第106話:サラマンダー
昼食休憩を終えて、少し水分を補給すると、気持ちは落ち着いていて、さっきまでの妙な心配や焦燥感、そういったものは消え去っていた。どうやら俺自身、新しい階層に連続して挑む、ということにまだ慣れていないのだろうな。
毎日一階層ずつ確実に下りていくような慎重さも大事だが、今日は下りられるところまで下りるのが目標だ。普段よりも大胆に活動をする、ということで、きっと心身のどこかにブレーキをかけていたのかもしれない。
昼食を食べて落ち着いたことで、その緊張がほぐれて大丈夫になった、そういうことにしておこう。ここからは落ち着いて一つずつ階層を下りていくぞ。頑張って戦っていこう。最低限の目標は七層、出来ることなら十層まで行きたい。この辺りが目標設定として正しいあたりになるか。
よし、気分も落ち着いて心も晴れやか、空腹も満たされた。この俺の中にあった鬱屈としていた感覚は冴えわたり、今からどんなモンスターが出てきても真っ先に山賊刀の切っ先を差し向けて倒してやる、という気持ちでいっぱいだ。
レッサートレントを引き連れてボス部屋前まで来たパーティーが居たので、代わりにレッサートレントを一番近かったパーティーが倒している。流石に少し注意された様子だが、連れてきた方もどうもすいません、と素直に謝れたらしく、何事もなかったかのように再び休憩に入りはじめた。なお、ドロップはあったようだが、倒した探索者が拾って自分の懐に入れていた。
引き連れてきたパーティーはそれを自分のものだと主張することなく、頭を下げてありがとうと言っていた。こういう間が大事なんだよな。連れてきた方も素直に謝れて、休憩中に仕事に駆り出された方もそれでよしとする。お互い譲り合いができて仲良く探索が出来ればそれでいい。
ドロップ品も、連れてきたのが自分達だからと言って取り分を主張しない。倒したものがその労力に見合ったものとしてちゃんと手に入れることが出来ている。ここでスキルスクロールなんかが落ちた日には大変な騒ぎになっていたかもしれないが、それでもこのパーティーならなんとなく素直に譲り合いの精神で落ち着けてしまえるような気がした。
「さてそろそろ行くか。午後の探索開始だ。目標十層。できれば九層までの様子を見られるところまで行く。よほど苦戦しても八層までは行きたい。そんな感じでいいよな? 」
隆介がこれからの進捗を確認する。だが、わりと手前気味の進捗確認だな。
「ああ、いいと思う。でも、目標十層、できれば十層でも問題ないと思うぞ。一応九層までの予習はしてきたからな。マイコニドが変な細菌をばらまいていても良いように念のためマスクも用意してきた。気分的なものだが、ないよりは気休めになると思う」
「おう、準備良いな。じゃあ、最低でも九層までは行く、ということでいいだろうか」
「それでいいわよ。そこまで行って戻ることになってもぎりぎり明るい間に帰ってこれそうだしね。ただ、荷物が一杯にならないかというのだけが心配ね」
彩花は稼ぐ気満々らしい。どうやら八層のブラッドバットたちで魔石を稼いで帰るつもりらしいな。どれぐらいの密度で湧いているのかまでは解らないが、出来るだけモンスターを手元で倒したいこちらとしては、襲ってきてくれることを祈るしかないか。
早速出発し、六層へ抜けた後、スケルトンを相手にしながら七層へ向かう。七層へは弓矢スケルトンや雷スケルトンの相手をしなくていい分楽に抜けることが出来た。向かってくるモンスターが近接攻撃だけで対処してくれるというのは非常に楽でいいな。こっちもわざわざ相手の懐に近寄らなくても向こうからこっちに近寄ってくれるのはとてもいい。
六層を抜けて七層に入り、ちょっと暑さが増し、灼熱とまでは行かないが、夏のような暑気に包まれる。ダンジョンに入る前の地上がちょうどこうだったが、それよりももう少し暑いぐらいか。黒いコンクリートの真上に立っているとおそらくこんな感じなんだろうな、というその暑さに耐える。
しばらく進むと、動画でも確認したサラマンダーという爬虫類っぽいモンスターの登場だ。大きさは人間と同じぐらい、舌は二枚あり、同時に二ヶ所を掴みながら引き寄せて堅い顎で骨や関節をかみ砕いてくるらしいが、さてどういう対処で攻撃をしていこうかな。
「とりあえずやってみることにしよう。どんな攻撃をしてくるかもわかってはいるけど、実際に受けるのと動画で見たのでは違うだろうしな」
俺が前に出て、サラマンダーの攻撃手段を見てみることにする。じりじりと少しずつ近づき、サラマンダーはゆっくりとこっちに近づきつつ、自分の舌の長さに達するまでこっちが近寄るのをじっくり待っているような感じだ。
やがて、サラマンダーの射程に入ったのか、舌を伸ばしてきたので山賊刀を振り回して舌を片方斬る。すると、もう片方が俺の足に伸びてきて、くるりと巻き付いた。舌自体の強さはそう強いわけではないらしいが、これは俺のレベルが上がっているからそう感じるだけなのかもしれないな。もしかしたら隆介だったらあっさり巻き取られて食いつかれているところかもしれない。
