第109話:ワープポータルからの帰還とボス戦予習
ワープポータルにたどり着いたことで、今日の大目標は無事に達成された。予定よりもかなり早いペースであるものの、延長戦をしようとは思わない。
背中のリュックはすでに魔石とキノコで一杯だ。これ以上探索を進めるなら、一度換金してからの方がいいだろう。
「さて、とりあえず一層に戻って換金してそれから考えるか」
「そうね。ここでボーっとしてても時間の無駄だし、目標にはたどり着いたのだから、これ以上のお仕事をするでもしないでもどちらでもいいけど、少なくとも荷物はいっぱいだから換金したいわね。魔石だけでも精算しておきたいわ」
「まあ、どっちにせよ今日はここから帰る予定なんだ。ワープポータルの経験をしておかないとな。さっさとくぐってしまって、一層に本当にたどり着いてるのか確認しにいこうじゃないの」
三人が一人ずつ順番にワープポータルをくぐる。歩いてポータルを抜けた先には一層の壁が現れた。ここで立ち止まるな、と書いてあるあたり、初めてワープポータルを使ってみて驚いて、戻ろうとする探索者も居たんだろう。
俺、彩花、隆介の順番で一層に出てきて、しばらく離れた後、本当に戻ってきたのかを確認し、ついでに荷物も減ったりしてないかどうか確認。それぞれ装備も持ってるし、腕を一本置き忘れてきた、なんてこともないらしい。実に不思議な仕組みである。
「うーん……なんか不思議な気分だ。ダンジョンも充分不思議だし、ダンジョンの空間が外とは違う流れになってて広さやなんやかんやがねじれてる空間だとわかってても、その上でなおワープポータルが不思議に感じるのはなんでなんだろう? 」
「多分、まだ歩いて回れるダンジョンの各階層と違って、一瞬で移動しちゃうからじゃないかしら。これも、本当に自分が移動したのか、移動した先に自分と同じ物体が生成されたのかは判別がついてないそうよ」
「つまり、ポータルの向こう側ではこっち側に出てきたのと同じタイミングで俺が消滅処理をされてる可能性があるってことか。なんか怖いな、踏み出してはいけない領域に足を踏み込んでしまったような不安がある」
「まあ、おかげで短い時間でダンジョンから帰ってこれて、同じ人が二人存在しないのは間違いないようだからいいんじゃないかしら。ただ、通話中にポータルを通ると通話が一旦切れるらしいわよ」
彩花はよくそんなことを知っているな。わざわざ調べたんだろうか。まあ、細かいことは良いか。とりあえず俺達がやらなきゃいけないのは、キノコと魔石の分担と換金カウンターでの換金処理だ。
今日は一層から十層までしっかり回ったし、途中蝙蝠をたくさん狩ったからドロップのほうも期待できる。まだ帰る時間に早いと言えるが、しっかり動いたし今更になって更に喉が渇いてきた。ここでいったん打ち切って後日また潜る……というのでもいいだろう。
「さて、いくらになったのか楽しみだな」
「キノコはどうする? 種類を分けてそれぞれ三等分するか? 」
「一人に一種類よりはそのほうが楽しめるはずだからそうしましょうか。とりあえず換金カウンターへ行きましょう」
換金カウンターでキノコ以外の換金物を全て預けて三等分でお願いすると、その間にカバンの中のキノコを取り出して、それぞれ色んな種類のキノコに分けて、それぞれの家へ持ち帰る準備をする。
九層に行くだろうしカバンの中身にキノコが入るだろうから、あらかじめビニール袋を持っておくとよい、と告げておいたおかげでバッグの中がキノコの菌糸に覆われて二度と使い物にならなくなることはないはずだがこれで水気を浴びた際にバッグからキノコが生えてきたら大問題だな。そうならないよう祈っておくか。
キノコの山分けをしている間に鑑定が終わり、それぞれ42800円ずつの収入になった。フルタイムで潜ってないのにこの金額は正直かなり多い。それだけマイコニドと階層の中間点で詰まっていた蝙蝠たちの処分量が多かった、ということでもあるだろう。
その金額にプラスして、マイコニドのドロップしたキノコがカバンの半分ぐらいを占めている。流石にキノコを持ち歩いてこのままもう一回十層へ向かうとか、オークへ向かって鍋の肉を調達……という空気ではない。
「帰るか。家に帰れば肉は一応あるけど、隆介と彩花はどうする? 鍋用の肉として一枚ずつ持っていくか? 」
「いいのか? 食にあまりこだわらない幹也にとっては貴重なたんぱく源だろうに」
片眉を上げて隆介が俺の食糧事情を心配してくれている。勿論半分は冗談なのだろうが。
「まあ、キノコだけ食べさせるというのもアレだからなあ。一応肉の在庫はあるし、欲しくなればまた取りに来ればいいし。それよりもキノコと肉で鍋が出来る喜びのほうが大きいはずだからな」
「そうか、ではお言葉に甘えることにする。結城もそうするのか? 」
「私はどうせ幹也の家で着替えてから帰らないといけないから、どちらにせよ幹也の家には行くわよ。小林が来たければ来る、という話だけよね」
