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黒豹の長と猫耳の花嫁  作者: はるさんた


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第三話 黒豹の城、夜の迎え


 朝の光が森を柔らかく照らす中、フェルナード家の庭にはいつもより人影が多かった。

 リリィは小さな背中を丸め、荷物を手に抱えながら門の前に立っていた。


 「リリィ、行くのね……」

 母の声は優しく震えていた。手のひらで耳を撫で、尻尾をそっと丸めるように触れる。


 「はい、でも……怖くないとは言えません」

 リリィの声は小さく、胸がきゅっと締め付けられた。

 家族の笑顔が、逆に心を痛ませる。


 父が重々しく頷く。

 「おまえが自分の意思で選ぶことを、我々は信じている。だが、何があっても我々はおまえの味方だ」

 その言葉に、リリィの目が潤む。


 兄のレオンは無言で手を差し出した。

 「リリィ、無理はするなよ」

 彼の声には兄らしい強さと、妹を想う優しさが混ざっていた。


 「ありがとう……」

 リリィは小さく笑い、兄の手を握った。尻尾が少しだけ揺れる。

 十年、家族と過ごした森と日々が走馬灯のように頭をかすめる。


 「行ってらっしゃい、リリィ」

 母が涙をこらえて微笑む。

 リリィは深く頭を下げ、門をくぐった。


 森の道を馬車が進む。

 朝の霧がゆっくりと晴れ、木々の間から差す光が白銀の髪を輝かせる。

 胸の奥には、少しの不安と、大きな期待。


 ――あの黒豹族の長、カイン。

 十年前、森で遊んでくれた少年。あの日の約束を覚えていてくれたということは……。


 馬車が森の奥深くへ進むにつれ、空気が徐々に変わっていく。

 猫族の森の甘い香りは消え、鋭く冷たい風が枝を揺らす。

 城の影が見える頃、リリィは息を呑んだ。


 石造りの漆黒の城。

 月光を受けて浮かび上がるその姿は、森にいるはずの光景とはまるで異なり、威圧的で神秘的だった。


 門が開き、長身の影が現れる。

 漆黒の髪に、金色の瞳。身長は高く、筋肉質だが優雅な佇まい。

 黒豹族の長――カイン、年齢は二十代半ば、成熟した青年の風格を持つ。


 「リリィ……よく来た」

 低く響く声。森の静けさを切り裂くように、リリィの心に染み入った。


 十年前の記憶が、彼の姿と声で鮮明に蘇る。

 小さな猫の姿だった自分を抱き上げ、優しく名前を呼んでくれた、あの金色の瞳。


 「おまえは、その耳も尻尾も、我にとって唯一無二のものだ」

 カインの言葉に、リリィの胸は熱くなる。怖さと、ときめきが入り混じり、心が震えた。


 「……覚えていてくれたのですね、あの約束を」

 耳をぴくりと動かし、尻尾も小さく揺れる。


 「忘れられるものか。我が花嫁として迎えると、約束したのだ」

 黄金の瞳が、リリィをまっすぐに捉える。


 リリィは息を飲む。森での思い出の少年は、今、成熟した黒豹の王となり、

 その瞳に確かな意思と優しさ、そして獣としての鋭さを宿していた。


 城の夜は深く、月光が二人を照らす。

 猫耳の少女と黒豹の長――十年越しの約束が、ゆっくりと、しかし確かに動き始めていた。


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