第105話:十層を目指して
今日は隆介と彩花と三人でダンジョン探索の日。今日こそは夏休みの目的である十層を目指す。八層か九層まで潜り込むことができたのなら、多少無理をしてでも十層まで入り込むほうが次回楽に探索が出来そうにはなりそうだ。
しかし、それを目的にして無理に十層まで潜り込むのもマナー違反だということはわかっているので、帰り道の心配をしておく必要はあるな。
まぁ、無理なのかどうかはさておき、どこまでならスムーズに行動することができるのかというのも確認しておくことは必要だろう。
いつも通り朝御飯を食べて、昼食の用意をして、飲み物を準備して、そして彩花が来るのを待ちつつ、最後の予習とばかりにダンジョン情報を仕入れておく。
七層八層九層……とモンスターの情報と戦い方のコツ、マップの構造なんかを地図を見ずともある程度進めるようにしておくのだ。
やがて彩花が到着し、俺の部屋で着替えている間に弁当を温め直して弁当箱に詰めておく。中身? 予想通りパスタだが。
今日はボロネーゼにしてみた。肉のある分だけ贅沢に見えるだろうし、パスタだけではない栄養分をしっかり確保している分だけ確実に体のことについては考えていることになるだろう。
彩花が着替え終えて、部屋から出てくる。流石にあれ以来、部屋の扉は閉めるしお互いに節操というか、節度はわきまえるようになった。
「おまたせ。さあ今日も頑張っていきましょう。目標の十層まで到着しないと」
「そうだな。十層まで通り抜けられれば帰りも楽になるし、ぜひとも行きたいところだ。スケルトンは問題なく通り抜けられそうだし、後はサラマンダーが出てくるという七層、ブラックバットとビッグバットが出てくる八層、マイコニドが出てくる九層、そしてシャドウウルフとボスであるオルトロスが出てくる十層か。まだ半分ぐらい回ってないんだよな。まあ、順番に潜っていって毎回途中から歩き始めることができるわけではないのだし、そこまで行くなら十層までは行きたいところではあるな」
十層まで到達する。それは目標であり達成するべきマイルストーンだ。その点では誰も否定的な話を持ち上げたりはしないだろう。
「中途半端な所まで潜って時間かけて帰ってくるよりは、ちょっと頑張って奥まで行きたい感じよね。でもまあ、それが無理を押して行動するようなら流石に止めるべきではあるんでしょうけど」
「念のため予習はしておいたからな。後は当たってみて、どういう反応や結果が返ってくるかを感じ取って、今の自分たちで十層までたどり着けるのかはっきりさせておかないといけない。こっちに都合が良いのは、地図があるから迷うことがない、というのが一番大きいな。難敵で戦うのが厳しい相手でも、そこに行くまでの間にどれだけ戦わなくちゃいけないかわかってることで、モンスターの強さとこっちの戦い方がうまくかみ合うかどうかが気になる所だな」
まあ、レベル上げのおかげで俺も彩花も普通の戦い方からかなり離れた超人的な動きとペースで戦うことは出来る。最悪、隆介を担ぎ上げながらでも戦って突破することは不可能ではないだろう。
そうなった場合は隆介になんでお前らそんな事できるの? という疑問が当然発生するわけで、その時にどういう言い訳をするのか、それともアカネのお世話になって隆介も専用ダンジョン活動員になっていくのか。その先まではわからないが、できるだけそういう流れにならないように誘導してはいきたいところだ。
そもそも彩花がうっかり見えてしまったことで、俺専用から二人専用ダンジョンに変化してしまったのが大本なのだから、これを複数人に同時に公開してそれで皆で利用しよう、というつもりは俺としてはない。アカネとしてどう思っているかはまた別の話として、あまり大勢の人数で活用するのはいろんな面で不便であると考えるところなんだな。
彩花と俺と隆介ぐらいならまだ制御できる範囲にあると言えるが、正直それ以上増えられると困るし、俺の家がたまり場になることも防がなければいけないし、なにより人数が増えるということは共有する秘密もそれだけ漏れやすくなる、ということにもなる。秘密は大事なら大事な分だけ知る人は少ないほうがいい。
しかし、勘のいい隆介のことだから普段の動きを見て、動き方のぎこちなさや中途半端な力のセーブを見て、逆に何かもっとすごい動きが出来るのにわざと手を抜いてないか? なんてことを見抜かれたりするかもしれない。その時はどうやって誤魔化すかな。ちょっと考えておく必要があるかもしれないな。
「さて、出かけるか。隆介に連絡を入れて……と。さあ行くぞ」
「ええ、行きましょ」
彩花と弁当をそれぞれ持って、早速駅前ダンジョンに出かける。隆介には今から家を出ると伝えたので、うまくタイミングを合わせられればどちらかが遅れて待たされる、もしくは待つ、といったこともないだろう。
駅前ダンジョンまで自転車でものの十数分、隆介の家からなら数分だが、出来るだけ時間を合わせるようにして到着したため、自転車置き場で隆介と合流することが出来た。
