第8章「魔法訓練」
子どもたちは完全に固まった。
目を大きく見開き、全員の視線が焔羅の顔に集中する。
「な、なんだって!?」
涼が一歩前に踏み出し、叫んだ。
「本気で言ってんのかよ……葉っぱだぞ!?」
彼は腕を大きく広げ、握りしめた拳が震えていた。
その反応には、信じられないという気持ちがすべて表れていた。
焔羅はただ愉快そうに笑った。
少年の爆発的な反応が心底面白いといった様子で、軽く腰を下ろす。
肘を膝に乗せ、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「ハハハ! やっぱりそう来ると思ったぞ」
彼はうんうんとうなずく。
「じゃあ、よく聞けよ……一度しか言わねぇからな」
ゆっくりと、焔羅は手のひらを開いた。
そこには、一枚の葉が、風に揺られながら静かに乗っていた。
彼はそれをそっと離す。
葉は風に乗り、くるくると回りながら空へと舞っていった。
「この世界のすべてには……」と、焔羅の声が急に落ち着く。
「人も、動物も、植物も……生きてるものにはみんな“マナ”がある」
漂う葉を目で追いながら続ける。
「だがそれだけじゃねぇ。水や土、空、風みてぇな自然そのものにも……マナは流れてる」
焔羅は手を地面につき、ゆっくりと空を見上げた。
「マナはどこにでもある。
ある者はそれを、この世の“魂”だと言う。
またある者は、世界を満たす自然の力だと考える……」
彼は片方の口角を上げて笑う。
「だがどう定義しようが……魅力的なのは間違いねぇさ」
優は座ったまま、風に流されていく葉をじっと見つめていた。
(ふむ……つまりマナは、この世界の魔法そのものなんだ。とても綺麗な仕組みだな。
全部にマナがあるなら……まるで命の息吹が世界を飾っているみたいだ。
破壊的でも怖いものでもない……軽くて、優しい……)
「俺、今の説明わかんねぇ!」
涼が突然叫び、静寂を破った。
「難しい話はいらねぇ! 早くマナの使い方を教えてくれよ!」
「お前みたいなバカがわかるわけないだろ」
史郎が不満そうにモノクルを押し上げる。
「焔羅さん、僕はすごく興味深かったです!
マナがずっと僕たちの周りにあったなんて……信じられません!」
「マナって……なんかすごく素敵だね……」
大輝はぼんやりと呟いた。
焔羅は立ち上がると、地面から小石を四つ拾い、それぞれの前に置いた。
「よし。最初の訓練は単純だ。
“自分のマナだけで、この石を動かせ”」
右手を上げ、手のひらを広げる。
すると、焔羅の手から風が吹き出し、地面を滑って小石を遠くへ押し飛ばした。
「こうだ。手のひらを開いて、一点に集中する。マナを流せ」
涼がニヤリと自信満々に笑った。
「はっ! こんなの簡単だ! 数秒でできる!」
彼は勢いよく腕を上げ、石を睨みつける。
「おい!? もうやるのか!?」
史郎も焦って手のひらを石へ向ける。
「僕だって負けませんよ!」
「なんでそんな急ぐのさ……?」
大輝はのんびりと周りを見渡す。
「僕、まだ食べてる途中なんだけど……」
彼はパンをポケットにしまい、服で手の粉を払ってから石へ手を向けた。
優の額から汗がつーっと流れ落ちる。
少し目にしみた。
(どうやって……? 説明ほとんどなかったぞ。
こんな曖昧な感じでできるのか?)
何度も瞬きをし、頭を整理しようとする。
無意識に頭をかく。
(俺にマナなんてあるのか……? だって……別の世界から来たんだぞ?
こっちの空気吸ったら手に入るのか?
聞きたいけど……絶対変に思われる……)
「焔羅さん、どうやって――」
言い終わる前に遮られた。
「よし! もう説明は終わりだ!」
焔羅が大声で宣言した。
「何分でも何時間でもやれ!
