第127話:オープンキャンパス
今日は待ちに待ったオープンキャンパスの日である。いくつかの大学のオープンキャンパスは回ったことはあるのだが、今回の大学が本命も本命、新設される予定のダンジョン学部がある大学のオープンキャンパスである。
せっかく探索者として既にある程度の実績を作った以上、このまま腐らせておくのはもったいないし、自宅のダンジョンを有効に活用するためにも、このまま下手な理系や文系の大学の学部を選ぶよりは、ダンジョン学部というダンジョンを専門とした学部を選択していく方がいくらか効率的だとは言えるだろう。
現地へ到着する前に彩花と待ち合わせ。今日オープンキャンパスが開催されている目的の大学までは電車で行くので、駅で待ち合わせをしてそれから一緒に行くことにした。
正直な話をするとオープンキャンパスについてはあまり期待はしていない。まだ始まってもいない学部のオープンキャンパスなので、おそらくお互いに手探りの状況で、今後どうやって大学や学部の運営をしていくのか悩んでいる途中であろう。
おそらく学部に入学する学生たちも遅生まれから早生まれまでいろんな人がいるはずなので、全員が全員探索者の資格を持って入学することは難しいであろう。
だが、もしフィールドワークをバリバリにやりダンジョンにどんどん潜っていくような形の学部だとすれば、探索者証と探索者証引換券どちらかの所持を条件として、入学条件としてくる可能性はある。
すでに探索者証を所持して探索者としても活動をしている俺と彩花は別としても、受験以外の知識や知能を要求される学部という意味では少々難易度が高いところになるのではないだろうか。
そう言えば、俺も十層以降の知識はまだ情報として仕入れていない。自分の足で歩けるところを基準に、もっと言えば自宅ダンジョンにある階層部分までしか知ろうとしてこなかった、というほうが正しい。
これを機に、いろんなダンジョンのいろんなモンスターやいろんな倒し方、それからドロップ品の扱いやスキルの存在、それらを含めてもう一度学習し直した方がいいのではないかと思うところでもある。
考え事をしていたら、彩花がよそゆきの格好で現れた。いつものスポーティな感じではなく、落ち着いたイメージのある、それでいて落ち着きすぎず彩花らしい活動的な一面も見えるような中々に見惚れるような格好だ。
「こんな隠し球を持ってたとは意外。自分の彼女のかわいさに圧倒されそうだ」
「おほめに預かり光栄だわ。といっても、ある程度はレベルのお陰なんでしょうし、そこは幹也にお礼を言わなくちゃね」
わしが育てた……そういうことか。
どうやら周囲も彩花の方に向かって何やらかわいい子がいるだの何だのと騒ぎ始めたが、俺のほうをみても同じような感想が聞き耳スキルから漏れ聞こえてくる。
さすがに四ヶ月もすれば周りの反応にも慣れた。良い顔してるとか良い体格してるとか、シュッとしてるとか色々聞こえてはいる。
世の中のイケメンはこれにいちいち反応せずに、日々耐え忍んでいるんだなと思うと、なかなか大変なんだなということがわかる。俺もそっち側に足を踏み入れてしまっていることにも自覚した上で、だ。
「さて、遅れない内にとっとと行ってしまおう。何がどこまで聞けるかは解らないが、楽しい学生生活を送れそうなところなら良いなあ」
「大学自体は他にも学部がいくつもあるところだから、他にみるものやるもの何もなくて学部だけひっそりと存在する……なんてことにならなければいいけど」
「実はオープンキャンパスにまで来てるの俺達だけ、という可能性まで視野に入れて考えていくと、どういう質疑応答をするかも含めて考えていかないといけないな」
「それは嫌ね。せめてもう少しいてほしいぐらいよ。というか、そんなに少なかったら初年度から人数割れで経営危機ってことになるわ。それはさすがにまずいんじゃないの」
「そうならないように学部を新設したはずなんだろうけどな。若年層の人口も減ってるし、わざわざ肉体労働者に近いようなダンジョン探索者を選ぶ若者がそんなに多く存在するのか? ということには疑問点を持ちながら行かなきゃいけないところだな」
そもそもダンジョンについても誰かが研究しなければ、そのダンジョンの存在理由やダンジョンがなぜできたのか、ダンジョンから算出するドロップ品の活用法や装備品への素材応用など、まだまだダンジョンについて調べるべきことは沢山あるだろう。
それらを一括してダンジョン学部としてまとめて運用していく、という形に持っていくのかどうかという点も含めて、今回のオープンキャンパスで答えが出てくれるのかどうか。
これが他の似たような学部が存在する学科の場合は別として、ダンジョンに関わる学部は全国でもほんの一桁しか存在しない。
それだけ貴重であり、また慎重に学部を新設する必要がある分野としては確かに貴重な学部かもしれないが、同時に学生として所属する必要があるのかどうかという点ではまだ疑問が残る。
各種対応する企業がそれぞれで担当を決めて素材や魔石の活用をしていく方がいいのではないか? という疑問は俺にもある。
それらの疑問について今回のオープンキャンパスで回答が得られるのかどうか、それを楽しみに待つことにしよう。とりあえずは現地まで暇だな。彩花と会話しながらお茶を濁すことにしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
