第121話:自宅十層踏破、そしてボス戦へ
しばらくの間、十層の中を歩きながらシャドウウルフとの戦いを続ける。彩花とお互い四回ほど戦って、シャドウウルフの攻撃パターンもかなり見えてきた。奇襲さえされなければこいつはうまくやれる範囲のモンスターでしかない。
こちらからの攻撃としてはリザードマンよりも戦いやすく、そして大きさが中途半端な分リザードマンより戦いにくい。そして、何よりこのシャドウウルフにも若干の知性がある。こちらとの距離を勘案して、飛びついて噛みつくか爪で切り刻みに来るか、という選択を巧みに入れ替えながら戦闘をしてくるため、気を抜くと相手の攻撃パターンが変化しているので厄介さがある。
簡単な戦い方としては、相手が考える隙もないぐらいに素早く動いてとっとと切って捨てるのが最もシンプルかつ無駄のない行動としてあげられる。まあ、相手よりも素早く、相手よりも腕力が強く、相手よりも数が多いというなら、最速を極めて一発で切り落とした方が効率的だし無駄がないのも確か。
毎回全力を出して倒す必要はあるが、そこまで連続してモンスターと出会うシーンには至っていないので、今の所はこの戦い方で切り抜けている。
そして、探索の目標であったワープポータルをついに見つけることができた。予想通りボス部屋の目の前にワープポータルは置かれていた。ボス部屋まで直接一層からたどり着けるワープポータルとはこれまた便利なものだ。
「さて……休憩する前にボスだけ覗いていく? それとも休憩して、改めて覗いてそれから作戦を立てるか? ボス部屋の仕組み上どっちでもいけるはずだが」
「そうね。先に覗くだけ覗いていきましょうか。門をちょっと開けるだけなら問題ないわよね」
「ネットでもやってたが、中に存在するかどうか確認するだけならボスモンスターは反応しないらしいからな。充分考える時間もあるし、休んでいる間に戦い方を確認するのでもいい」
二人で門をそっと開けて、中を覗く。ボス部屋の中ではど真ん中に首の二つある、全長三メートルほどのわんこが眠りこけていた。間違いない、オルトロスだ。
「普通に座り込んでるとなんか可愛いけど、この距離であの大きさってことは相当大きいわよね」
「そうだな、動画でも見たけど、頭だけで体半分ぐらいのサイズはあるしな」
「とりあえず現物を見た……ということで一旦一層に、というか部屋に戻りましょ。休憩するにもそのほうが気楽なはずだわ」
「足も疲れたしな……ちょっと小腹に入れるものがあってもいいし、部屋まで戻るか。本格的に休憩ってことで一つ」
門を閉めてポータルをくぐると、そこは見慣れた一層の景色。そして出口がすぐそばにあった。こんな近くに設置してくれたのか。これはありがたいな。
部屋に戻り、荷物の整理とキノコの保存、山分け、それからオーク肉の割り振りと一通り帰り支度を済ませてから、装備を一旦脱いで休憩する。
「ふー、やっぱり労働場所まで徒歩ゼロ分ってのが良いな。一番落ち着ける環境で休憩できるというのも大きい」
「普通ならその辺のコンビニでお腹を満たしてついでに休憩していくぐらいしかないものね。何か食べましょうか」
「とりあえず水分補給と……冷凍食品を何か温めてお腹に入れよう。満腹で戦うのは良くないが、空腹を覚えててもそれもあんまりよくないからな」
せっかく買ってきてくれたが、冷凍の春巻を二本解凍して、少しばかりのご飯と共に出す。今の俺達ならこのぐらいの食事は食事の内に入らないだろう。
「そういえばスキルスクロールの鑑定もあったな……ついでにやってしまうか」
バッグからスキルスクロールを取り出すと、ブックマークしてあるサイトにアクセスして早速結果を確かめる。
雷スケルトンから出たのはやはり【エネルギーボルト】のスキルスクロールだった。そして、デブスケルトンからは【体捌き】が出ていた。
「じゃあ、私が【体捌き】覚えるから幹也が【エネルギーボルト】を覚えるということで」
「結構金額に差があるけどいいのか? 多分十倍ぐらい違うぞ」
「いいわよ。それに今からボス戦って時に火力は高いほうが良いでしょう? もしかしたら効果的に使えるかもしれないし」
彩花がGOサインを出してくれたので、断り続けるのも悪いと思ってそのまま二人スキルスクロールを覚える。これで【エネルギーボルト】レベル4ということになる。これならビッグバットも一撃で倒せるようになっているかもしれないな。
オルトロス相手にエネルギーボルトだけで戦い続けて勝つつもりはないが、攻撃手段の一つとして取り入れるのは充分有りなので、機会やスキがあったら狙っていこう。目元を殴るぐらいの威力はあるかもしれない。
足を伸ばしてうーん、と休憩している彩花と共に、足をしっかり伸ばして前屈をして、しっかり全身に血液が回っていくようにストレッチをしておく。
「幹也って結構体柔らかいのね。私ほどではないけど男の子にしては充分柔らかいと思うわ」
「レベルが上がってからじゃないかな、ここまで柔らかくなったの。そういう関節の可動域なんかにも影響があるのかも」
