第1話:再会?
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俺、本条幹也は小さいころ、工作が得意だった。おじいちゃんが大工だった都合で、木材や角材が家に転がっていたため、いろんなものを作ったり壊したりしては技術を磨いていた。
小学生の時、夏休みの工作で毎回同級生の中では1、2を争っていたほどの実績……実績と呼べるものでもないが、自分でも俺は出来る男なんだという自負があった。当時は。
あれは六年生の時だったか。たまたま通学路近くの通りかかった藪に、古い祠が放置されているのを見つけた。
屋根は完全につぶれ、中は苔が生え放題。ご神体? のように置かれている地蔵のような物も、びっしり緑色に彩られた苔が生えて見る影もなかった。
今年の夏休みの工作はこれだ! と思い付き、家に帰ってメジャーを持ち出して寸法を測って、大きさとして充分なものを設計図面に直すと、おじいちゃんにも手伝ってもらいながらではあるが、立派な祠と呼べるような、水も漏れない風もそれほど通らない、真新しいものをこさえることが出来た。
夏休みの宿題として提出した後、おじいちゃんと一緒に現地へ行き、おじいちゃんと一緒に藪を刈り、道路から祠を見えるようにして、祠を新しいものに取り換えていく。
ついでに磨いてやったらどうだ? というおじいちゃんの提案に乗り、苔を落として綺麗に磨いて、首に巻いていた赤い布も新しいものを用意して、綺麗に巻かせてもらった。お賽銭箱もセットでつけてみた。お賽銭を五円入れ、綺麗になった地蔵のようなものと祠に向けて手を合わせて俺の自己満足を十分に満たしてくれたことを感謝した。
あれから六年、一人暮らしをし始め、実家に帰った後久しぶりに通った道で、その祠を見かけた。どうやらこの祠は俺が手を加えた後地域住民がいろいろやってくれているのか、今もまだ綺麗でいてくれる。
誰が供えているのか、花やお菓子まで供えられるようになっていた。誰の手によるものかはわからないが、賽銭箱の中身がちゃんとサイクルされているらしく、中身を使って徐々に祠が豪華になり、線香立てまで備え付けてくれていた。
自分が始まりとはいえ、地域住民の心遣いが見えて、あの時の俺はいいことをしたんだなあ……という気持ちにさせてくれる。嬉しいことだな。
その夜のことである。布団に入ってさあ眠るか……というところで部屋のチャイムが鳴った。こんな時間に誰だろう?
「はい、どちら様ですか? 」
「やっっっっっっっとみつけた! 」
そこには小学生ぐらいの小さな女の子が一人で立ち尽くしていた。
「お嬢ちゃん、こんな時間に一人歩きは危ないよ」
こんな小さな子に見覚えはないしご近所さんの子でもない。迷子だろうか。でも、やっとみつけたと言われたあたり、俺には覚えはないがこの子には俺に用事があるんだろう。
「とりあえず、中に入れてくれるかしら。細かい話は中でするわ。あなたもこんな玄関先で小さな子にごちゃごちゃ言われているのを他の人に見られたくないでしょう? 」
中に入れてかくまうほうが問題のような気もするが……しかし、たしかにこの子の言う通り、ここで騒いでるのは問題だ。両隣からいつ人が飛び出てきても文句は言えない。とりあえず家の中に引きこんで詳しい話を聞いて、改めて出て行ってもらうほうが話は早いか。
女の子を家の中に招き入れると、リビングの椅子に自分で座り始めた。ワンピース姿で髪はおかっぱ。黒髪の似合うかわいい子だ。
「ありがとう、信じてくれて。あの時からずっと、あなたは優しいままなのね」
「すまん、あの時といわれても君との面識が思い出せない。どこかで出会ったことがあったかな? 」
やはり思い返そうとしてみるが、この子と会った記憶はない。小さい子とそもそも出会う可能性が低いご時世、下手に声掛けするだけでも通報案件になるのに、そんな出会いがあるとも思えない。
「私があなたに出会ったのは六年前よ」
「六年前……赤子の頃ってことか? 」
「違うわ、あなたが私を見つけてくれたのが六年前、その後新しいお家をくれて、全身を綺麗にしてくれて、それからお家の周りを見た目よく整えてくれて……おかげでこの数年で顕現できるだけの信仰が溜まったわ」
信仰……顕現……どういう事だろう?
