第11話:一人と一柱の秘密
日曜日は二時間ほど自分のダンジョンに潜って、ゴブリンの魔石を40個ほど手に入れた。これだけで20000円の資産が出来たことになる。後、ついでにレベルも上がった。これでレベル4か。本来ならレベル4に上がるまでに、通常なら何万匹のスライムやゴブリンを相手にしなくてはいけないことを考えると急激な上昇だが、自分ではレベルが上がってどうなったのか、というのを検証するのは難しいので面倒くさいことは考えないようにしておく。
しかし、レベルはあるとしてもパラメータはあるのかな。実際に体力テストなんかしてみたら結果がわかるのかもしれないが、今年の春の体力テストはもう終わってしまったので、学校行事の出来具合でそれを理解するしかないんだろうな。
朝食に、昨日買ってきた米を炊いて、弁当箱にも詰める。こういうのは食べられる時に食べておかないと。塩パスタだけの昼食弁当からはオサラバだ。俺の弁当の具合を見て隆介も、ダンジョン探索者は頑張れば儲けを出すことができる、というところを見せる必要がある。いや、見せる必要はないが隆介のことだ、勝手に見に来るだろう。
さて、隆介にどう言い訳するべきか……とりあえず俺専用ダンジョンのことは言えないのは当たり前として、いくら儲けたからちょっと昨日の夕食から良い物を食べ始めたと伝えることは必要だろうな。
今日もアカネにお供えして朝食をとる。ついでに昼食の弁当も備えると、両方青く光った。二食分のお供えでも効果はあるらしい。有り難い朝食を食べると、アカネに行ってきますを言って家から出て学校に向かう。
学校へ向かう途中、なんだかすれ違う人の視線が気になる。何なのだろう、この視線の量は。いつもはこんなに人に見られることはないはずだが……一度自転車を停めて、自転車にいたずらでもされているのか、それともパンクでもしているのかとチェックはしてみるが、どこもおかしいところはないしいたずらもされていない。
ふむ……? ということは注目されてるのは俺、ということになる。念のため頭を掻いたりしてみるが、寝ぐせも付いていないし至っていつも通りだ。寝ぼけてパジャマのままで登校してきたわけでもない。何が俺をそうさせるのだろう……?
教室に入ってもみんなの動きは同じで、一瞬俺を見て、視線を戻したと二度見する奴がいる。しかも複数人だ。一体何がどうなってるんだ、何が変わっているというのか……
いつも通り始業のチャイムの前に隆介が顔を見せる。
「おっ……おっ、おっ」
「オットセイかお前は」
「幹也だよな? 」
「ほかの何に見える……って前も確かこのやり取りしたぞ」
「いや、たしかに幹也だ。で、どうだったんだ土曜日の探索者稼業は。ちゃんと儲けられたか? 」
黙って親指を立ててバッチリ稼いできたという報告を隆介にしておく。
「そいつは何よりだ。で、どうなんだ。俺の誕生日までにレンタル料金そろえて返せそうか? 」
「それも視界に入ってきたな。この調子なら問題なくいけるかもしれん。丸一日潜って稼げるのが土日しかないが、土日両方使って稼いで帰ってこれるなら隆介にも色を付けて返せるぐらいには儲かりそうだ。防具のおかげで命拾いもしたしな」
「それは出資者として嬉しい一言だな。防具がなければ膝をやられていたかもしれない、という奴か」
「まさにそれだ。本当に膝を狙って殴ってくるとは思わなかった。これも隆介のおかげだな」
チャイムが鳴る。隆介は自分の教室に戻る際に「そういえば今日テストらしいから頑張れよ」と要らん一言を残して去っていった。今週中とは聞いていたが月曜日から小テストとはついてないな。せめて明日なら今夜中に勉強していい点とろうという気にもなっただろうが……まあ、諦めるか。
隆介の予言通り、二限目は数学の小テストだった。絶望的な出来を想像しておいて、配られてきたプリントを見る。
……あれ、なんか簡単じゃね? これはあの公式を代入して解けばすぐに答えは出るよな? こんな簡単な問題が小テストで出てもいいのか? いつもよりもなんだかプレッシャーが低いというか、ちょっと考えれば教科書の隅に書いてあった公式でほとんどが解ける問題だぞ。
ササっと解法と答えを導き出すと、テストはものの十分で終わってしまった。数学ってこんなに簡単だったっけなあ。
その場で採点が行われ、俺の点数は普段の点数から一気に上がってクラス内2位という急浮上を果たした。教師からも「ちゃんと予習復習しててえらい! 」と褒められた。確かに昨日潜ってない間に教科書をパラ読みして中身を頭に詰め込んだのもあるだろうが、それにしては点数が良すぎる。もしかして、これもレベルアップの恩恵という奴なんだろうか。だとしたらレベルアップをすることでちょいとだけ賢くなってしまったということになる。
これもレベルアップの弊害……いや、この際得として受け取っておこう。レベルのことは黙ってればバレないだろうしな。隆介は薄々勘付いてきそうな気はするが、実際に聞かれるまでは答えに窮することもなくていいだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
