第115話:お盆にはお参りを
あっという間に夏休みも中盤戦を過ぎ、お盆の季節になった。年に二回の里帰りの季節でもある。前にアカネと約束した通り、大黒堂のおはぎを三つ、買っての帰省だ。それなりに距離があるため、素直に公共交通機関を使って実家に帰る。
通りがかりにアカネの祠があったので早速掃除に……と思ったが、まずは荷物やらなにやらを実家に置いてからのほうが便利だろうと思ったので、後回しにした。
久々に会った爺ちゃんはまた一段階小さくなったようで、俺を見上げて「でかくなったのう」とぼやいていた。爺ちゃんも腰が曲がり始めているので、その分更に背が高く見えるのだろう。
両親のお墓におはぎをそれぞれ一つずつ、合計二つ供えると、残り一つを持ち帰ってきた。
「その残り一つはどうするんじゃ? 仏壇にでも捧げるんか? 」
爺ちゃんが聞いてきたが、正直に話すことにした。
「小学校の頃、夏休みの宿題ついでに作り直した祠があったでしょ? あそこにお供えしようと思って」
「あー、あの祠かあ。お前が直して以来人の手が色々入っとるからな。そのきっかけとなったお前がお参りに行くのは喜ぶだろうて。多少遅くなってもいいから行ってきたらどうだ。掃除道具は家のを持っていけばええ」
爺ちゃんのおすすめもあったことだし、早速出かけることにする。掃除道具と言っても雑巾と箒ぐらいのもので、後は水があれば事足りるだろう、ということでペットボトルに入れた水を家から持っていくことにした。
自転車に掃除用具を積み込んで、実家から数分かけて現地到着。最寄り駅から家の間にあるとはいえ、自転車で来れるほうが気持ち的には楽だな。
たどり着いた祠は、俺がわざわざ手入れしなくてもいいんじゃないかと思えるぐらいに整頓されていた。
さすがに少しずつ朽ちてきてはいるものの、まだ屋根の役割をしっかりと保っているお手製の木造平屋建ての祠はもちろんのこと、中に安置されている地蔵も比較的きれいな姿で居るままだ。
まず、手順通りに祠の屋根を取り外して、アカネの本体をきれいな雑巾と持ってきた水で綺麗にしてやる。
さすがに地蔵そのものが古いので力を入れてゴシゴシと洗うことができないものの、磨いてやることで砂の塊や苔、それからおそらくアカネ本体のものであろう石のカケラなんかも少しとれてきた。
これはもっと丁重に扱わないと駄目だな。より慎重に地蔵を磨き上げ、しっかりと綺麗にしてやることができた。
後は土台になっている部分の掃除と屋根の掃除だ。ここも砂が溜まっているので綺麗にしてやると、地蔵を据え付け直す。
もっと金があるなら新しく綺麗な屋根や新しいスカーフと交換してやるところだが、今日のところはこんなものか。
スカーフも水で洗って汚れを落とし、改めて巻き直してやる。綺麗な赤色のスカーフだった当時の色も、日に当たって色褪せていてまさに茜色、という感じに良い感じになっていた。
アカネがアカネたる所以を気軽に変更するのは気が引けるし、例えばオレンジのスカーフに変えたらつぎからはオレンジ様と呼ばなくてはならなくなる。
面倒ごとはできるだけ省いて掃除をした後、屋根を設置しなおして、掃除は終了だ。最後に大黒堂のおはぎをお供えして、両手を合わせて一祈り。
何を考えるわけではないが、約束は守ったからな、という報告だけは済ませておく。アカネもどうやらこっちには帰省していない様で、どこかで何かをやっている、というのは間違いないらしい。
つまり今は完全に魂が入っていない状態になるわけだな。そんな状態でおはぎをお供えされて、果たして気づくことができるのだろうか。
思い返せば、今日の朝も、「じゃあ実家に帰省するついでにアカネの祠にも寄ってくるから」と話は通してあるわけで。
言い方を変えれば「じゃあお前の家行ってくる」と見送られたのと同じである。わりと不思議な話だな。
まぁその気になれば戻ってこれるアカネのことだ、俺が帰った後にふらふらと帰ってきておはぎを食べて帰る、なんてことも容易に考え付く。
細かいことは気にせずにちゃんとお参りは済ませておこう。今後とも俺の行く道を照らしてくれますように……と。
さて、実家に戻って飯食って、一晩泊まって明日にでも帰るか。帰省中ぐらいその程度の甘えは許されるだろう。
爺ちゃんが今夜は多めに食っていくといい、と言ってそうめんをたっぷり茹でてくれた。乾麺を茹でたものをひたすら胃に詰めるのはやはり生活的遺伝というか、俺の爺ちゃんのせいなのではないか、と思い始めた。ちなみに頑張って三束は食べた。
◇◆◇◆◇◆◇
一泊して実家を出る。爺ちゃんは気軽にまた帰って来いよと言ってくれているが、今のところ次の実家に帰るのは合格したことを報告しに帰るぐらいの時だ。
次に帰ってくるときは合格を決めて帰ってくるから、と告げると、少し寂しそうにしていたが、それでも進路について正直にダンジョン関係の学部に進みたいと伝えると、応援はしてくれた。
