表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒豹の長と猫耳の花嫁  作者: はるさんた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/20

第四話 夜の城、二人だけの時間


 漆黒の城の扉が重々しく閉まると、外の森の音は遠くに消えた。

 広間には暖炉の火が灯り、月光がステンドグラスを通して床に映る。

 城の空気は静かで、冷たく、そしてどこか神秘的だった。


 リリィは腰まで届く白銀の髪をそっと撫でながら、広間を見渡す。

 天井の高い空間に重厚な装飾。壁には黒豹族の紋章が刻まれ、見下ろすように金の目が輝く。

 耳がぴくりと動き、尻尾も小さく揺れる。

 ――ここが、あの黒豹族の領地。


 「緊張するな、リリィ」

 背後からカインの低い声がした。

 リリィが振り返ると、金の瞳が月光に光り、黒い外套が肩にかかる男が立っていた。

 年齢は二十代半ば。青年として成熟した体つきと、獣としての鋭さを兼ね備えている。

 その視線は鋭くもあり、優しさも隠れていた。


 「城に慣れるまでは、我の側で過ごすとよい」

 命令のような威厳を帯びた声なのに、耳を伏せたリリィの心には温かく響く。

 「ええ……はい」

 小さく頷き、胸の奥がざわざわと高鳴った。

 怖さと、少しの期待が入り混じる。



---


 城での初めての食事。

 黒豹族の料理は香り高く、スパイスが鼻をくすぐる。

 リリィが箸を持つ手が震えると、カインが静かに声をかけた。


 「食べ方に困っているか?」

 「少し、慣れなくて……」

 耳が立ち、尻尾が小刻みに揺れる。


 「なら、教えよう」

 カインがひとつひとつ示すたび、指先がリリィの手元に触れる。

 触れるたびに耳がぴくんと動き、頬が赤くなる。


 「……恥ずかしい」

 漏れた声に、カインは微かに笑った。

 その笑みは優しいのに、胸の奥が熱くなる。


 「我がおまえを守るのは、約束だからだけではない」

 彼の低く響く声に、金色の瞳が揺れる。

 「おまえの存在そのものを、大切に思っている」


 リリィは息を呑む。怖いのに、心がふわりと軽くなる。

 ――こんなにも近くに、あの黒豹がいる。



---


 夜、案内された自分の部屋。

 広く、黒と金を基調にした落ち着いた空間。

 窓からは月光が床に淡く映る。

 暖炉の火が小さくはぜ、室内に柔らかな光と影を落としていた。


 「……あの、カイン様」

 「ん?」

 「私、少し……怖いです」

 耳を伏せ、尻尾を小さく丸めるリリィに、カインはゆっくり歩み寄る。


 「なら、我と同じ部屋で寝るとよい」

 リリィの目が見開く。

 「えっ……?」

 「怖ければ、夜は我が側にいる方が落ち着くだろう」

 低く響く声に、胸がどきりとする。


 リリィの頬が赤く染まり、耳がぴくぴく動いた。

 尻尾も小刻みに揺れる。

 ――同じ部屋で寝るなんて、こんなに心臓が早くなるなんて。


 「……はい……お願いします」

 小さく頷くリリィに、カインは微かに笑った。

 その笑みは威厳を帯びつつ、温かく、安心感を与えるものだった。



---


 二人はベッドに入る。

 間には少しの距離があるが、互いの呼吸の音が聞こえるほど近い。

 リリィの耳がぴくぴく、尻尾がわずかに揺れる。


 「眠れぬか?」

 「はい……少し」

 「なら、話をしよう」

 カインの声は低く、穏やか。暖炉の火が揺らす影が、二人を包む。


 「リリィ、おまえは耳と尻尾を気にしているな」

 「はい……皆、完全な姿になれるのに、私だけ……」

 視線を落とすリリィに、カインは静かに言った。

 「それは欠けているのではない。強く、誇るべき血の証だ」

 「誇る……?」

 「おまえの耳と尻尾は、心の感情を正直に映す。おまえはそれを隠せぬほど純粋だ」


 リリィの胸の奥がじんわり温かくなる。

 ――そんなふうに言われたのは初めてだ。



---


 暖炉の火が静かにぱちぱちとはぜる。

 互いの呼吸が聞こえる距離で、リリィはまぶたを重くしながら囁いた。

 「おやすみなさい、カイン様……」


 低く、優しい声が返ってくる。

 「おやすみ、リリィ」


 黒と白――異なる毛並みを持つ二つの獣人が、ひとつの静かな夜を共に過ごした。

 月は高く、二人の上に柔らかな光を落としていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