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第33話:二人で一つの剣

第33話:二人で一つの剣

「大丈夫よ、ゼノ。…私たちは、二人で一つ、なのでしょう?」


アリアナの、聖母のような微笑み。

彼女の体から放たれた紅玉色の光は、夜の森を真昼のように照らし出し、突入してきたヴァルカン兵たちの動きを、一瞬にして縫い止めた。


「な、なんだ、この光は…!目が…!」

「体が…動かん…!」

兵士たちは、その神々しいまでの魔力の奔流を前に、ただ恐怖におののくことしかできない。


ゼノスは、信じられない光景を目の当たりにしていた。

アリアナが、自らの魂を喰らう、あの呪いの力を、引き受けている。彼の激痛が、嘘のように和らいでいく。しかし、その代わりに、目の前の、愛しい主君の美しい顔が、苦痛に歪んでいくのが分かった。


「陛下…!おやめください!その力は、あなたの魂を蝕む…!」

彼の悲痛な叫びも、アリアナには届かない。


アリアナは、よろめきながらも、毅然と立ち上がった。

彼女の紅玉の瞳は、目の前の敵兵たちを、絶対零度の視線で射抜いている。

「我が騎士の痛みを…その身で味わいなさい」


彼女が右手を掲げると、その指先から、紅玉色の閃光が放たれた。

それは、彼女の本来の魔法ではない。ゼノスの呪いの力と、彼女の愛が融合して生まれた、全く新しい、そして破壊的な力だった。

閃光は、ヴァルカン兵たちを薙ぎ払い、彼らの鎧を、まるで紙のように貫いていく。


「ぐわぁぁぁっ!」

断末魔の叫びが、夜の森に響き渡る。


しかし、その力の代償は、あまりにも大きかった。

強力な力を振るうたび、アリアナの雪のように白い肌に、黒い痣のような模様が、まるで呪いの紋様のように、じわりと浮かび上がってくる。

「くっ…!」

彼女は、自らの魂が、内側から削られていくような、激しい痛みに、思わず膝をついた。


その隙を見逃さず、生き残った兵士の一人が、アリアナに斬りかかった。

「もらった!」


しかし、その剣が彼女に届くことはなかった。

痛みが和らぎ、動けるようになったゼノスが、鋼の壁となって、その一撃を受け止めていたのだ。


「陛下から、離れろ」

彼の低い声には、静かだが、底知れない怒りが宿っている。


ゼノスは、アリアナを背後にかばうように立つ。

アリアナは、彼の逞しい背中に、自らの体を預ける。


「…ゼノ」

「…はい、陛下」


言葉はいらない。

アリアナが、彼の背中に、そっと手を置く。

二人の魂が、再び、完全にリンクした。


ゼノスの体から、呪いの力が溢れ出す。しかし、それは、アリアナという「光」の器と、制御装置を得ることで、もはや暴走するだけの力ではない。

アリアナの思考が、ゼノスの肉体を動かし、ゼノスの力が、アリアナの意志を具現化する。


二人は、もはや、女王と騎士ではない。

思考と肉体、魔法と剣技、その全てを共有した、二人で一つの、完璧な戦士となっていた。


「行くわよ」

「御意」


アリアナが心で念じると、ゼノスの体が、風のように動く。

彼の剣が、紅玉色のオーラを纏い、残っていたヴァルカン兵たちを、一瞬にして薙ぎ払った。

その動きには、一切の無駄も、迷いもない。アリアナの戦術眼と、ゼノスの技量が、完全に融合した、究極の剣技だった。


全ての敵を倒し終えた後、二人は、その場に崩れ落ちた。

ゼノスは、力を使い果たし、アリアナもまた、彼の呪いを引き受けたことで、魂を大きく消耗していた。


「…アリア…様…。なぜ、このような…無茶を…」

ゼノスが、掠れた声で問いかける。


アリアナは、彼の胸に顔をうずめると、子供のように、しかし、幸せそうに、囁いた。

「…言ったでしょう?あなたの痛みは、私の痛みだって。…それに、たまには、私があなたの盾になるのも、悪くないもの」

その美しい顔には、疲労の色と共に、彼と一つになれたことへの、甘い喜びが浮かんでいた。


その時、森の奥から、リラ、アルバス、シルヴァが、血相を変えて駆けつけてきた。

彼らは、無残に倒れるヴァルカン兵たちと、そして、傷つきながらも、寄り添い合う二人の姿を見て、言葉を失う。


三人の仲間たちは、この夜、改めて悟ったのだ。

アリアナとゼノスの絆は、もはや、誰にも引き裂くことのできない、運命そのものであるということを。

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