第114話:スキルスクロール選別
食事を終えて、風呂に入る。今日もしっかり働いた分だけ、体に疲れと垢が溜まっている。しっかり体を磨いてピカピカにした後、風呂に肩まで潜ってじんわりとした温かさに包まれる。
ふぅ……さあ、風呂を出たらスキルスクロールの鑑定作業だ。今日だけで九枚も出してしまったからな。ちょっと確率が偏り過ぎな気がしないでもないが、出るもんは出る、ということで納得してスキル鑑定をしていこうと思う。
なかったことにするには大きすぎる損害でもあるし、それだけ大量のスキルスクロールを換金するにもごまかす手段がないので困りもの。なら、素直に身内で使ってしまうことにしよう。
しっかり温まってちゃんと脱衣所で汗を拭きとり、着替えてから部屋に戻る。そうしないと部屋にアカネがいるからな。見せつける趣味はないし、見られて興奮する趣味もない。
アカネのことだからしげしげと眺めた後「で、大きくなったらどこまでになるわけ? 」と逆セクハラを加えてくるのは目に見えている。俺は同じミスはしない男なのだ。
部屋に戻ったところで、ベッドの下の荷物ケースから魔石と共に仕舞われているスキルスクロールを取り出し、スマホで一枚一枚撮影。そしてスキルスクロール鑑定サイトで鑑定を行っていく。
「一枚ずつやらなきゃいけないのは面倒くさいが、この作業を自動化してくれてるだけでもありがたいのに無料で公開してくれているのはもっと素晴らしいことだな」
「解読だけでお金稼げそうなものなのにね。そんなに自分の実力……というか翻訳力を試したかったのかしら? 」
画面の隅っこを見ると寄付の文字。どうやら、いろんな探索者の寄付によって運営されているらしい。
「寄付金集まってるんだろうなあ。これだけ幅広く運営して、日本語対応がないとはいえ五か国語には対応してるのは強いと思う」
次々に翻訳をかけていくスキルスクロールに、事務的に付箋紙を貼り付けていく。俺も稼げるようになったらこのページに寄付を行うことにしよう。
それまでは便利に使わせてもらうことにする。向こうだって勤労学生やその日暮らしの探索者から金をふんだくろうとは考えてないはずだ。
と、九枚目が終わったところでネット広告が表示され、その後はどうやら受付が停止されたみたいだ。画面にはグリニッジ標準時で明日の0時まで鑑定機能が使えないことが表示されていた。
どうやら、一日辺りの鑑定枚数に上限が設定されているらしい。鑑定失敗も含めて十回が限度になっているようだ。さっき一回読み込みに失敗した分で十回、ということなのかもしれないな。
まあ、普通なら一日十回も鑑定しないわけで、精々運が良くても二、三枚だろう。だから十分すぎる余裕をもって鑑定を使うことができるわけだ。
手持ちのスキルスクロールが全部鑑定できたところで内訳を考える。
まず、目標だった【エネルギーボルト】のスキルはきっちり三枚出ていた。雷スケルトンはきちんと仕事をしてくれたらしい。執拗に狙ってスキルスクロールを狙っただけの価値はあった。
それと、ガリスケルトンがメインでくれた数枚のうち、三枚は【剣術】だった。残りの三枚はデブスケルトンがくれたものも含めて、【体捌き】スキルが三枚。
どうやらデブスケルトンの固有のスキルスクロールみたいなものはくれなかった様子。その点はガリスケルトンも同じか。
ともかく三枚ずつのスキルスクロールが手に入ったことにはなるが、これをどうするか、だな。さすがに全部自前でとってきたものを無条件で渡して確かめてもらうというのもおかしな話。
「ふむ……とりあえず相場を調べるか。値段によってはみんなでそれぞれ使って効果を実践してみる、という方がしっくり来るだろうし、怪しまれることもない。彩花にはどこで手に入れたかはばれてるようなものだからいいとして、隆介をどう説得するかだな」
「結城さんはいいとして、ということは、覚える必要があると考えたらそう入手が難しくなると考えずに覚えてくれるかもってこと? 」
「彩花の場合はそうだろうな。ここのドロップ率の高さ知ってるし、取りに行こうと思えばまた取りに行けることも解ってるし……というところだな。だから説得はそれほど難しくないとは思う。隆介のほうは……誕生日でもないのに数万するようなものをホイホイもらうわけには行かない、と固辞するんじゃないかな」
この場合、どうやって説得するかよりも納得させるかのほうが大事だが、実際に効果があるかどうかわからないスキルスクロールを売りつけるよりも、実際に使ってみて効果があるかどうかを見極めて、その後で欲しいなら渡す、ということにしたほうが良さそうだな。
まず、それぞれのスキルスクロールの価格を調べる。前にも調べたが、【エネルギーボルト】は200000円から300000円ほど。
買うときは天井、売るときは底値という法則に従うと、これだけで600000円ということになる。
今回は一切売らずに全て覚えるつもりなので、現金化することは考えなくていい。三枚とも俺が覚えてしまおう。
早速【エネルギーボルト】のスキルスクロールを手にして、覚えますと念じると、文字が体のなかに吸い込まれていき、エネルギーボルトの使い方が脳みそのなかに直接書き込まれていくようなイメージが浮かぶ。
