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第11章「言えなかった言葉」

今回の話は少しでも読みやすくなるように工夫してみました。今後、過去の章も順次同じように手直ししていくつもりです。楽しんでいただければ嬉しいです! ( ´ ▽ ` )ノ

 闇は一歩進むたびに深みを増し、足元の影がじわりと伸びていく。


 数段の階段を降りると、焔羅は小さなチェストの上に置かれた一本のロウソクに手を伸ばした。火を灯すと、ほのかな光が古びた部屋の姿を浮かび上がらせる。壁際に押しつけられたベッド。長い間使われていない古い家具。薄く積もった埃。忘れ去られた空気の匂い。


「――よし」


 焔羅は小さく笑いながら言った。


「今夜、お前が寝るのはここだ。うちの……地下室だな!」


「え、あ……まあ……想像とはちょっと違うけど……ありがとうございます!」


 優は頬をかきながら、気まずさをごまかすように笑った。


 焔羅は埃をはたきながら豪快に笑う。


「ちょっと埃っぽいがな、ハハハ! 昔は客間として使ってたんだ!」


 優は心の中で深い溜め息をつく。


(うん……わかるよ。千年くらい昔の“客間”だよね……!)


 彼はギシッと音を立てるベッドに腰を下ろした。わずかに沈むが、硬い。薄い埃が服に付く。


「ま、まあ……そのうち慣れます……」


 そうつぶやいた瞬間だった。


 焔羅の笑顔が、ふっと消えた。


 眉が寄り、視線が鋭さを帯びる。部屋の空気が一気に張りつめた。


「なあ、坊主……」


 低い声。静かだが、逃げ場のない深さがあった。


「お前に聞きたいことがある。ずっと気になってた。……今朝みたいに、もう俺に嘘はつくな。お前は――どこから来た?」


 優の体がピタリと固まる。


 首筋に冷たいものが走り、汗が一筋、頬を伝った。腕の毛が総立ちになる。


(やばい……! 焔羅さん、こんなに真剣なの初めてだ……! どうしよう……また日本なんて言ったら絶対バレる……!)


「ご、ごめんなさい、焔羅さん……!」

 声が震える。

「えっと……遠い村から……来ました。森で迷って、何日も歩いて……気づいたらここに……」


 焔羅は腕を組み、じっと彼を見つめた。その目は厳しくも、どこか見極めようとするようだった。


「……ふむ。まあ、近くの生まれじゃないことくらい、見ればわかる。文化も、服装も、所作も違いすぎる」


 短い沈黙。張りつめた空気が痛いほど胸を締めつけた。


「……運が良かったな。もしお前が危険な奴だったら、家族にも村にも決して近づけなかった。お前は弱すぎる。薪ひと束持ち上げるのもやっとだろう」


 優の心臓は激しく脈打ち、今にも胸から飛び出しそうだった。手は震え、足先まで冷たくなる。


(こ、怖い……怖すぎる……! どうなるんだ、俺……!?)


 焔羅はゆっくりと一歩近づき、優の肩に大きな手を置いた。


 その手は荒々しいのに、不思議と温かかった。


「――坊主。いや、マツ」


 落ち着いた声が、薄暗い地下室に響く。


「取引しよう。俺はお前がここで暮らすのを許す。その代わり……村の誰にも害を与えるな。そして働け。自分の身は自分で支えろ。……できるな?」


「は、はいっ……! 約束します……! 絶対に誰にも危害を加えたりしません! 迷惑も……かけません!」


 焔羅の険しい表情がゆるんだ。


 そして、優の髪を大きな手でぐしゃぐしゃと撫でた。


「すまなかったな、冷たくして。全部……村のためだ」


 優の胸の奥で固まっていた不安が少しずつ溶けていく。呼吸がゆっくりと整い、鼓動も落ち着きを取り戻す。


「大丈夫です……結果的には、よかったですから」


 焔羅は豪快に笑った。


「ハハハ! だよな! さて……明日は忙しくなるぞ。しっかり寝とけよ! おやすみ!」


「ありがとうございます、焔羅さん。おやすみなさい!」


 優は額の汗をぬぐいながら、安堵の息を吐いた。


 焔羅は階段を上がっていき、やがて姿が見えなくなる。残されたのは、チェストの上で揺れるロウソクの小さな炎だけ。


 優はしばらく天井を見つめていた。


(……まだ信じられない。今日起きたこと、この世界のこと、みんなのこと……頭がぐちゃぐちゃだ)


 ゆっくり横になり、腹の上に手を置いて深呼吸する。


(俺……本当に異世界にいるんだよな……? 夢みたいだ。怖いくらい綺麗で、知らないことばかりで……でも、これが――現実なんだ)


 優は身を起こし、ロウソクをそっと吹き消した。


 ふっと炎が揺らぎ、闇が部屋を包み込む。


 再び横になると、瞼がゆっくりと落ちていった。


(今日……俺、嬉しかった。焔羅さんも、ひなりちゃんも、春香さんも……村のみんなも……ここでなら……俺、普通でいられるのかな……)


 でも、胸の奥にはまだ触れたくない影が潜んでいた。


(……いや。今は考えるな)


 優は小さく息を吐き、焔羅の言葉を思い返す。


(“明日は大きな一日になる”……って。何があるんだろう)


 その瞬間――


 背筋に冷たいものが走った。


 理由はわからない。ただ、本能が震えた。

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