第111話:次回予定とキノコ鍋
「そうなる。実際にボス戦になるとしても、近寄るまでのけん制やお互いが相手にするオルトロスの首への意識をどちらか一人に向かせないためにも、過剰気味の攻撃力で抑え込めるようになりたいからな。そういう意味でも遠距離攻撃手段の獲得は便利に扱える代えがたい武器だと思う」
どっちから先に手に入れられるだろう? という疑問はさておき、出来るならリザードマンよりも雷スケルトンのほうからスキルスクロールを手に入れられたら便利だな、とは考えているところ。後はこのドロップ率の高さからどれだけ早く手に入れることができるのか? という点だけが影響として残る。
「良い感じに拾えれば問題はないんだけどな。ちょっと明日の午後辺りに潜ってみるか。運よく出たらご馳走様、出なかったらまた後日ってことで」
「明日は一日塾だから付き合えないわよ? 一人でやる気? 」
「まあ、レベル差を活かしてきっちり仕留めてくるつもりではある。もし何事かがあったらアカネが知らせに行くはずだから心配はないと思うぞ」
「便りがないのが安全の証拠ってことね。まあ、幹也なら大丈夫だとは思ってるけど、専用ダンジョンならそんなにモンスター多くないし、一匹一匹確実に倒していくなら大丈夫かも? 」
「そんな感じ。オークだって多いところでも二匹しか出てこないし、レッサートレントも多くて二匹。なら、スケルトンも似たような感じになると思う。流石に数に囲まれて苦戦するようなことにはならないだろうし、丁寧に戦っていくから問題ないさ」
彩花ももちろんそうなんだが、一人でオークぐらいなら問題なく倒せるほどレベルが上がっているんだからそこまで心配するほどのものではないし、流石にオークチーフにまた挑む、となれば話は別だろうけど今のところそのつもりもない。
自由に時間が決められる分だけこっちのほうが駅前ダンジョンよりも融通が利くし、ドロップもたくさん落ちるので便利な場所になっている。不便なのは換金する時に駅前ダンジョンを経由しなければいけないことぐらいか。だが、そこまで金に困ってない現在、それを行うに充分な時間と手間をかけてはいられない、というのが一番にある。貴重な時間をちょっとした換金で使い果たしたくないのだ。
十層へ潜ってしばらくそこで休憩して、戻って換金という手段を使うことで手を打つとするか。自宅での換金はしばらくその方法で行こう。
「じゃあ、私はそろそろ帰るわね。夕ご飯に間に合うように……よし、メールは送ったわ。これで今夜はキノコ鍋が食べられそう」
「なら一安心だな。肉はどうする? 持っていくか? 」
「そうね……まだ使ってないオーク肉があるはずだからそれを使うと相乗効果でより美味しいと説得しておくのがいいかもしれないわね。……っと、返事来たわ」
しばらく親との会話を続けていたが、真剣な表情でこちらへ向きなおすと、彩花が決意を告げる。
「もう一枚お肉を拝借してもよろしいでしょうか」
やはり肉が足りないらしい。俺の方にも在庫はまだある。今解凍中のオーク肉を除いてもまだまだある。キッチンの冷凍庫から肉を一枚取り出すと、スッと渡す。
「どうぞお持ちになってください」
「ありがたく受け取ります。それとこれはお礼も込めて……」
お礼のついでに軽いキスがもらえた。これでもうお礼としては充分だな。美少女のキスが肉で買えるなら誰にとっても安いものというところだろう。いや、俺だからこそ美少女のキスが肉で買える。そういうことにしておこう、そのほうがありがたみがより増すし、自分への自信につながる。
「あら、帰るのね。夏休みだし、彼氏の部屋に一泊して朝帰りーとかでもいいのに。私が邪魔ならどっか行ってるからいいのに」
「その心配はなさらなくて結構よ。本当に邪魔になりそうだったらその時は言うからごゆっくりさせてもらうわ」
「それはそれで嬉しいけど、幹也を取られたようで少し寂しいわね。幹也は私のものなのに」
「その取り合いはまた後日しましょう。とりあえず人間の間では幹也は私のものだから良いわよ。心からアカネさんに惹かれるほど美少女になるならまだしも、今のその見た目では犯罪臭しかしないし、触れられないものね」
なにやら、バッチバチに視線と電撃を飛ばしているようなエフェクトを立てているような雰囲気で彩花とアカネがやり合っているが、おそらくは言葉遊びの範疇だと思う。そうであってほしい。
俺のとり合いで喧嘩するならここで「やめて! 俺のために争わないで! 」と声を上げる所だろうが、その心配はない様で、しばらくすると二人とも笑い始めた。
「あー、馬鹿らしい。またいらっしゃい、結城さん。夏休み中にもこっちに潜って学力も体力も付けるんでしょう? 」
「その予定よ。出来れば夏休み中に十層まで作ってくれると、駅前ダンジョンでもここのダンジョンでも十層までワープで行けて便利だから是非とも頑張って作ってほしいところだわ」
「それまでには間に合わせるから心配しないで。あとちょっとなのよ。数日待てともギリギリまで待てとも言わないけど、いい感じに待ってくれると嬉しいわ」