なるほど、エネルギーボルトはこうやって使えばいいのか。頭に刻み込まれたスキルの使用方法を学ぶと、スキルスクロールはそのまま塵になって消えていった。これでエネルギーボルトがいつでも使える体になったということだ。流石にダンジョン外で使うことはないだろうし、試射したければクローゼットの中にダンジョンがあるからそこで試し打ちを好きなだけすればいい。
さて、残り二枚もやってしまうか。同じく【エネルギーボルト】のスキルスクロールを摘まみ上げると、残り二枚のエネルギーボルトも覚えてしまう。
いきなりエネルギーボルトレベル3という段階まで上げることになるが、一つずつ覚えて試し打ちをして上げていっても結果は同じなのでやるなら最初からレベル3にしてどのぐらいのモンスターにまで効果があるかを試してみるほうがわかりやすいだろう。
さすがにレベル3もあればスライムぐらいなら一撃で倒せるとは思うが、これでそんなに効果がなければちょっと凹むところではあるな。まあ、その場合は何枚重ねればそれだけの効果が出てくるのかを検証する手伝いにもなるのでそれなりに楽しみが出来ることになる。
とりあえず、遠距離攻撃手段を手に入れられたので目的としては一つクリアしたことになる。欲しかった遠距離攻撃手段。威力のほうはまだわからないが、早速明日にでも試運転に出かけよう。
どのぐらいのモンスターまで戦うことができるのか、それから威力は、連射能力は。使いすぎると疲れるのか、それともぶっ倒れるのか。把握しておくべき情報はいくつもある。スキルの多重使用はどのぐらいの負担がかかるのか。
今日はもう遅いし、毎日のリズムを崩すつもりはないので、明日の午後にでも使い勝手を確かめにいこう。
残りのスクロールだが、一枚ずつは覚えてしまおう。【剣術】と【体捌き】のスキルでそれぞれ動きに補正がかかるようになるらしい。
近接戦闘を続けていく以上、どちらのスキルも効果的なはずだ。お値段のほうも決して高いものではないので、安心して覚えていけるスキルだと言えよう。
隆介は槍を使っているし、【剣術】は俺が二枚使わせてもらおう。拾ったものボーナスとしてそれぐらいはさせてもらってもバチは当たるまい。
【剣術】のスキルスクロールを手に持ち、覚えますと念じると、スクロールから文字が剥がれて体のなかに入り込んでいく。
それを二回繰り返し、【剣術】レベル2という褒められているのか貶されているのかわからないデリケートなところを越えていく。
さて、【体捌き】も覚えてしまって、こっちは覚えるかどうか相談をしてしまおう。盾術もそうだが、【体捌き】を覚えることで自分が動きたい方向や技術、それらに対して自動補正がかかり、よりシンプルにかつ効果的に動けるようにしてくれるらしい。
スキルレベルを上げれば上げるほどより確実な動作を見込めるようになるため、とにかく枚数を重ねてより確実な動きを身に覚えさせ、それをスキルによる補正動作ではなく自分で動かす動作にトレースしていくことで探索者としての磨きを得ることができるらしい。
元がそこそこ安く、剣術はともかく【体捌き】のほうは20000円と比較的お安いので、高くて要らないスキルスクロールを売り払ったそのお金で大量購入して一気に覚えて体の動きをブーストさせつつ、探索者としての実力を高めていくということもできるらしい。
魔石入れの隅っこに小さく入れてある、付箋紙に【精力絶倫】と書かれたスキルスクロールが目に入る。これも売り払えばそれなりのお金になるのでそのお金を使ってブーストすることはできるが……もうちょっと寝かせて置いてみるか。もしかしたら使うかもしれないしな。
「あら、夏休み中に使わないの? 高校最後の夏休みぐらい派手に騒ぐのもありだと思うけど? 」
「普通高校最後の夏は受験の追い込みをかけ始める時期だから、本当に派手に騒ぐなら去年までにしておかないとな。むしろ受験が終わってからかな……って何言わせるんだよ」
アカネがクスクスと笑いだす。どうやら向こうのほうが一枚上手らしい。
「お赤飯は炊いてあげられないけど似たようなことができるようにはなりたいものね。二人とも自由に頑張ってほしいものだわ」
「そういえば夏休みなんだし、一度実家に帰ろうか。ついでにアカネの祠が綺麗になっているかも確認したいし、汚れてたら掃除にも行きたいしな。普段お世話になってる分を違う形でもお返ししないとな」
「あら、それは嬉しいわね。せっかくお供えしてくれるならおはぎがいいわね。大黒堂の小判おはぎ、一つで良いからお供えしてくれると嬉しいわ」
「覚えておく。お盆には実家に帰るからその時だな。また磨きに行くから楽しみにしておいてくれ」
さて、明日は体ならしと剣術と体捌きのレベルを上げたことによる体への負荷や動きへの違和感と、遠距離攻撃の使い勝手や使い具合、限界を知るための時間だ。きっちり無駄なく時間を使っていこう。
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