「ようお二人さん。今日も仲は良さそうだな」
「小林こそいいの? 彼女放っておいてダンジョンに通ってるなんて知れたら愛想尽かされるかもしれないわよ」
「なに、そうならないために今こうして努力している最中だ。いざ彼女もダンジョンに通えるようになったらできるだけ頼ってもらえるように経験を積んでおくのが第一だということだ。できるだけ多くの経験と広い視野と彼女を守り切るだけの実力を備えていないといけないからな。今のうちに学んでおくべきことは意外と多いと感じる。その点で考えると、そっちの二人の邪魔をせずにいながら守りに入る、というのは中々に難易度が高くやりがいがある仕事だと考えるわけだ。だから今日も頼むぞ」
隆介は隆介で色々と考えることが多いようで何よりだな。こっちはいつも通り動きやすくしてもらってて構わない、という話らしいし、たまにちょっとスピードを上げて躱したり動きを素早くすることはあるものの、基本的にはレベル差を感じさせないような動きを学んできているので、慣れて動体視力と動きが機敏になりはじめた、と錯覚させることはできるだろう。
さて、早速ダンジョンに潜り始めるか。今日で十層まで行けるかどうか、悩ましいが確実に行けるなら行きたいもんだ。
◇◆◇◆◇◆◇
五層まで来た。ここまで来るのはもうずいぶん楽になった。モンスター慣れしたのが一番大きいのだろうが、三層をオークでもコボルトでもケイブストーカーでもどのルートでも問題なくクリアしていける、というのが一番大きいのだろう。二番目は、レッドキャップに一々反応しなくてよくなったことかな。
夏休みということで高校生探索者も多くなってきたのか、レッドキャップ地帯までかなりの混雑ぶりを発揮してくれているおかげでレッドキャップとのエンカウントが非常にしにくくなっている。そのおかげでレッドキャップを気にすることなくズンズンと奥へ進んでこれたことが五層まで到着するのにちょうどいい時間短縮になった。
「いつもの場所で昼食にするには少し早めになるかな? どうしよう、もうちょっと奥まで行って、それからご飯にするか? それとも早めのご飯と割り切って、食べてから行くか? 」
「この先でボス部屋前みたいに休憩できる場所があるとも限らないし、早く到着しちゃった以上その分ご飯も早めに取ることになった、でもいいんじゃないかしら。そこまで劇的にズレた時間というわけでもないわけだし、一時間少々なら見込み内と考えて行動してしまうほうが楽じゃないかしら」
「結城の言うことも最もだな。交互に見張りながら弁当を食べるよりはここで安全に食べてしまうほうがいいだろう。それに、空腹を我慢しきれなくなるぐらいまで時間を開けてこの後探索をするわけでもないんだし、休める時に休んでしまおうぜ」
今のうちに飯を食べてしまおうというほうに二票入ったので、素直に従っておくことにしようか。あくまで俺がしたのは確認作業だ。何時に飯を喰わねばならないというルールがあるわけじゃないからな。
「二人がそういうならそうしよう。しかし、ここまでアッサリと来てしまってこの後が怖いな。何事もなければいいんだが」
「心配しすぎだろ。スケルトンまでは問題なく戦えることも解ってるんだし、ここから先で苦戦する可能性はたしかにある。そういう意味で問題ないわけではないが、直ちに影響はないってやつだろう。今は安心して休んで、その分で次へ攻略していくことにしようぜ」
心配のし過ぎか……まあ、たしかにそうかもな。今の今まで何の問題もなくダンジョンでやってこれたのだし、その先でも問題はないと考えることもできるか。それに加えてレベルが上がってる分だけ俺も彩花も動けるはずだし、最悪隆介をバックアップして誤魔化すようにしながら動けば問題ないか。
「そうだな、心配のし過ぎかもな。さあ、飯食って挑むか、七層以降に」
「いつもの調子が戻ってきたな。未知の階層だから心配する気持ちもわかるが、他の探索者が誰も踏み入れてない場所に行くわけじゃないんだ、そこまで用心する必要はないってことでもある。幹也にしては妙に心配してるのは確かに気になるが、きっと大丈夫だ。なんかのフラグとかじゃないはずだぜ? 」
ボロネーゼパスタを頬張りながら、冷静に考える……なんで俺はこんなに心配性になっているんだろう。いつも通りできる所まで何とかやり続けるだけでいいんだ、と自分に言い聞かせていこう。途中で厳しいと思ったら引き返せばいいだけだ。それが出来るだけの時間も余裕も自分達にはある。
今は落ち着いて、飯を喰おう。そして飯を喰ったら少し休んで、それからゆっくり七層から先を攻略していけばいいんだ。何も心配するようなことはないはずだし、モンスターの事前情報も仕入れている。今回もちゃんと予習はしているんだし、大丈夫なはずだ。そう、大丈夫なんだ。
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