第19話:仲間たちとの日々
第19話:仲間たちとの日々
古代の森での旅は、これまでとは全く違うものだった。
五人となった一行の野営は、驚くほど賑やかで、そして温かかった。
ゼノスは、相変わらず寡黙に、しかし、もはや一人ではなく、仲間たちの分まで、黙々と食事の準備や見張りの役目をこなしていた。
シルヴァは、その卓越した狩りの技術で、一行の食料を確保した。彼女が仕留めた森の恵みは、アルバスが持つ薬草の知識によって、驚くほど美味しい料理へと姿を変えた。
そして、リラは、そんな仲間たちの中心で、太陽のように笑っていた。
彼女は、アルバスのローブの袖を引っ張っては、「ねえ、じいや!面白い魔法、見せてよ!」とせがみ、シルヴァには「シル姉の弓、格好いいね!私にも教えて!」と目を輝かせる。
その天真爛漫な姿は、気難しい賢者の口元を緩ませ、孤高の狩人の心の壁を、少しずつ溶かしていった。
アリアナは、そんな仲間たちの様子を、焚き火の向こうから、穏やかな微笑みで見守っていた。
女王として、ではなく、ただの「アリア」として、仲間と笑い合うこの時間が、彼女にとって、どれほどかけがえのないものか。
彼女の美しい顔には、王宮にいた頃には見られなかった、柔らかな光が満ちていた。
その夜、アリアナは、アルバスから、古代史や、失われた魔法理論について、教えを受けていた。
「…禁断の魔法は、本来、世界の調和を保つための、最後の安全装置のようなものだった。しかし、人の欲望が、その力を、破壊の道具へと変えてしまったのじゃ」
アルバスは、遠い目をして語る。
「人の、欲望…」
アリアナは、その言葉を、静かに胸に刻んだ。
少し離れた場所では、ゼノスが、シルヴァから、森での戦い方を学んでいた。
「森では、力だけでは勝てん。風を読み、木々の声を聴け。そうすれば、敵の気配は、お前自身のものとなる」
シルヴァの言葉は、簡潔だが、深い真理を突いていた。
ゼノスは、彼女の、自然と一体化したかのような剣技に、純粋な敬意を抱いていた。
「…感謝する。参考になった」
彼の、珍しく素直な言葉に、シルヴァは、わずかに目を見張ると、静かに頷いた。二人の間には、剣士としての、確かな信頼関係が芽生え始めていた。
リラは、そんな仲間たちの輪の中心で、リュートを奏でていた。
彼女が歌うのは、この旅で生まれた、新しい歌。
『紅玉の姫と漆黒の騎士
堕ちた賢者と竜の狩人
そして、風任せの吟遊詩人
ああ、奇妙で素敵な仲間たち
旅路の果てに、何が待つのか
今はまだ、誰も知らない…』
その、明るく、少しだけ切ないメロディは、焚き火の炎と共に、夜の森へと溶けていく。
アリアナは、その歌声に耳を傾けながら、思った。
(私たちは、まるで、古い英雄譚に登場する、冒険者の一行のようだわ…)
孤独な女王と、彼女だけを守る騎士。
そんな、閉ざされた二人だけの世界は、もうどこにもなかった。
彼女の隣には、今は、かけがえのない仲間たちがいる。
それぞれの傷を抱え、それぞれの目的を持ちながらも、同じ未来を見つめる、大切な仲間たちが。
この温かな時間が、永遠に続けばいいのに。
アリアナは、そう、心の底から願った。
しかし、彼女は知っていた。この穏やかな日々が、やがて訪れる、過酷な運命の前の、ほんの束の間の夢に過ぎないことを。
それでも、今は、この温もりを、信じていたかった。
仲間という名の、温かな光を。




