第八話 庭園の昼下がりと甘い距離
昼下がりの庭園には、柔らかな日差しが降り注ぎ、花々の香りがそよ風に乗って漂っていた。
リリィは端に座り、耳をぴんと立て、尻尾をそっと揺らしながら庭園の緑を見渡している。
「リリィ、そろそろ訓練場へ来るのだ」
カインの声が後ろから響く。金色の瞳が柔らかく光り、昨日までの緊張はもう微塵も感じられない。
リリィは振り返り、少し照れくさそうに微笑む。
「はい……」
耳と尻尾がわずかに揺れ、胸の奥がじんわり温かくなる。
---
訓練場に向かう途中、部下たちの姿が見える。
ハルは剣の手入れをしており、ミロは馬に乗って軽く駆け回っていた。
「リリィ様、昨日はよく見ていましたね」
レナは微笑みながら近づき、リリィの手にそっと触れる。
「見て学ぶことも大切です。無理に参加する必要はありません」
リリィは頷き、少しだけ安心して庭を進む。
部下たちの存在が、城での日常をより安心で心地よいものにしていた。
---
訓練場に着くと、カインが近くに座り、リリィの横に手を置く。
「リリィ、怖がらずにおまえの目でよく観察するのだ」
リリィは耳を少し伏せながらも、目を輝かせ、カインの指示に従う。
「カイン様……私は、まだまだ未熟ですけど……」
小さな声で打ち明けるリリィ。
カインはその手をそっと握り、耳元で囁く。
「我にはおまえ以外考えられぬ。弱くても、未熟でも……それでよいのだ」
リリィは頬を赤く染め、胸がじんわり温かくなるのを感じる。
---
そのとき、ハルとミロが訓練の合間に近づき、部下同士の軽い冗談で笑い声が庭園に響く。
リリィもつられて微笑み、耳と尻尾がゆるやかに揺れる。
「リリィ様も笑っていますね」
レナが微笑み、リリィの肩にそっと手を置く。
カインはその光景を見守りながら、リリィの手を握り直す。
「我の婚約者として、安心しておまえの居場所を感じてよいのだ」
リリィは深く頷き、カインに寄り添うように座る。
庭園に吹くそよ風が二人の髪を優しく揺らし、耳と尻尾の柔らかな動きが甘い雰囲気をさらに強調する。
---
昼下がりの庭園、部下たちの明るい声、カインの優しさに包まれて、リリィは心の奥で確信する。
――私は、本当に守られている。
――そして、誰よりも愛されている。
耳と尻尾を揺らしながら、リリィはカインにそっと手を重ねる。
カインは微笑むことは少ないが、目元にほんのわずかな柔らかさを宿し、彼女の手をしっかり握り返す。
二人の間に、昨日以上の甘く穏やかな時間が流れていった。