「私はあなたが綺麗にしてくれたお地蔵さんの分体よ」
そこでピンときた。ピンと来たと同時に、こんなこともあるんだな、という気にもなった。いやしかし、子供にからかわれている可能性もある。
「冗談だよな? 」
「マジもマジよ。証拠が必要? 」
「出来れば、俺と君しか知らないような話をしてくれると信じる気にもなるかな」
女の子は腕組みしてうーんと考え込み、しばらくして思い出したように語り始めた。
「あなたが見つけてくれた時は屋根もボロボロで雨露はしのげないし、台座も私の身体も苔が生えて、藪は刈り取られずに伸び放題、そもそも道からすら見えていないぐらいの酷い有様だったわ。そんな中であなたが見つけてくれて、新しい屋根をくれて……このスカーフもあなたがくれたものだったわね。おじいさんと二人で周りを綺麗にしてくれて、賽銭箱まで作ってくれて。最初の五円玉を入れてくれたのもあなただったわね」
ほんのりと思い出してきた。そういえばそんなこともあったな。そして、どうやらこの子は本当に、あの地蔵の分体であるらしいことも解ってきた。俺と爺ちゃんの二人だけでやっていた時のことまで六年前の記憶を持っているのは常識的に考えて当事者しかいない。非常識的な話だが、そういうことになる。
「で、俺に会いに来て何しに来たんだ? 」
「お礼、というわけでもないんだけど、私に出来ることは何かあるかしら? できるだけの願い事は叶えられることができると思う。でも、お金持ちになりたいとか彼女が欲しいとかそういう直接的なことや他人が関わることは難しいけどね」
願いごとか……うーん……急に言われると困るな。賢くなりたいとか運動が出来るようになりたい、とかそういうのも自分に係ることだし難しそうだろう。それに、俺が六年前に勝手に直したあと、地元からの信仰心といってもそれほど大きいものでもないだろう。だとしたら過度な負担をかける必要がある。
「念のため聞くけど、機を織るからその間覗かないでくれ、とかそういう話でもないよな? 」
「機を織ってもいいけど、出来上がった生地の売り先に心当たりがあるの? 」
「ないな。やっぱりそういう方向性でもないか。米俵一杯に米を持ち込んで来られても床が抜けそうだし」
「何か思いつかないの? 思いつくまでいてもいいけど、ここに。しばらく暇だし、祠のほうのメンテナンスは他の人がやってくれているからあっちのほうは心配ないのよ」
一人暮らしの部屋に女の子をかくまって生活か。そういう趣味はないが、それはそれで不安が一杯だ
「ご飯とかは食べるか? こんな時間だけど」
「今は良いし、私は食べられないわ。あと、念のため言っておくけど、私の姿は今の所貴方にしか見えていないはずだから安心して良いわよ」
ということは、ここで騒ぐと危ないというのは完全に俺自身に対する警告だったわけか。誰もいないのに家の入口で騒いでる頭のおかしい青年がいる、と通報されないための思いやりだったとすると、今は家の中に引きこんで良かったと思うところではある。
そこでふと思いつく。そうだ、これは一応聞いておきたいところではあるな。
「じゃあ……俺専用ダンジョンとかどう? 俺しか入れない俺のためのダンジョン。それを部屋の中に作ってもらうとか」
「ダンジョン? 何それ」
さすがにこのお地蔵さまもダンジョンというものは新しすぎて知らない情報のようだ。これは脈ありかもしれないな。
「ダンジョンっていうのはな……説明するのにはちょっと口頭では難しいから資料を用意しよう」
「お願いするわ。昔にはなかったのは確かだから、最近出現したものであることは確からしいけど」
ダンジョンというのはここ数年で発見された、ファンタジー成分たっぷりな現実に存在するものである。ダンジョンにも色々種類があり、スライムしか出ないダンジョンだったりやたら深くまで作られていて、様々なクリーチャー……これらはモンスターと一口に呼称されているが、それらが出てくるダンジョン。またはトラップが仕掛けられていてそれを攻略するのがメインのダンジョンなど様々なものが発見されている。
ダンジョンが出来て内部構造を確認され、そしてモンスターを倒した際にどんな変化が起きるかなどが駆け足で研究され、現状で解っていることはいくつかあった。
まず、モンスターを倒すことによって人間としての「レベル」が上昇していくらしく、肉体的にも精神的にも強化されていくこと。
モンスターを倒した際は黒い粒子になって消え去るが、その粒子の結晶体であるらしい魔石をドロップする。その魔石は軽く熱することで電気的エネルギーに変換され、二酸化炭素や産業廃棄物を出さない新世代エネルギー源として注目を集めている。すでに発電所も建設され、実用化された技術として足場を着実に固めている最中だ。
その魔石を集めるため、または他の、モンスターがドロップするアイテムなどを求めてダンジョンに潜り始める人を探索者と呼び、国家として後押しするために専門の省庁が組織され、国のバックアップや魔石の買い取り制度などを利用して探索者は存在するダンジョンを探索し、場合によっては攻略することでその対価を省庁が支払い、稼ぎを得ている。
今最も熱い職業となりつつあるのが探索者。ダンジョン内では様々な危険が伴うため、十八歳以上という年齢制限こそかかるものの、ダンジョンが発生し、そして攻略され、イタチごっこの攻防が続いているのがダンジョンと人類の戦いが行われている。
世の中は新しく出来たダンジョンというファンタジーにも慣れ、それを有効利用して世の中をより良い方向へ向かわせていこう、という流れになりつつある。ファンタジーは近くなりにけり。
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