第5章「壁のように強く」
遠くから、元気いっぱいの声が響き渡った。
その声はどんどん近づき、勢いを増していった。
「焔羅! 焔羅! やっと見つけたーっ!」
子どもたちの弾むような声が空気を揺らした。
「……まさか、またか。」
焔羅は眉をひそめ、ため息をつきながら小さく呟いた。
数人の少年たちが駆け寄り、左右から焔羅にしがみついた。
腕を引っ張り、背中を叩きながら、楽しそうに笑う。
「約束したじゃないかー!」
「うそつきー!」
「今日こそ訓練してくれるんでしょ!?」
焔羅は頬をかき、目を閉じて観念したように肩を落とした。
「まったく……君たちには敵わないな。」
疲れたように息を吐きながらも、その声にはどこか楽しげな響きがあった。
「ほんとにしつこい子どもたちだよ。」
「じゃあっ、あれ見せてよ! あの技!!」
一人の少年が飛び跳ねながら叫んだ。
「そうだ! もう一回見せてー!」
もう一人も加わり、空気はすっかりお祭り騒ぎだ。
「……何回見せたと思ってるんだ。」
焔羅は腕を組み、少し呆れたように言った。
「さすがに疲れてきたぞ。」
しかし少年たちはひざまずき、手を合わせて祈るように頼み込んだ。
「お願いっ!」
「おねがいしますー!」
「これが最後だからー!」
その様子を見ていた春香は、思わずくすっと笑みをこぼした。
「あなた、見せてあげなさい。」
彼女は穏やかに言った。
「子どもってね、何度見ても飽きないのよ。」
その言葉に、焔羅の頬が一気に赤く染まった。
視線をそらし、完全に降参したように、ため息をついた。
「……わかったよ。わかったってば。」
小さく苦笑しながら言う。
「君にそう言われたら、断れるわけないだろう。」
その様子を見ていた優は、思わず笑みを浮かべた。
胸の奥からくすぐったい笑いが漏れる。
「どこの世界でも、子どもは同じなんだな……ははっ。」
焔羅はゆっくりと歩き出し、近くの草原の丘へ向かった。
頂上に立つと、風の音と草のざわめきに包まれながら、しばらくじっと立ち尽くした。
太陽の光が彼の顔を照らし、やわらかく肌を温める。
草むらの間では、小さな動物たちが走り回り、かすかな音を立てていた。
木々の葉が舞い落ち、地面に触れる前にふわりと回転する。
花の香りが風に乗り、空気全体を包み込むように漂っていた。
そして――焔羅の目が鋭く光った。
全身の筋肉に力を込め、両手で斧をしっかりと握る。
その刃が太陽の光を受けてまぶしく輝き、まるで刃自身が光を放つかのようだった。
優は息をのんだまま、動くこともできずにその光景を見つめていた。
(いったい……何が起きるんだ……? でも、すごいことが起こる気がする!)
突然、斧の先に小さな風の渦が現れた。
最初はゆるやかに回っていたが、すぐに速度を増し、渦はどんどん大きくなっていった。
空気が震え、周囲の大気が圧縮されていくようだった。
鳥たちは慌てて空へ飛び立ち、小動物たちは草の中へ逃げ込む。
風は唸りを上げ、花びらや砂埃を巻き上げながら焔羅の周囲を暴れ回った。
優の髪も服も激しく揺れ、目の前の光景が信じられなかった。
「そ、そんな……これって……現実なのか……? これが――」
その時、焔羅の口が静かに動いた。
だがその声には、圧倒的な力と意志がこもっていた。
「――風の渦!」
叫びと共に、焔羅が斧を振り下ろす。
瞬間、凄まじい風の力が前方へと放たれた。
轟音と共に空気が裂け、渦は怒涛の勢いで進む。
地面を抉り、土と葉を巻き上げ、すべてを飲み込みながら暴走した。
中心で爆発が起こり、地面が震え、空気が震動する。
吹き荒れる風は次第に弱まり、やがて静寂が訪れた。
――まるで嵐の後のような、重く静かな静けさだった。
優は呆然と立ち尽くし、目を見開いたまま動けなかった。胸の鼓動が早鐘のように鳴り続けている。
(これが……魔法……!? こんなものが……本当に存在するなんて……!)