大学に着き、総合受付で予約を確認。二人分の資料を受け取ると、まずは総合挨拶の方へいく。この大学では人文学部・教育学部・工学部・医学部医学科・医学部看護学科・生物資源学部があり、それぞれの学部から各学科に分かれて更に細かいジャンル選択ができるようになっている。まずは学部と一部学科で試験を合格できなければ通り抜けられない狭き門、ということなのだろう。
医学部が医学科と看護学科に分かれているのは何となくわかるし、それぞれ偏差値も違うし内容も全然違う。ここが別れているのは何となく空気感でわかる。それ以外はひとまとめの入り口なんだな、と感じた。
「ここ以外に情報学科や経済学部や理学部や……と複数ある大学だとさらにややこしいのよね。でも、ここはまだ解りやすさがマシなほうかも。ちなみにダンジョン学部は新設するところと、生物資源学部みたいなところの中に学科として設置するケースもあるみたいね。こっちの地方じゃないけど、関東や関西の大学では時々あるらしいわよ」
彩花は勉強熱心だな。そこまで一応調べた上で地元の新設の学科に入ろうという話なのか。まあ、お互いに今の生活リズムをあまり崩さない範囲で生活できるのは良いことなのかもしれない。もっとも、高校に比べたら遠いので朝や帰りはもっと遅くなるだろうし、潜るダンジョンも違うだろうから一概に地元ではブイブイ言わせていた、というのが勲章になることはないだろう。すべては入ってからだな。
壇上に学長が現れ、今日のオープンキャンパスについて挨拶と諸注意、それから学力の許す限り皆さんの来校を歓迎している、といった内容のお世辞を並べ立てている。
また、各学部の話や内容などにも触れ、大まかな紹介がされていく。必要な話はメモを取るなり覚えて帰るなりしているが、大体の学生は総合受付でもらったパンフレットに走り書きしているのがほとんどの様子だ。おそらく配った側も、そうされるであろうことを見越したページを一枚用意してくれてある、といった形だ。
そして、各学部の紹介が始まり、まず人文学部から順番に説明と講義内容、各学科への流れ、そして将来的なビジョンやスタンス、卒業後の進路などの話へシフトしていく。
「さて、今年は毎年とは違って、新しい発表があります。本校では来年度から新しくダンジョン学部を設立いたします」
さあ、本番の話が来るぞ。聞き洩らさないようにスマホの録音をオンにして、メモも取って万全の形にしておこう。
学長から人が入れ替わり、どうやら学部長らしい人にバトンタッチする。
「ダンジョン学部長の渡辺です。ダンジョンと聞くと、ファンタジーの世界の話だと思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現実に突如として出現したこの未踏の領域は、もはや無視できない、人類にとってのフロンティアとなっています。本学部は、この新たな世界に真摯に向き合い、学術的な光を当てる、世界でも類を見ない試みです」
学部長のマイクを握る音がギリッと強く鳴る音が聞き耳から聞こえる。きっとそれなりの興奮と共に話し始めているのだろう。もしかしたらダンジョン学部を設立させたのは学長あたりの鶴の一声だったのかもしれないな。
「ダンジョン学部が目指すのは、単なるダンジョンでの冒険ではありません。私たちは、知的好奇心と科学的アプローチをもって、この深淵に挑みます。ダンジョンがどのようなメカニズムで生成・維持されているのか、その特異な空間構造、重力、そして時間認識の歪みを、最新の物理学や情報科学を駆使して解明します。また、内部に生息する魔物や特異な植物、鉱物の生態を調査し、それらの進化の歴史や、我々の世界にはない新たな生命の法則を追求します。彼らが持つ毒性や薬効、エネルギー源としての可能性を探るのです」
一息入れると、学部長がスライドを移し替え、新しいものにする。
「ダンジョンから得られるものは、知識だけではありません。得られた資源を応用し、私たちの生活を豊かにすることも、本学部の大きな柱です。この特殊な環境で生成される魔石や希少鉱物は、現在の技術では再現不可能な特性を持ちます。これらを解析し、次世代のエネルギー、医療素材、宇宙開発に必要な超硬素材への応用を目指します。また、スキルに代表される魔法のような現象を可能にする魔力の存在が確認されつつあります。本学部では、これを単なるオカルトではなく、数学的・物理学的に統一された「魔力学」として理論化し、エネルギーとして制御、利用する道を切り開きます」
またスライドを変える。新しい学部だけあって気合が入っている。きっと、教授陣もすでに雇い入れてスライドを作らせ、今必死に授業カリキュラムを詰めている最中なのだろう。
「そして何より、本学部が求めるのは、未来を切り拓く多様な人材です。私たちは、力自慢の戦士だけを育てたいわけではありません。危険を回避し、最も効率的に目標を達成する戦略を練る計画立案能力を持つ戦略的探索者。内部の資源やエネルギーを安全に取り出し、応用する技術を持つダンジョン環境エンジニア。新たな資源が世界経済に与える影響を分析し、健全な市場を設計するダンジョン経済学者。そしてなにより未踏の地への情熱を持つ皆さん。本学部で学ぶことは、既存の学問の枠を超え、あなたの可能性を無限に広げます。さあ、人類最新のフロンティアであるダンジョンを、あなたの手で、知恵で、切り拓いてみませんか? 皆様の出願を、心よりお待ちしております」
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