第九話 約束だけじゃない想い
昼下がりの城庭園は、穏やかな日差しに包まれ、花々の香りがそよ風に乗って漂っていた。
リリィは端に座り、耳を少し伏せ、尻尾をそっと揺らしながら庭園を眺めている。
しかし、心の奥では小さな不安が膨らんでいた。
「……カイン様は、昔の約束のために私を選んだだけじゃないのかな……」
弱くて未熟な自分が、彼にとって負担になっていないだろうか。
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カインはそんなリリィの微妙な表情や、耳と尻尾のわずかな揺れで、彼女の心の葛藤を察した。
静かに隣に近づき、金色の瞳をじっとリリィに向ける。
「リリィ……何を考えている?」
声は低く、しかし穏やかで、まるで心の奥まで届くようだった。
リリィは耳を伏せ、つぶやくように答える。
「……私、カイン様……本当に私でいいのか、不安で……」
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カインはそっとリリィの手を握り、顔を近づける。
「我がおまえを選んだのは、昔の約束だけではない」
その瞳は真剣で、優しさに満ちている。
「おまえを見ていると、いつも我の心は安らぐ。
おまえの笑顔、耳や尻尾の小さな仕草、些細なことでも心を奪われる。
弱さや未熟さ、全部――我にはおまえの魅力だ」
リリィは頬を赤く染め、耳を少し動かす。
「……そんな、私のことで……?」
カインは優しく、しかし力強く答える。
「そうだ。おまえのすべてが、我にとって特別だ。
おまえが怖がるとき、喜ぶとき、迷うとき――全てが我の心を打つ。
だから、我にはおまえ以外考えられぬ」
リリィの目には涙が浮かぶ。胸の奥の不安は、温かく、甘い安心に変わっていく。
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庭園の向こうでは部下たちが訓練を続ける。
ハルやミロ、レナの明るい声が、日常の温かさをさらに強く感じさせる。
リリィはそっとカインに寄り添い、手を握り返す。
「リリィ……おまえを愛している理由は無数にある。我がおまえを守り、愛するのは当然のことだ」
カインの言葉に、リリィは小さく頷き、耳と尻尾を柔らかく揺らす。
庭園に吹くそよ風が二人を包み、甘く穏やかな時間がゆっくりと流れていった。




