君らの話も聞いておこうか」
あ、素に戻った。テンションがコロコロ変わる人だな。
「君ら、反応で解るけどもう探索者として活動してるんだろう? 何層までは潜れるようになってるんだい? 世間話ついでに聞いていこうじゃないの」
「えっと……一応夏休み中に十層まで潜れるように頑張ろうって話でやりまして、無事に達成したのが先日ってところですね」
「十層まで潜れる十八歳か……ちなみにパーティーメンバーは君ら二人と? 後他には? 」
「もう一人、ダンジョン学部に興味がない奴が一人ですね。そっちは……悪友なので大学外で会うことはあるかもしれませんが同じダンジョン探索者としては活動はするものの、大学で顔を合わせてダンジョンアタック、という意味では行くことはないと思います」
素直に話してしまうことにする。
「なるほどね。つまり君らは下手な探索者パーティーを結成したり、探索者サークルへ入って徐々に攻略していくよりも数歩先へは行っている訳だ。ちなみに探索者の平均踏破階数で言うと、一年で十層、二年目で十八層、三年目で二十五層ぐらいらしいよ。きみらは最短でも四カ月で十層までたどり着いている訳だ。探索者としては優秀な成績を修めていると言っていいかもねえ」
コーヒーの二杯目を平然とブラックで飲み干しながら大泉准教授が告げる。俺達はそこまで進みが早いらしい。少なくとも隆介を除いて二人は普通の探索者よりも数段上の実力を持っているんだから、当たり前と言えばそうなのかもしれないが。
「ただ、ダンジョン学部に入学するのに必要なのは探索者としての実力ではなく、あくまで一般学力とその結果だ。初年度なのでどのぐらいの学力が必要になってどのぐらい狭き門になるかまでは判断しきれない。そこは申し訳ないが私たちにもわからないところでね。ダンジョン学部なんて名前を出している割にはダンジョンのことを何も知らない人間がかっこよさだけ求めて入ってくるなんて可能性もあるわけだ。そこのところをどうしていくかは、所属する君らの方向性にもよると思ってほしい」
方向性か……音楽の方向性の違いにより解散みたいなことになる可能性もあるってことなんだよな。
「まあ、方向性はさておき、ここの最寄りノーマライズダンジョンがどこかは知っておきたいところですね。どっちにしろダンジョンとは切っても切り離せない生活にはなるんでしょうし、もし本当に緊急で素材が必要になった際に、自分で取ってきて持ち帰ってくる、ぐらいのことができるようになっておくのが一番わかりやすいですから」
大学の最寄りのノーマライズダンジョン。大学構内にあってくれると一番助かるが、そんな危ないことはさすがにないとは思いたい。
「ああ、だったら大学の中にあるよ。元々ダンジョン学部を作ろうという話が降って湧いたのも、大学の構内にインスタンスダンジョンが出来て、攻略に失敗してノーマライズ化してしまったことが原因なんだ」
大泉准教授がネットの記事を漁り、タブレットを見せてくれる。そこには、この大学の敷地内にダンジョンが発生していたことを確認して探索者のヘルプ要請をしたものの、二十四時間以内に攻略することが出来なかったためノーマライズ化してしまったという話。
それを機に大学構内にギルドが設けられることになったこと、そしてそれとは別の記事で、ダンジョンを有効活用するためにダンジョン学部の新設を決める、といった内容のニュース記事を続けて見せてもらえることになった。
「そんなわけで、大学の関係者なら二十四時間ダンジョンは使い放題だし、シャワーや更衣室も大学の設備を使えばいい。金も手に入るし、四年間、大学構内に住もうと思えば住める環境すらできあがっている。私たちもすぐ近くにサンプル採取場があるということで、色々と調べることができる環境が用意されてるってことになるんだ」
ますます大学に来ない理由がなくなってきたな。そこまで用意されているとなると、専用ダンジョンを引っさげて探索するしかないじゃないか。そして、駅前ダンジョンよりもさらに近いところに換金所がある、ということになる。これは……いい話だ。
「ますますやる気になりますね。学費も稼ぎながら大学近くに住居を構えればそれだけ移動や通学コストのロスも減りますしより高効率な生活が出来そうですね」
「君は高校生の割に効率化を目指した人生を送ってるんだな。ちょっと意外だ、もう少し慎重に色々するような人物に見えていたが意外とスリリングなことをしてるんだねえ」
スリリング……だろうか? 彩花に「スリリングって何? 」という視線を向けると、「塩パスタ」とだけ返事が返ってきた。なるほど、そういう意味では確かにスリリングかもしれないな。
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