元に戻った彩花とアカネが家主の知らない所で家の増改築の相談をして帰っていく。ここは俺に言うべき話ではないのだろうか。それとも、家主よりも彩花のほうが話が通じやすいとして通されていったのか。細かいところまでは解らないが、とりあえず夏休み中に十層まで出来るのはほぼ確実らしいな。
「それじゃあね、ばいばい」
彩花が帰っていく。後にベッドの上での汗の香りと髪の香りと、彩花本人の体臭を残して。さて、夕飯を作るか。
ご飯を炊き、家に帰ってきてからずっとレンジでやっている解凍を待ちながら、具材を一口大にそろえて切って待っておく。やがて、終わったらしい肉を低温でじっくり焼いて脂を出し、ほどほどに解凍が終わった様子ならそこに水と鍋の素を入れて、キノコや豆腐や白菜やネギを放り込んで、一煮立ちさせる。
夏だが鍋だ。異論はあるだろう。しかし、食材を無駄にしないという意味では九層で手に入れてきたキノコたちをきちんと処理するためにも鍋である必要性は高い。実際鍋が一番効率よくキノコ類を消費できるんじゃないかと思うほど、鍋物にはいろんな可能性がある。
鍋を一煮立ちさせている間にご飯が炊けたので、炊き立てのご飯にキノコ鍋という中々の対戦を成立させた。早速食べる。
アカネにお供えして一礼。
「いただきます」
「はい、おあがりなさい」
アカネが神力を吸い取っていく。そういえば、自分のダンジョンから取れた食材をただ切って調理するだけでも神力として会得できるなら、神力が作用する部分は俺の料理スキル、ということになるんだろうか。
ダンジョンから出てきただけの食材を調理するだけでも神力が獲得できるなら、そのまま生でオーク肉を食べるのでも最悪神力になってしまうことになるが、その辺はどうなっているんだろうな。今度聞いてみよう。
「別に今でも良いのよ? 正解は、神力のプラマイがゼロになるってところかしらね。多少神力を使ってダンジョンを作っているから、その分を食事としてお供えしてもらうことで回収しているということね。ただ、使ったよりも食べるほうが多くなればその分私のプラスにはなるし、いくら幹也でもキノコや肉を生で食べるなんて愚行はしないでしょうから、そこは心配してないけど」
なるほど、やはり調理部分、細部に神は宿るわけだな。一つ勉強になった。俺が神様になる時は参考にしよう。さて、気を取り直して食事だ、食事。今が一番おいしいところだろうから余すところなく食べていこう。
……キノコの旨味が強い。オーク肉の脂が隠れてしまうほどにキノコ自体が強く、また数種類のキノコの食感の違いがそれぞれ味わいを楽しませてくれる。シイタケのように柔らかい傘と程よい弾力を持つキノコもあれば、エノキのようにシャキシャキとした歯触りを提供してくれるキノコもいる。また、それらの旨味をじっくりと吸った豆腐や白菜がまた美味しい。
これはオーク肉が主役になるには少々難しい鍋だな。他の二つの家では大丈夫だろうか。キノコに他の具材が負けてないか心配だ。このキノコはそれほどの旨味を与えてくれている。
食事中だが調べてみると、ダンジョンの中のキノコは複数種類あり、どのマイコニドを倒せばどれが落ちやすい、という統計的なデータは取れていないらしい。ただ、どのマイコニドも全ての種類のキノコを落とす可能性があり、キノコの種類は解っているだけで九種類ほどあるらしい。
そのどれもがうま味成分であるグアニル酸を豊富に含むため、コンブなどのグルタミン酸を多く含む食物との相性が抜群に良いらしい。昆布だしを加えれば更にもう一味上のランクのキノコ鍋が楽しめたわけか。
うま味調味料で今から代用できないかな……せっかくだからうま味調味料を足す前と足した後でそれぞれの味わいの違いを分析してみよう。うま味調味料を足す前のスープを少し器にとって残しておくと、うま味調味料を数振りしてかき混ぜて、味を調えてからもう一度食べてみる。
……うめえ……こんなに違うもんなのか。うま味調味料の実力もさることながら、それを相乗効果で引き上げることができるキノコの旨味の強さにも驚かされる。少し苦みを感じるぐらいの膨大な旨味がそこには積み重ねられている。
九層でこんなにうめえ鍋が作れるなら、もっと奥の方で取れる素材で作った食事はどれほどの味わいを俺に教えてくれるのだろう。俄然ダンジョンに対する期待感が膨れ上がる。
より美味いドロップ品食品を求めてダンジョンに入り浸る……そういうのも面白いかもしれないな。食肉に限らず、色んな食品を集めて食べて楽しむためにダンジョンに潜る。そういう人間は少なくはないはずだ。今からでも遅くはない、これから頑張ってダンジョンに潜って実地試験を受けるような気持ちでもってダンジョンに挑む。
そのためにも、受験のほうはしっかりとこなさなきゃいけないな。このキノコ鍋の美味さにかけて、俺はこの受験を乗り越えよう。
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