「大丈夫か? 」
「今の所な。さて両方悪い舌は切り落としてしまおう」
隆介に確認されるがこっちは落ち着いている。二枚目の舌も切り落とすと、サラマンダーは両方の舌を失ってしまったが、痛みはあるものの戦意まではなくしていない様で、残った舌をチロチロと見せては、それでこちらを再び捕まえようと考えているのかもしれない。
いつまでも待ちの姿勢では埒があかないので、サラマンダーとの距離を一気に走って詰めて、こっちから攻撃する体勢に移行する。サラマンダーは俺の一瞬の詰め寄りに反応しきれなかったのか、中途半端な所に舌を伸ばして空振りをする。その間に本体を攻撃。唇は堅いという話なので、胴体を切り刻みにいくが、胴体そのものは柔らかいらしく、素直に切れてくれた。
真っ二つに切れたサラマンダーはそのまま黒い霧になって消滅し、後には何も残さなかった。まあ、初手から何かを期待するのは少々欲が深いか。
「ふむ、どんな感じだった? 」
「攻撃されなければ案山子と同じってところかな。個人の感想にもよるが、舌による引っ張りはそれほど強いとは感じなかった。バランスを崩してればまた別だっただろうが、もしかすると二枚の舌をうまく使ってバランスを崩しに来るような攻撃方法をしてくるのかもしれないしな。その場合は少々面倒だが、一枚目の舌を確実に切り落とすなりなんなりして、相手に主導権を渡さないことが大事になるかもしれん。とりあえず俺にとっては苦戦する相手ではない、というのが感想だ。次は隆介がやってみてくれ。もしもの時の補助はするから安心してほしい」
「そうだな、次は俺がやってみるか。おそらく結城が一番危ないだろうから、俺が試してみて危なかったら結城も危ないということになるだろうし……よし、次を探そう」
次のサラマンダーはすぐに見つかり、隆介が試しに戦いに行く。槍先でうまく舌先をとらえられなかった隆介が足首を取られて少しバランスを崩すも、二枚目の舌が当たる前に槍先で舌をほどいて相手の機先を抑え込むことには成功している。サラマンダーは二枚の舌があるのが特徴だから、一枚を避けてももう一枚が確実に絡みついてくるのをどう処理するか、というのにかかってくると思う。
隆介は少し考えた後、頭をかいて、盾を正面に向かわせながらサラマンダーに体当たりするような形で近づいていった。サラマンダーは盾を受け止めようと舌を出すも、舌を出した長さよりも盾の半径のほうが大きかったのか、盾をすっぽり包み込むことが出来ずに空振りをする形になる。その間に隆介が近寄って、ちょうど人間で言う喉の部分をしっかり貫いて倒すことに成功した。
「なるほど、たしかに二枚出てくるのは厄介だが、舌の限界を考えれば何とかできるらしいな」
「どうやらそうらしい。ある程度距離が離れていれば盾で防いでその間に空いた舌を切るなり、方法は何種類か取れることがわかった。次は結城の番だな」
「私は……幹也と同じ戦法でやってみる。自分で考えるのはその後で良いから、確実に倒せる方法で倒していくのが確実よね」
彩花は奇をてらうよりも基本に忠実に行く方法を選んだらしい。早速次のサラマンダーを探すと、少し進んだところで現れたので、俺の真似をして突撃しながら舌を剣先でうまく切り裂いては近寄り、舌を切り裂いては頭に当てない形で身体に一撃入れ、うまく処理していた。いまさら言うことは何もないが、無難な方法で実に結構だと思います。
「うまく出来たと思う。一人一匹相手できるなら、三匹までは出てきても問題ないと考えてもいいわけだな」
「四匹出てきたらその時どうするか、よね」
「そうだな……素早く倒せた奴がもう一匹相手するのがセオリーだろうけど、二匹同時に襲ってくることも考えないといけないからな。それぞれ一匹ずつ相手するよりも、三対四としてパーティー戦を挑むつもりで戦った方がいいかもしれないな。向こうのほうが手数も多いんだし、こっちはちょっと受け身になるだろうけどバラバラで各個撃破されるよりはマシだと思う」
「とりあえず、三匹出る辺りまで進んでみて、その後四匹出そうならまた考える、ということでどうよ」
「それでいいと思うわ。杞憂を感じて歩みを遅くするよりは、実際にそのパターンを引き当ててからでも考えるのは遅くないだろうしね」
サラマンダーが四匹同時に出てくるまでその課題はお預け、ということになった。何より、このクソ暑い中で立ち止まって会話をしたくないし、そんな暇があるならとっとと八層に抜けたいというのが本音だ。
地図を見ながら更に奥へ進む。サラマンダーをメインにして探索している探索者も居るんだろうか。居るとしたらどういう装備でどんな戦い方をしているのか気になってきたな。帰ったら調べてみるか。サラマンダーを効率的に狩るとどんな利点があるのか。きっと専門業者にしかわからないルートや美味しい場所なんかがあるに違いない。
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