「じゃあちょっとお邪魔するとしよう。今日は終わりには少しばかり早いが、キリが良いところで切り上げるのも大事ってことでまた次の機会に探索に来ればいいさ。次こそはボスとは言わんがシャドウウルフだったか? あいつらと戦ってみたいもんだ」
換金を終えて自転車にまたがり、三人連なって俺の家へ向かう。途中の信号で一瞬途切れたものの、信号が変わるまで待っていてくれたのは、俺がたどり着かないと家の鍵が開かないからだろう。ちゃんとわかっていてくれて嬉しい。
道中、今日早速キノコ鍋にするかどうかを考えながら帰る。うむ……今日の収入でちょっと買い物をして、豆腐と白菜とネギぐらいは欲しいな。せめてそのぐらいないと鍋というより怪しいキノコと肉の鍋になってしまうからな。
家に着いて鍵を開けて、冷凍庫の中からオーク肉を取り出し、冷凍のまま隆介に持たせる。
「綺麗に洗って水分を落としてから冷凍させたから、そのまま解凍して食べても問題ないはずだ。ビニール袋も新品を使ってるから汚れとかは気にしなくていいぞ。俺もそのまま解凍してちょこちょことつかってるクチだ」
「その辺は信頼している。じゃあ肉一枚貰っていくぞ。これでキノコ鍋に更に味わいが加わったな」
「私はまだ家に肉が残ってたはずだから大丈夫のはずよ」
彩花は今回は肉は良いらしい。まあ、彩花の場合最悪こっちのダンジョンでオーク狩りに勤しめばいいしな。そんなに急ぎで作る必要もないという事だろう。
「じゃあ俺は先に帰るぞ。水分も取りたいしな」
隆介は急ぎで帰っていった。水ぐらいこっちでも出すんだが、やはり自宅で飲むほうが気楽でいいらしい。それに隆介の家ならコーラでも牛乳でもスポドリでも飲み放題だろうからな。みみっちい俺の冷蔵庫を漁るよりはよほど満足できるものが飲めるだろう。
さて、残された俺と彩花。とりあえず肉をレンジで解凍しつつ、飲み物を用意して二人でのんびりする。流石にコーヒーやココアぐらいは用意できるようになった手前、彩花にも限られた選択肢の中で出来るだけ贅沢をしてもらいたいからな。
「じゃあ、ココアもらうわね。後氷も」
「うん、好きな濃さでやってくれ。実質彩花専用みたいなものだからな」
「それは嬉しいわね。わざわざ用意してもらって申し訳ないと思うところもあるけど」
「そこはお気になさらずって奴だ。おかげで俺も文明的な生活ができてるしな」
ココアを本当に好きな濃さで入れたらしく、しっかりと氷を入れて冷やした後、アイスココアを楽しんで飲んでいる彩花を横目にして、俺も使い切る直前のスポドリを飲むと、二人だけの時間が訪れる。
「夏休みの目標、もう達成しちゃったわね」
「そうだな、もう一つ目標を立てるなら、ボスの撃破かな」
「三人で行けるのかしら? あと装備とかもちゃんと考えていかないといけないわよね」
「また適当にネットで探すか。十層のボスの倒し方ぐらいはネットにも上がってるだろ」
俺の部屋のベッドに寝転がりながら、スマホで適当に検索を始めると、駅前ダンジョンのボス攻略動画が引っかかったので、早速再生してみる。
動画によると、挑戦するのは盾役一人、斥候役一人、アタッカー二人のバランスが取れた四人パーティーの様だ。
戦う前に説明をしている。と、彩花が一緒に横になって俺の腕の中に入りながら動画を見に来たので、すっぽりと包んでやって、二人の顔の前で動画を見る。
汗ばんでいる彩花の髪の香りがまたフワッと香り、ちょっと下半身によろしくない状態だが、この姿勢なら当たることはないだろう。安心して続きを見ようかな。
まず、一人が完全にオルトロスの首の一つを抑えきって、他に攻撃が行かないように意識を向けさせている。これを隆介ができればいいわけだな。
オルトロスは何らかのブレスや遠距離攻撃の類を持っている訳ではなく、同時に二つの首が攻撃に入らないように、盾役が横へ攻撃を流しつつ、もう片方の首には残りの三人で戦う。
それぞれで一対一と三対一の数的優位を作った状態で戦い、片方を確実に潰してからもう片方を時間差をつけて攻撃しようとしているらしい。
オルトロス自身も動き回るため、何度か体勢を組みなおしてのボスチャレンジとなっている。しかし、オルトロスも徐々にスタミナの減少というかダメージの蓄積があり、回数を重ねていくことにどんどん動きが鈍くなっていく。
やがて、アタッカー側が首を完全に切断することに成功すると、もう一つの首も切断にかかった。ここまで来たら後はもうわかり切ったもの、といった様子で、全員が攻撃に移ってオルトロスを始末しにかかる。首が一つになったオルトロスも奮戦するが、四対一ではどうしようもなく、間もなく力なく横たわっていく。
オークチーフと違い首が二つあるが胴体は一つなので、同時に両方を攻めると体のほうが腰を引いて立ち向かいなおそうとするため、片方の首は確実に保持しておいて、体が動かないように固定してやるのがコツらしい。
一通り眺めて、動画を再度再生して思ったのは、隆介なしでもなんとかなりそうだな、という結論だった。これ、俺と彩花でそれぞれで首を受け持って戦っても勝てそうだぞ?
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