第119話:ブラッドバットとビッグバットの違い
しっかり食休みを取った後、動けるようになったのを確認すると、七層に向けて出発する。
七層ではそれなりの発汗とそれに伴う体力の消耗が考えられるからな。相手のモンスターに対して慣れはあるものの、本気でかかれば倒せない相手ではない。
それにここなら本気で戦っても誰かに見られるということを心配する必要もない。俺と彩花にとってはレベルを気にせず戦える気持ちいい戦闘場所であることに違いはないだろうな。
七層に生息するサラマンダーは暑さに強く、それでいて体内は一定温度に保たれているという不思議モンスターだ。爬虫類で変温動物っぽい見た目に反して恒温動物であるらしい。暑いところで活動できるなら体温が高くても問題ないようにモンスターとして体が出来ているのかと思いきやそうでもないらしい。
その秘密は皮膚にあり、この薄い皮膚によって熱波をシャットアウトしている様子。そして、その皮膚がドロップ品として出ることは稀であり、今をもってしても、ドロップしたらそこそこの金額で取引される模様だ。
そんなサラマンダーと、専用ダンジョン内で始めて顔合わせする。相変わらずのサンショウウオっぽい見た目と赤い皮膚、そしていつでも舌を伸ばして捕まえてやれるんだぞ? という顔をしている。
サラマンダーに合わせてやる必要もないので、無理しない程度の最速で近寄ってズバッと切ってさっさと終わらせる。
サラマンダー自体の強さはスケルトンより弱いぐらいで、真面目に戦ったら普通に勝てる。ただ周りの熱気のお陰で集中力を削がれるのと、舌が二枚いつ飛んでくるかわからないところが仕掛けのタイミングを見計らうのに邪魔なだけだ。
今回はまっすぐ十層まで進むのが目的だし、サラマンダーの生態調査に来たわけでもないので、見つけ次第近いほうが倒すというシンプルな戦い方で終わらせてもらっている。
サラマンダーも守勢から攻勢に切り替えようとするとサラマンダーの動き次第で面倒な手順を踏む必要があるが、最初から攻勢一辺倒でこっちから襲っていくなら、サラマンダーの舌の動きにさえ注意していればいいから非常に楽に戦うことができる。
防御に回ることなく、常に攻めの姿勢を意識することで、サラマンダー相手に有利に戦うことができている。レベルが育っている彩花でも同様だ。先手必勝で相手の舌が伸び切る前に近づいて一撃加えてその一撃で倒すことに集中することにした。
「特に苦戦するところはないわね。強いていうなら暑いわ。その環境だけが問題ね」
「そうだな。暑いのと、次にどこへ向かえばいいのかがわからないのが問題か。マッピングできるスキルとかあれば便利なんだろうけどなあ」
「まあ、専用ダンジョンをこしらえてもらってるだけでもありがたいのだからそれ以上の苦情というか贅沢を考えるのはちょっと違うところよね」
「俺もそう考えているが、人間贅沢を考えると何処までも贅沢を考えてしまうものなのかもしれんな。まぁ、迷っていて困ってる訳じゃないからそのへんは実際困ってから考えるのでもいいと思ってる」
「そうね。まだ全然歩き回ってもいないし、もうちょっと迷ってから考えましょう。案外素直に次の階層への道が見つかるかもしれないしね」
サラマンダーを倒しつつ、曲がりくねった道を進んでいく。今のところ分岐点みたいなものは三ヶ所ぐらいしかなかったので、戻って確認するのは容易だ。
三十分ほど七層を迷い続けて、次への道を見つけることができた。一時間ぐらいかかることを念頭に置いてきたので、意外に早く見つかったな、と思っているところ。
冷静に考えれば、二人しか潜らないダンジョンにそれほどの広さは必要ないだろう、とアカネも考えていたのかもしれない。一層辺りの広さも、モンスターの密度も、一人か二人で充分楽しめるだけの量が用意されている。
そういう意味ではこのモンスターの湧き具合とドロップ率でちょうどいいのかもしれないな。
七層から八層に移動して、涼しくなったところでもう一度小休止して、魔石の詰め替え作業と水分補給を済ませる。
三十分も炎天下みたいなところにいたのだ、見えない疲れはそれなりに溜まっているだろう。ここできちんと抜いて、真新しい気持ちで八層に向かおう。
「そう言えば、サラマンダーの革はドロップしなかったわね」
彩花が思い出したように言う。確かにここのドロップ率なら出ても不思議はない。しかし、換金するときに目立つ格好になるのは間違いないのでそれを避けられるだけでも充分だ。
「まぁ、換金するときに目立って目をつけられることを考えたらドロップしなかったことのほうがありがたいかも。七層まで潜ってきただけで魔石がこんなに溜まっているからな。換金するにも一苦労なのは間違いないだろうしな」
「確かにそうかも。じゃあその分現金に期待しておきましょ」
魔石が溜まりすぎて色々換金に支障をきたすのも問題だが、せっかく拾った魔石はできるだけ確保して換金しておきたいからな。それを捨てるなんてとんでもない。
キャリーバッグ半分まで溜まった魔石を眺めて、八層ではもっと魔石が増えるんだろうな、という予想を込みで考えていく。八層を渡り終えたらこのキャリーバッグも魔石で満タンになるだろう。