二人でどうのこうのやり取りをしながらお互いにストレッチをしていると、外からアカネが帰ってきた。
「あら、あなたたちダンジョン探索に行ってたんじゃ? 」
「十層に到着したからワープポータルで一旦帰ってきて休憩中。休憩終えたらボスにチャレンジしてくるよ」
「なるほど、そういうことなのね。良いわね、休憩場所が近くて」
「アカネがボス部屋前っていうわかりやすいところにワープポータルを設置してくれたおかげかな。本当ならそれぞれ探しに回らなきゃいけない所を一ヶ所でまとめて設置してくれているから便利だったよ」
「ということはボスがいるかどうかも確認済みなのね。ちゃんと居た? 逃げ出したりしてなかった? 」
どうやら作ったはいいがデバッグがまだ完全に終わってないらしい。部屋に隙間があったら逃げ出したりしてたんだろうか。
「とりあえず部屋の真ん中で眠ってたから大丈夫なんじゃないかな。もう少ししたら戦いに行ってくるけど、ついてくるか? 」
「そうね、見届け人は必要でしょうし、こっそりのぞかせてもらいましょうかね。ただし手出しはしないからよろしく」
アカネも暇らしく、ついてくることになった。休憩もそろそろいいかな。荷物も整理したし、魔石箱に荷物も整理したし……これは後で二人で駅前ダンジョンに行ってこっそり換金にかけよう。キノコも肉も振り分けは済んだ。後は、憂いはないな。
装備を着直し、武器も持つと、彩花と装備を確認しあって靴を履き、再び一層へと出向く。荷物は最小限で良いので、バッグも小さいものに変えてきた。
「前に見たボスの倒し方を、アタッカー二人で試すことになる。それぞれにちゃんとしたダメージソースがあれば、オルトロスもむやみに体を動かすことなく、どちらかに集中するのも難しい形で大人しくやられてくれるだろうし、逃げ回るようなこともないはず。正面から立ち向かう分だけ負担はかかるだろうけど、出来るだけ早く首を落としてそっちに向かえるようにするから、それまで踏ん張って。後、ダメならダメそうって早めに音を上げてほしいかな。きついことをやらせて怪我させたら意味ないしね」
「うん、無理はしないことにする。この前の動画でどうやって戦っていけばいいかは頭に入ってるし、似たような動きを心がければオルトロス自身が動かないように、なおかつダメージは入れて行けると思う」
「ふたりともやる気に満ち溢れているわね。でも、怪我して帰って来ないように気を付けてね。多分二人のレベルなら大丈夫でしょうけど」
アカネのお墨付きももらえたことで、安全に戦えるレベルにはなっているはずだ。後は打って出て実際にどうなるかということについて調べるしかないな。
「よし、残りは実地試験だな。いっちょボス退治に行くか」
「ええ、行きましょう。私も最初から全力でいくわ」
「私は門の前まで応援に行って、それだけかしらね。中で何があっても感知しないでおくわ。その方がダンジョンの作成者として平等だろうし、私がいるからと言って手を抜いたり、逆に邪魔になったりしないようにしておく必要があるわ。例えば私に攻撃が向いてるように見えた瞬間うっかり庇いにいって要らないダメージを受けてしまったりとか、そういうことがないようにってことね」
三人そろって一層にたどり着き、ワープポータルから十層へ直接飛ぶ。どうやらアカネも十層のワープポータルを作った時に自分でも通過実験をしていたらしく、アカネだけこっちに飛んでこれない、という事態は防ぐことが出来た。
「オークチーフの時もこの門の前で待ってもらってたっけな。じゃあアカネには外で吉報を待っててもらうことにするか。多分大丈夫だからな」
「多分が付くのね」
「まあ、何事にも緊急事態というのはありうるからな。余裕をもって戦い始めても、もしもってものはどうしても存在する。そうならないように祈るぐらいしかないか……まあ、なんとかなるさ」
頭の後ろをかきながら誤魔化すが、自信のなさが伝わってしまっているようだ。やはり人数はそれだけでも力。本来ならここに隆介が加わってくれれば確実に戦えるだろうと言えるものの、二人で頭を一つずつ、というのは余剰人員もないし、体を抑える役目もいない。
「まあ、レベル差の威力を信じてまずは当たってみましょう。無理そうだったら撤退すればいいし、全力で後ろに逃げて門から出るぐらいの余裕はあるはずよ」
「そう……だな」
顔をパンパンとはたく。何を心配しているんだ。ここまで二人で余裕でモンスターを撥ね退けてこれたじゃないか。今更それがちょっと強いモンスターがボスとして設置されているからといって、困ることはないんじゃないか。
あらかじめ心配事は出ないようにやってるんだし、もし本当に危ない戦いだったらアカネが止めてるはずだ。そうしないということは二人とも問題なく戦えるようになっている、と裏打ちされていると見ることもできる。
不安なことはまだあるが、不安ばかりで何も進まないではあまりにも腰抜けすぎる。もう少し、冒険してもいいところだろう。さあ、いくか。
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