下手に適当な大学へ進学して適当な会社に通って適当に生きるよりも、ハッキリ探索者という道を選んだ方が確実にお前らしい、と言ってくれた。これで保護者の同意は得られた、ということになる。
俺がダンジョン学部に行きたいとしても、保護者が反対しているのでは学校側も三者面談やなんかでうまく話を合わせられないだろうし、その点で言えば俺は一つハードルを越えたことになる。
後は実際の受験でどれだけの成果を出せるのか。模試の結果もそうだが、共通テストでの足切りに引っ掛からないことやその後の二次試験のライバルの多さや学力の程度、出願人数などにも左右される。
それらを全部置き去りにして、誰がどんな点数を取ろうとも関係ない位置まで結果を出せればいいんだろうが、ライバルは全国に居ると考えると余力を残して戦い続けるのは難しいだろう。
しかし、他人の顔色ばかりを気にし続ける受験なんて面白くはない。どうせなら自分の出せる全力を出しきって、終わった後気持ちよく眠れるぐらいに問題に立ち向かったほうがまだ面白さもあろうというもの。
さて、今からが本番と思って勉強にも身を入れていくとするか。今日も帰ったら何もせずに勉強に打ち込むとするか。
帰り道にもアカネの祠の前を通る。すると、通りかかりに人が手を加えているのを見かけることになった。地元の人なのだろう。手を合わせて拝むと、俺が昨日お供えしたおはぎを片付け、新しいお供え物に取り換えている。
アカネはおはぎに間に合ったのだろうか。後で確認しておいて、もし間に合っていなかったらもう一度買い直してお供えし直すことにしよう。
しかし、賑わっている……と言っていいのか? 一日をずっと追いかけている訳ではないので実際にはどうなのかわからないが、少なくとも一日一回はなにかしらの働きかけや掃除やお祈りに来る人がいる、ということはその辺の地蔵や祠よりは大事にされているというのは間違いないだろう。
帰りの電車に乗って、実家の方向を見やる。そうするとあの辺がアカネの祠か。流石に目で見ても何かしらのパワーとかオーラがあふれているとかそういうものも見えない。
思えば不思議な関係だよな、俺とアカネ。小学生の時の悪乗りとはいえたまたま手が器用だったという理由だけで祠を作って地蔵様をピカピカに磨いて、それを俺がそうしたかったわけでもないのに誰かが引き続いて手入れをしていって、最終的に成果物であるアカネのお礼を俺がもらっている。
本来なら俺だけではなく、日々祠の維持をしている人々にもアカネの御利益はあるべきだろうし、俺がそれをみんなに振りまく必要があるならどうやってそれを成しえるか、という問題もある。お地蔵様を再起動させた俺がその再起動させる分の燃料を最初に入れた人として、いわばアカネチャン代表選手として世の中にお出しされるサンプルということでいいんだろうか。
だとしたら、あんまり下手なこともできないな。お地蔵様の御利益があってその程度か、と俺とアカネの関係を見ている誰かからそうみられる可能性だってある。もっと上を目指していかないとな。上というのがどこにあるのかはわからないが、
家に着いて、鍵を開けて中に入るとアカネは居なかった。どうやらお出かけ中らしい。帰ってきたら、おはぎは食べられたかどうか確認しておこう。今回はおはぎの供えられた時間が短かったから、もしかしたら食べ損ねているかもしれない。
もしそうなら、また大黒堂へおはぎを買いに行こう。俺の分とアカネの分で一つ。アカネに供えて俺が食べる。
さて、アカネが帰ってくる前に勉強でもしていて、あら、今日は勉強熱心なのね。私の幹也は文武両道でよろしいことね、ぐらいは言わせてやりたいところだな。早速、最近買い求めた関西にあるダンジョン学部の大学の赤本を解き始める。
難易度としては旧帝大ほどではないがそこそこ人気が高いらしく、人気の分だけ偏差値も高めに設定されている様子で、入試問題自体はそれほど難しくないものの、倍率が高いせいで必然的に高いレベルの結果を求められるようだ。
一通り眺めて答えを書き出して、解答を見直し、間違えた部分について検証し、再度結果を考え直す。真面目に問題を解いていると、アカネが帰ってきた。
「ただいま。そしてお帰り。久しぶりの実家はどうだったの? 」
「ゆっくりしたのと、何より自分で料理をしなくていい環境に甘えそうになったかな。流石に一日で帰ってきたけどさ」
「そう……ところで、おはぎの件なんだけども」
「やっぱり、味見する前にとっかえられてたか? 今日帰ってくるときにちょうどお供え物を入れ替えてるのを見てたんだが」
「うん……間に合わなかった。お稲荷さんに変わってたわ」
凄くしょんぼりとしているアカネを見て、少し笑いが噴き出してしまう。
「丁度腹が減ってもう一個食べたいと思ってたんだ。買ってくるからちょっと待ってろよ」
「そうするわ。勉強中に悪いわね、水を差すような形になってしまって」
なに、予想通りの展開だし、どうせ俺も食べたいと思っていたところだ。
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