第112話:スキル集めは穏便に
今日は一人でダンジョンに潜る日だ。午前中はいつも通り勉強し、途中までやってあった赤本を一冊解き終えたところで一旦勉強を中断し、昼食をしっかり取って、それから俺専用ではなくなってしまった専用ダンジョンに入る。
今日の目的は主に三つ。リザードマンからスキルスクロールを得るか、雷スケルトンからスキルスクロールを得るか、オーク肉を得るかのどれかを達成することだ。
調べたところ、今まで行ったことのある階層の中で遠距離攻撃手段を獲得する場合、ドロップ率の意味で言えばリザードマンから【ウォーターボール】を取得するのが一番難しいらしい。
これは十層以降で出てくるモンスターが様々な魔法系スキルを落とすこともあるのだろうが、四層でリザードマン相手にちまちまと拾いに行くよりも、十一層以降まで踏み込んでそいつを相手にする方が倒せる数もドロップ率も高い、ということで取得難易度が一番高いようだ。
次に雷スケルトンから【エネルギーボルト】と呼ばれる雷撃ではない雷撃の魔法のスキルスクロールを取得すること。こっちの方がドロップはしやすいらしい。ただ、行く場所が中途半端な所なので、スキルスクロールの枚数を重ねてスキルを強化するにはそれなりの根気が必要だと言われている。
また、ドロップする【ウォーターボール】スキルもそんなにお値段のするスキルではなく、150000円ほどだ。無理すれば買える範囲ではある。
そして【エネルギーボルト】のスキルの価格だが、これもまたそれなりに高く200000円から300000円となっている。価格的には【忍び足】と同じかちょいと上ぐらいだ。
出やすさとスキルに与れる恩恵を考えると、ちょっと高すぎるのではないか? とも感じる所だが、六層まで歩いて潜ってスケルトンをわざわざ倒しに行かなくてはいけない苦労を考えると、逆に安いと言えるかもしれない。
この辺は個人の感覚か。実際に潜ってドロップさせに行ってみて一回のチャレンジで二枚三枚落ちるようなら金策として中々悪くない話になるかもしれないな。
学生の御身分ではどちらにせよ購入という手段でスキルを手に入れることはなさそうなので、素直に専用ダンジョンに通ってこっそりと覚えることに熱中していても不思議ではないか。
ちなみにオーク肉は急ぎではないが、食べられる肉を調達するには便利なので帰り道にでも集めていこうという話だ。行きに出てくれても構わないが、帰りのほうが荷物に余裕ができてうれしいことにはなるかな。行きにあんまり大量に落ちられても困る、というのが素直な感想だ。
さて、お昼も食べ終えて腹も満ちた。何時間ほど潜っていられるかどうかはわからないが、お腹が空き始める前に退散するように時間調整をするなり、中で何か食べられるように持ち込むなりしなければならないな。どうしようか、パスタを軽く茹でて塩パスタだけでも用意しておいて、中で食べられるようにして行こうか。
食べなければ食べないで夕飯に使えばいいし、食べたらその時は夕飯を少し遅めに取ることができるのでどちらにせよ作って持ち込むほうが気楽になるか。よし、そうと決めたらお弁当を持っていこう。
「あら、お弁当持っていくの? 帰りは遅くなるのかしらね」
アカネがキッチンでいつものパスタを茹でているのを見かけて声をかけてくる。
「念のため、かな。夕食はまた別で取りたいけど、今日の目的地は六層だから行き帰りにそれなりに時間がかかる。そうなると水分と食糧を念のため持っていったほうが、お腹が空いた状態で帰ってこなくて済むかなって」
「なるほどね。気を付けて行ってくるのよ。こんなつまらないところでスケルトンに襲われて二度と戻ってこないなんてことはなしにしてもらいたいところね」
「そういう可能性はできるだけ排除してはいるが……弓矢スケルトンあたりならちょっと断言できないかもしれないな。せいぜい出会わないことを祈っててくれ」
「そうね。おまじないをかけておくわ。気休めだけど、ないよりマシでしょ」
そういうと、アカネは俺の前でトンボの目を回させるように指先をくるくると回した後、指を上へ逸らす。俺の首もつられてそっちへ向く。
「これでよし……と、お地蔵様のおまじないよ、そのへんの下手な神社に交通安全をお参りするよりはありがたみがあるはずだから迷わず帰ってくることね」
「迷いって死に迷うことまで含まれてるのか。ちょっと物騒だが……まぁいい。行ってくるよ」
アカネは残って何をするのかまではわからないが、ついてこないところを見ると何か仕事があるんだろう。
できればアカネがついてきてくれたほうが楽ができたんだが、そこまで贅沢はいえないからな。自力で何とかする方向で行こう。
早速着替えてダンジョンに入る。いつも通りスライムやゴブリンはできるだけ素通りの形で通り過ぎてシールドゴブリンも同様。もはやこの辺のモンスターでは準備運動にもならない。