石が動くまで止まるな!」
そう言うと彼は草の上に寝転び、腕を枕にして目を閉じた。
優は深く息を吐いた。
(まあ……仕方ないか。
やるしかないんだ……)
ゆっくりと両手を上げる。
膝が震え、体がふらつく。
まだ体力がほとんど残っていないのが自分でもわかった。
目を閉じ、周囲の音を意識から消す。
川の流れを想像する。
一定の方向へ、絶え間なく続く流れ。
そのイメージを掌に集めようとする。
(木の訓練でヘトヘトだけど……もう少しだけ……
マナを……理解したい……本当に……)
――数時間が過ぎた。
太陽は傾き、空は茜色と群青が混じった美しい絵画へと変わっていく。
雲の影が草原に伸び、夕闇が静かに迫っていた。
鳥の声は消え、代わりに草むらから虫の音が響き始める。
動物たちは隠れ家へ戻り、静けさが辺りを包んだ。
四人の少年は顔を真っ赤にしながら石を睨み続けていた。
だが――どの石も、微動だにしていなかった。
優が最初に崩れ落ちた。
体の力がすべて抜け、地面に倒れ込む。
(やっぱり……嘘だったんだ……)
涼が爆発した。
「こんな石、ずっと動かねぇじゃねぇか!!」
拳を握りしめ、焔羅を指さす。
「やっぱり騙されたんだろ、俺たち!」
史郎はモノクルを磨きながらため息をついていた。
「やっと気づいたのか? 本当にバカだな、お前は」
彼は一時間であきらめ、ずっと様子を見ていた。
少し離れた場所で、大輝が木に寄りかかったままパンを食べ終える。
「このパン……もう食べられないなんて……悲しい……」
涼がまた怒鳴った。
「焔羅! 俺を騙すなんて、どういうつもりだよ!?
俺が村のリーダーになったら絶対許さねぇからな!」
「リーダー? お前が?」
史郎が鼻で笑う。
「言っただろ、僕がリーダーになるって」
「はぁ!? 取り消せ、史郎!!」
涼が彼の胸ぐらをつかむ。
「ま、待って……ケンカはだめだよ……」
大輝が両手を広げて仲裁に入る。
「僕だってリーダーになりたいけど……ケンカしても意味ないよ……」
「黙れ!!!」
二人が同時に怒鳴った。
そのとき――丘の上から、二つの影がゆっくりと歩いてきた。
春香と陽菜莉だった。
夕風に髪を揺らされながら、こちらへ向かってくる。
「あなた! 夕食の準備ができたわよ!」
春香が優しく呼びかける。
焔羅はその瞬間、まるで天の声を聞いたかのように目を開けた。
勢いよく立ち上がる。
「よっしゃ! 腹減りすぎて死ぬところだった!」
優の胃が盛大に鳴った。
本人は真っ赤になりながら焔羅を見た。
「あの……もし迷惑じゃなければ……
一緒に……夕食、食べてもいいですか?
今日、一日何も食べてなくて……邪魔はしません!」
焔羅は豪快に笑い、優の背中を叩いた。
「当たり前だろ! お前も来い! 歓迎するぞ!」
「ありがとうございます……本当に……」
優の声は震えていた。
「でも……あの子たちは……?」
焔羅は肩をすくめた。
「こいつらなら大丈夫だ。いつもこうだからな。
ケンカが日課みたいなもんだ」
(なるほど……
やっぱり“子どものことは子どもが一番理解してる”ってやつだ……)
その瞬間、優の背筋に冷たいものが走った。
鳥肌が立ち、心臓がきゅっと縮む。
(まただ……この感じ……何か……嫌な予感……)
影のような思考が、胸の奥からこみ上げてくる。
過去、記憶、恐怖――何かが押し寄せる。
だが優は、それを本能的に押し返した。
まだ、それに触れてはいけない気がした。
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