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第10章「スープに迎えられて」

優はしばらく黙り込み、自分の思考の奥に沈んでいた。


――そのとき。

温かなスープの香りがふわりと立ちのぼり、優の鼻先をやさしくくすぐった。


そのほっとする匂いに、胸の奥がじんわりと温まっていく。

自然と目が輝き、優はスプーンへ手を伸ばした。


立ちのぼる湯気の向こう、柔らかそうな猪肉が揺れる。

それをそっとすくい、口へ運んだ瞬間――


身体が震えるほどの感動が押し寄せた。


スープは熱いが、心地よい温もりだ。

香辛料の加減は絶妙で、猪肉はほろりと崩れ、舌の上で静かに溶けていく。

ほんのりスパイシーな旨味が幾重にも広がり、じわりと全身に染みていった。


「……すごい……!」


思わず声が漏れる。


対して焔羅はというと、すでに器の半分以上を平らげていた。

信じがたい速さで食べ進めていて、スプーンが器に当たる軽い音だけが忙しなく響いている。


「ハハハハッ! 今日も最高だな、お前たち!」


口いっぱいにスープを含んだまま、嬉しそうに叫ぶ。


「でしょ! ひなり、いっぱいお手伝いしたんだよ〜! ひひひっ!」


陽菜莉は得意げに胸を張った。


「本当に助かったわ。ありがとう、陽菜莉。」


春香はふわりと微笑み、娘の頭を撫でる。


その横で――

優は焔羅の器を見て凍りついた。


(ちょっ……早っ!? なんで!? この人、絶対普通じゃない……!)


春香と陽菜莉は落ち着いた様子でスープを味わい、

暖炉のぱちぱちという音だけが静かに部屋に響いていた。


やがて全員が食べ終えると、温かな余韻が静かに満ちた。

まるで料理の温もりが身体ごと包み込むようだった。


陽菜莉が大きな欠伸をし、眠そうに目をこする。


「ふわぁ〜……もう眠い……。明日ね、村のみんなといっぱい遊ぶの。だから、たくさん寝なきゃ……。」


春香もゆっくりと伸びをして、肩をほぐした。


「私も疲れたわ。今日は本当に陽菜莉とたくさん動いたものね。」


三杯ものスープを平らげた焔羅は、満足げに背もたれにもたれながら大きく伸びをした。


「先に寝てこい。マツは……行くあてがないだろう。今夜はうちで泊めてやる。部屋を案内する。」


「えっ……! 本当ですか!? ありがとうございます! どうお礼を言えば……!」


優は勢いよく立ち上がり、胸が熱くなるほど感動が溢れた。


焔羅は豪快に笑い、腕を組む。


「ハハハッ! 森で寝かせるわけにはいかんだろ。」


「やったぁ! マツくん今日ここで寝るの!? ひひひっ!」


陽菜莉は嬉しそうに跳ね上がり、再び欠伸をしてから階段へ向かっていった。


「ふわぁ……もう寝るね……。おやすみ、お母さん! お父さん! それとマツくん!」


ふらふらしながら階段を上るその背中は、今にも眠りに落ちそうだった。


「おやすみなさい、陽菜莉。ホウェキオンの加護がありますように。私は片付けたらすぐ寝るわね。」


春香は器を集めながら優雅に微笑む。


「おやすみ、あなた。そして……おやすみ、マツくん。」


「おやすみ、陽菜莉。いい夢を。……春香、お前もゆっくり休め。俺は先にマツを部屋に連れていく。」


焔羅が立ち上がると、優に手で合図を送った。


優は深々と頭を下げる。


「おやすみ、陽菜莉ちゃん。おやすみなさい、春香さん。」


胸に広がる温かさを抱きながら、優は静かに焔羅の後をついていった。


焔羅は古いランプを取り出し、短い火打ち道具で火をつける。

小さな炎が揺らめき、壁に柔らかな影を落とした。


部屋の隅まで歩いていくと、焔羅はしゃがみ込み、木の蓋を持ち上げた。

ぎ……と低く軋む音が響く。


そこには、家の下へと続く暗い階段が口を開けていた。


優はごくりと唾を飲み込む。

背筋がぞわりと冷え、手のひらが汗ばむ。


(あ、あの……焔羅さん……? どこへ行くつもりなんだ……?

これ……ちょっと怖いんだけど……。いや、焔羅さんがそんなことするはず……ないよな……?)

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