レッドキャップはしっかり倒す。また【忍び足】が出たら彩花に回せるからな。一応探しながら積極的に倒しては行くものの、どうやら今日の行きにはご縁がなかった様子。帰りに期待しよう。
オークエリアにたどり着き、肉目的に出会った分は全て倒していく。魔石が倒した匹数分だけしっかり溜まるが肉はそれなり。大量というわけではないが、少なすぎるというほどでもない感じだ。帰りは素通りでもいいぐらいだろう。
オークはスクロールをくれない代わりに肉と睾丸をくれる。どっちもそこそこの値段で買い取ってもらえるので財布に優しいモンスターだといえるだろう。
オークエリアを抜けて肉を三枚手に入れたので行きの稼ぎとしては十分だな。むしろ帰りに三枚出てくれた方が気楽であったまである。帰りもオーク肉を手に入れる可能性があることを考えると、余分に落とし過ぎたきらいもある。
オークエリアを抜け、足早に三層を抜けきる。さあ、ここからは四層。問題のリザードマンエリアにきたぞ。こいつらが邪魔をしてくれるのか、それとも手伝ってくれるのかはドロップ品にかかっている。
槍を落としたら邪魔、スキルスクロールを落としたら協力してくれている、と考えられるのがわかりやすいところだ。さてどっちなのか、それともなにも落とさずそのまま素通りさせてくれるのか。
最初に出会ったリザードマンをしっかり見据えて、相手が戦闘態勢をとり始めるまでに全力で近づき、構えるより先に首筋から斜めに袈裟斬りにすると、そのまま黒い霧になって消滅。
うん、やはり待ちの姿勢で挑むより、先手必勝だな。時間もかからないしこの方がシンプルでいい。要らん緊張もせずに済むし、やはり攻め一辺倒でいられるのが楽すぎる。
あとは……さすがに一匹倒してレアドロップが出るほど俺もこのダンジョンも甘くはないらしい。とりあえずレッサートレントを乗り越えて先にスケルトンのほうへ行こう。スケルトンで時間を稼いでしっかりと探索を進めて、雷スケルトンをできるだけ狙って倒せるようにしたいところだ。
これなら三層のボス部屋前でちょっと胃袋に入れておいたほうがよかったかな。駅前ダンジョンと違ってこっちの五層にはボス部屋がない。代わりに三層にあるため、休憩所が存在しない。
というか、そもそも俺一人しかうろつかないダンジョンにフリースペースも安全地帯も、人が良く通るおかげでモンスター発生確率が少ない、という場所もまた存在しないのだ。これは適当な場所に腰を落ち着けて腹が減ったら飯を食う、ぐらいの気持ちでいればいいな。
五層に入り、レッサートレント数匹を倒し、樹液を一本拾ったところでさっさと六層へ抜ける。
ここ五層には正直これといった用事はない。もし駅前ダンジョンみたいにモンスター出現量が薄い場所があるなら休憩に使う手もあっただろうが、そういうわけではない。樹液狙いでもないのでレッサートレントが出てくる分だけ収入にはなるものの、同時に重荷も増えるのが困りものかな。
ひとまず五層から六層に抜ける間に丁度いい空間があったためそこで軽く胃袋に詰めてこんでおくことにした。ここなら実質最深部だし、今から動くにもちょうどいい具合だろう。
もしレッサートレントが湧いても六層側に逃げれば、駅前ダンジョンと同じ作用をするなら、だがレッサートレントは六層側へ移動してこれないはずだ。念のため山賊刀は抜き身で置いておくが、もしもこっち側へ来られたら……と思うとそれを試すには一度レッサートレントをこっちに呼びよせて、階層移動が本当に出来ないかどうかを立証しないといけないか。
とりあえず食事の最中にレッサートレントが寄り付くことはなかったので、休憩も終えてしっかり休んでからレッサートレントを一匹見つけては石を投げて呼びつけ、蔓を回避しながら境目のほうへ呼びよせてみる。
俺を追いかけてくるレッサートレント。元々足の速いモンスターではないため、ゆっくりちょこちょこと移動しながら追いかけてくる様は可愛いが、蔓のほうが先に伸びてくるため、蔓を回避しながらの移動戦闘になる。これはこれで結構手間だが、ちゃんとデータ取りをするために必要なことだと割り切って釣り行為に勤しむ。
すると、レッサートレントはある一定距離から先へ、具体的には俺が足を踏み入れた六層部分に対しては蔓を伸ばさなくなった。どうやら蔓が伸ばせるかどうかでも階層の境目を認識することができるらしい。
本体がちょこちょこと移動してきてはいるものの、俺自身が六層に当たる部分にいるため、手が出せない様子だ。どうやらアカネのダンジョンでも、モンスターはより深い階層に対してちょっかいを賭けることはできないらしい。
それが確かめられたならヨシ……ということで最速の斬撃でレッサートレントを一刀の下に斬り伏せると、また出てきた樹液をバッグに放り込むと、意気揚々と六層へ入り込む。さあ、お腹も膨れてやる気も充分だ。ここまでかかった時間を逆算すると……二時間ぐらいはスケルトンに集中できるな。
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