昼休みになり、いつものところでお弁当を食べていると隆介が現れた。隆介は俺の食ってる物と俺の顔を見比べている。
「どうやら儲かったのは本当らしいな、今日は塩パスタじゃない」
「おうよ、食材買い込んで今日は弁当をこしらえたぞ。明日はまた塩パスタに戻るかもしれないが、ちょっとした収入があった時ぐらいはリッチにいかないとな」
「あんまり食費を使い込んで、俺に防具を取られるようなことはしないでくれよ? 出来れば買い取ってくれる方が俺も懐が潤うことになるんだから」
「そういうお前は……彼女弁当か? 今日はまた一段とかわいい弁当を持ってきてるな」
隆介の手には男らしからぬ袋に包まれた弁当があった。これも例の彼女の手作りなんだろう。
「羨ましいか? 」
「羨ましい。しかし、相手がいないんじゃもらいようもないからな。女の子とのデートにも困窮するような台所事情の学生には手に入らないものだと嘆いておくことにするよ」
隆介のお弁当の中身はかなりの愛情が詰まってみると見える。所々焦げや欠け、失敗作の跡がみられるが、あえてそういうところも見せつけて不器用なりに頑張った、というアピールをしているところなのかもしれない。俺なら失敗作は自分の弁当箱だけに詰めて、成功作を渡すという作戦に出るとは思うんだが、もしかしたら失敗作が多すぎて隆介の弁当箱にもちょっとはみ出たのかもしれないな。
いや、そういういじらしいところをアピールするためにわざと失敗作まで混ぜ込んだ、という可能性まである。隆介は勘がいいのでそこまで読み取って受け取ったのかもしれないしな。どっちにしろ、彼女の愛情が詰まっていることに間違いは無さそうだ。
「幸せって何だろうな」
「腹が減らず、寒くなく、孤独じゃないことじゃないか? 」
「隆介にしては珍しい表現だな……でも大体合ってるかもしれない」
腹は満ちた。服はちゃんとあるので寒くはない。孤独は……そういえばアカネが来てから孤独感を感じることは少なくなったな。そういう意味では今の状態でもある程度の幸せは享受できているのかもしれないな。
それに、このお弁当には神力が宿っている。間違いなく道祖神の加護を受けたお弁当だ。その加護でもってして今の俺の身体が少しずつ作り替えられていたのだとしたら、それこそありがたみのある弁当であると言えよう。
「で、お前はまたダンジョン潜るのか? 」
「ああ、また土日に潜る予定ではある」
「小テストの結果は? ダンジョンに潜るぐらいの余裕がある本条様のことだからさぞお出来がよろしかったんじゃないでしょうか」
若干煽り気味の隆介に、小テストの結果を見せる。点数を見て驚愕する隆介。普段の俺の成績を知ってる隆介すら驚く結果だったらしい。
「予想外に良かった。もしかしたら一日ダンジョンを体験したおかげで血の巡りが良くなったか、良い物を食べて頭にもその効果が出たのかもしれない。何にせよ、結果は上々以上のものだったよ」
「お前にしては珍しいこともあるもんだな。ダンジョンに通うと賢くなれるのか? 」
「だとしたらみんな塾に通わずダンジョンに通っているだろうさ……と、ごちそうさま」
弁当を食べ終えて片づけをして立ち上がり、全身の調子を確かめるべくマッサージと伸びをする。
「なあ幹也、もしかしてなんだが。お前ダンジョンに行ってからちょっといい男になってないか? 」
「ダンジョンにそんな効果があるとは知らなかったな。オタク共にそれを知らしめたらみんなこぞってダンジョンに行くようになるかもしれないな」
「ふむ……いや、でもダンジョン行く前からお前の変化はちょっとずつあったからな。ダンジョンのせいじゃないのかもしれん。だとしたら、好きな子でも出来たか? 」
「そうだなあ……好きな子か……思い浮かばんな」
アカネの顔が一瞬よぎる。流石に幼すぎて俺の好みではないが、もし何かしらの理由で育てば俺の好みのど真ん中を行きそうなポテンシャルは持っているとは思う。
今はおかっぱとはいえ成長すれば髪も伸びるだろうし、そのままストレートに伸ばすのでもいいし、ウェーブを効かせて艶やかな髪質をそのまま表現するようなアカネを思い浮かべる。それも悪くはないな。
しかし、女が出来たと一言で言ってしまえばその通りなので、隆介の意見を真っ向から否定することはできなくなる。中々悩ましいな。あの道祖神様は神力を蓄えることで育ったりするのだろうか。それもダンジョンに通ってる間に発揮されるものなのだろうか。この先が楽しみ……なんか光源氏じみた発想をしている自分に気づき、頭を振ってその考えを否定する。そもそも触れられないんじゃ楽しみようもないしな。
「まあ、今の所は何もないな。精々良い物を食べたから血色が良くなったとかそんなところじゃないか? 」
「かもしれんな。さて、そろそろ昼休憩も終わるし、退屈だが大事な授業に戻るとするか」
「ああ、午後も仕方なく授業を受けるか」
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