第7章「夢の柱たち」
静寂がその場を包んでいた。
三人の子どもたちは動きを止め、まるで優の様子を観察するかのように、興味深げな表情でじっと見つめている。
その中で、もっとも衝動的そうな少年が一歩踏み出した。
歯を強く食いしばり、握りしめた拳は白くなるほど力がこもっている。
そして、軽蔑の色を浮かべた目で優を睨みつけ、怒鳴った。
「こんな真っ白でヒョロい奴、訓練の邪魔にしかなんねぇだろ!」
その瞬間、背後にいた別の少年が、ゴツンと拳で彼の頭を殴りつけた。
勢いで前につんのめる。
「お前なぁ! 敬意ってもんはどこに置いてきたんだよ! 親に常識も教わってねぇのか!」
殴られた少年は頭を押さえ、痛みに顔を歪めながら小さく文句を漏らす。
だが、ほんの数秒後には怒りが再びこみ上げたらしく、今度は相手の襟元をつかんで持ち上げた。
「今のは何だぁ!? 死にてぇのか、お前!」
怒気を含んだ瞳が相手をまっすぐ射抜く。
三人目の少年が、おどおどしながら二人の間に割って入った。
両手を広げ、必死に引き離そうとしている。
「ま、ま、待って……そんなに怒らなくても、いいだろ……?」
しかし二人は声を揃えて怒鳴った。
「黙れ!」
優はその光景を静かに眺めていた。
どこか信じられないというような顔で。
(なるほど……。だから焔羅さんは、あの目でこいつらを見ていたんだ。まるで火の塊みたいだ……。)
頬をぽりぽりと掻きながら、今見たばかりの光景を整理しようとする。
(でも……どこか綺麗だ。心が、夏みたいにまぶしく輝いてる……。)
ぞくりと、風が背筋をなでた。
(……妙だな。変な感覚だ。)
焔羅は子どもたちに鋭い視線を送り、低く強い声で言い放った。
「もうやめろ!」
腕を組み、凛とした姿勢のまま続ける。
「これ以上やるなら、訓練は中止だ!」
子どもたちは肩をすくめ、一斉に頭を下げた。
「ごめんなさい! もうしません!」
「それでいい。」
焔羅はうなずき、さらに言った。
「それと、涼! マツに謝れ! 今のは失礼だろ!」
「なっ……!」
涼は不満そうに息を吐き、しばらく黙ったあと、しぶしぶ言った。
「……悪かったよ。色白。」
優のこめかみに汗が一筋流れた。
(まあ……さっきよりはマシか。)
「大丈夫ですよ。謝らなくても。」
優は苦笑しながら答えた。
「よし、マツ。こいつらを紹介しておくか。」
焔羅は一人の少年を指さした。
「こっちの、いつも怒ってるのが涼だ。」
優は彼を観察した。
深い黒髪はぼさぼさで、てっぺんには白い紐で無造作に結んだ跡がある。
暗い茶色の瞳は前方一点を鋭く見据え、何でも貫きそうな強さを宿していた。
その奥底には、痛みの影のようなものが静かに沈んでいる。
腕や脚には数多くの傷跡。
古いものと新しいものが混ざり合うように刻まれていた。
服は破れ、泥まみれで、布切れ同然。
元は明るい色だったのかもしれないが、今ではすっかりくすんでいる。
裸足の足は汚れに覆われ、小さな傷が点々としていた。
(うん……確かに、いつ爆発してもおかしくないタイプだ。)
「で、そっちの気取ったのが史郎だ。」
焔羅は別の少年を指した。
明るい茶色の髪は丁寧に整えられ、毛先がゆるくカールしている。
どこか古風で、上品な雰囲気まで漂わせていた。
淡く輝く琥珀色の瞳は好奇心に満ちている。
右目には単眼鏡をかけており、光が当たるたびに小さく反射した。
整った眉と、わずかに細められた目つきは、隠しきれない批判的な色を含んでいる。
何を見ても、必ず評価し、測り、裁いているような印象だった。
濃紺の服は皺ひとつなく、黒の装飾が控えめに施されている。
全体的に隙のない身なりだ。
(この子……完全に僕を見下してる。)
焔羅は最後の少年を指差した。
「で、一番向こうでボーッとしてるのが大輝だ。」
丸みのある顔に、少し膨らんだ頬。
どこか寂しげだが、優しさもにじむ表情だ。
淡い色の髪は軽く波打ち、前髪が額にふわりとかかっている。
焦げ茶色の瞳は柔らかな光を帯びているが、よく目をそらす。
いつもどこか遠くを見ているようで、逃げ場を探しているような仕草にも見えた。
姿勢は少し丸まり、ぽっこりしたお腹が目立つ。
緑がかった服はシンプルで軽やかだが、胸元にはパンくずが散らばっていた。
胸元や腰につけた革の小物からは、ほんの少しだけ几帳面さが感じられるが……
それを上回るだらしなさがすべてを打ち消している。
彼はポケットからパンを取り出し、無意識のように口へ運んだ。
その仕草は、自分を落ち着かせるためのもののようにも見える。
噛む動作はゆっくりで、どこか穏やかだった。
(うん……この子が一番まともかもしれない。)
すると突然、涼が叫んだ。
「もういいだろ! いつまで引っぱるつもりだよ!」
張りつめていた空気が破れた。
焔羅はふっと笑みを浮かべた。
「今日から、お前たちの人生は変わるぞ! ははは!」
自信に満ちた表情に切り替わる。
「これから魔法を教える! 魔法の仕組みってやつをな!」
優の目が大きく見開かれた。
(やっぱり……! あれは魔法だったんだ! でも……言わないほうがいいよな。この世界じゃ普通のことなのかもしれないし……。)
風が強まり、木々の葉が空へと舞い上がった。
焔羅は一枚の葉を手に取り、高く掲げる。
「全部の源は……ここにある!」
誇らしげに言い放つ。
優は思わず声を漏らした。
「えっ!? そんな……まさか……!」
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