魔石しか落とさない代わりに必ず魔石を落とすブラッドバットとビッグバットはどういう形でドロップ率向上の効果が出るのかちょっと解らない。試しに戦ってみて、どうなるかを確かめてみるのが大事だな。
「さて、蝙蝠たちを倒しながら九層まで行くか。八層はちょっと天井が高い分だけ見通しが悪いが、その分モンスターとの距離は取れるし、ササっと潜り抜けてしまおう」
休憩を終えて八層を巡りだす。ちょっとずつだが、各階層には違いがそれぞれある。例えばさっきまでいた七層は構造こそ普通なものの、気温湿度共に高めで蒸し暑さで動きづらい。六層と十層は石造りの部分が壁やそこらから見え隠れしている。五層の……ここで言う三層のボス部屋は石造りの部屋になっている。
四層は少し湿っぽいなど、細かいところを見始めればきりがないが、とにかくダンジョンと一口に言っても各階層によってそれぞれ違う顔を見せてくれている。
この八層は天井が高く、天井や横から蝙蝠が突然現れて噛みついてきたり超音波を浴びせに来ても不思議ではない形状をしている。実際には主に上から来るのだが、時々横から飛び去るように走ってきて爪で切り裂いて攻撃をしてくるときもある。
そして今、目の前に躍り出てきたブラッドバットかビッグバットかどっちかわからない蝙蝠相手に、全力で【エネルギーボルト】を打ち込むと、蝙蝠は一発で消え去り、魔石を二つ残していった。どうやら、この階層では魔石が二つ落ちる可能性があるらしい。
「一匹で二つ魔石が落ちるのか……ちょっと考え物だが、美味しいことには違いないな。あと八層のモンスターはオークより耐久力がないことも分かったな。一発で倒れてくれるとは思わなかった」
「魔石の内の一個は確定ドロップとして、もう一個落ちる可能性分が専用ダンジョンの特典ってことなのかしら。同じことが駅前ダンジョンでも起きる可能性があるのか、ここだけの特別仕様なのかはまだ判断つけられないわね」
「そこまでは何ともってとこだな。ただ、一匹から二個落ちる可能性があるというのは頭に入れておかないと。後二階層分のドロップ品を考えたらあまり戦闘回数多く戦いたくないというところだな」
魔石を回収して次の方向を探す。天井が高い分だけ地図も作りにくい。盛大に迷うということは今の所ないが、空間が広い分だけ特徴物……例えば個性的な形をした岩であったり、三叉路のそれぞれの傾きの差であったり、そういうものを目印にしていたのだが、それらが判別しにくくなっている。
その分天井の形を見たり、つり下がっているつららなんかを覚えてそれを地図に描き込んで、何とか格好をつけているが、これはやはり八層特有の事情としても、地図が描きにくいというのは充分に探索者を悩ませる原因にはなるだろう。駅前ダンジョンの場合人海戦術でそれぞれ複数人が描き合わせたものを地図として売りに出せるようにしていたのだろうな。
迷わないようにきちんと曲がり角なり通路がわかれるところでチェックを入れているため道に迷っている、という認識はない。ただ、解らない所を歩いているだけだ。蝙蝠は時々襲い来るが、ここで一つ分かったことがある。
ブラッドバットらしきモンスターは【エネルギーボルト】レベル3一発で倒せるが、ビッグバットは倒せない、ということだ。
おそらくビッグバットのほうがより高い体力を誇っているためだと思われる。そして、それに紐づけられたような情報だが、ビッグバットは魔石を二個くれる可能性が高い。ブラッドバットは倒しても魔石一個だけのパターンがそれなりに見受けられたが、ビッグバットは七割ぐらいの確率で魔石を二個くれる。
見分け方が体格差だけでしかなかったブラッドバットとビッグバットだが、ちゃんと違いがあったことが実地で観測できた貴重な出来事だった。
ブラッドバットとビッグバットは駅前ダンジョンほどの密度もなく、出てきても二匹同時程度なので俺と彩花で一匹ずつ倒すこともできるし、一人で二匹倒すことも難しくはない。【エネルギーボルト】で倒れてくれればなおいい感じになる。
問題なく八層を歩き回って、四十分ほどしたところで次の階層への道を見つけた。前に体験したような、層の間に蝙蝠が詰まっている、ということもなかった。やはりあれは、人為的な動作の結果だったんだろうな。
次の階層へ急いで移動したかった集団が蝙蝠を引き連れてトレイン行為をした結果、階層を下りて移動できないブラッドバット達がダンジョンの層の境目で引っかかってしまうという結果になったのだろう。
あの時はそれなりの収入になったが、今同じことをされると困る。流石にそろそろカバンが限界だ。境目のモンスターが来ない間にバッグの中の魔石をキャリーケースにすべて移し替えた。キャリーケースは魔石で一杯になり、入りきらなかった分が少し手元に残る結果になった。
大体予定通りの収入、といったところかな。ここでキャリーケースが一杯になるのは予想の範疇だったので、思った通りの探索が出来ているということにはなる。
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