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第18話:森の主と五人の絆

第18話:森の主と五人の絆

森の奥から轟いた咆哮は、大地そのものを震わせた。

次の瞬間、木々をなぎ倒しながら、巨大な影が一行の前に姿を現す。


それは、巨大な熊の魔獣だった。しかし、その体は通常の三倍はあろうかという大きさで、全身の毛は不気味な紫色に変色し、その目には赤い憎悪の光が宿っている。マナ汚染によって理性を失い、ただ破壊衝動の塊と化した、哀れな森の主だった。


「チッ、最悪のタイミングで来やがったな!」

アルバスが、忌々しげに舌打ちする。


シルヴァは、即座に弓を構えた。その美しい横顔は、森の守護者としての、厳しい覚悟に満ちている。

「下がっていろ、人の子。こいつは、私が仕留める」

しかし、彼女一人では手に負えない強敵であることは、誰の目にも明らかだった。


魔獣が、咆哮と共に、シルヴァ目掛けて突進する。

その間に、鋼の壁となって立ちはだかったのは、ゼノスだった。


「させん!」

彼の漆黒の剣が、魔獣の振り下ろされた巨大な爪を、火花を散らしながら受け止める。凄まじい衝撃に、ゼノスの足が地面にめり込むが、彼は一歩も引かない。


「ゼノ!」

アリアナの叫び声が響く。


「アルバス、援護を!」

「言われなくとも!」

アルバスは、指先で複雑な印を結び、詠唱を開始する。

「古き氷の精霊よ、我が声に応え、その息吹で敵を戒めよ!」

彼の手から放たれた絶対零度の吹雪が、魔獣の足元を凍らせ、その動きを一瞬だけ封じた。


「わわわっ!こっちだよ、このデクノボウ!」

リラは、その小さな体で、魔獣の周りを駆け回り、石を投げつけては、巧みにその注意を引きつける。彼女の存在が、ゼノスへの攻撃を分散させていた。


「シルヴァ、今よ!目を狙って!」

戦況の中心で、アリアナの澄んだ声が的確な指示を飛ばす。


シルヴァは、アリアナの言葉に、一瞬だけ驚きの表情を見せた。しかし、すぐに頷くと、精神を集中させる。竜の血を引く彼女の瞳が、静かに、そして鋭く、魔獣の急所を見据える。

彼女が放った一本の矢は、風を切り裂き、唸りを上げて、吸い込まれるように、魔獣の赤い右目に深々と突き刺さった。


「グルォォォォォッ!!」

魔獣が、凄まじい絶叫を上げて暴れ狂う。


「とどめだ!」

ゼノスは、その一瞬の隙を逃さなかった。彼は、凍りついた地面を蹴り、高く跳躍すると、渾身の力を込めて、魔獣の眉間に、その漆黒の剣を突き立てた。


断末魔の叫びを上げて、森の主は、その巨体をゆっくりと大地に沈めた。


後に残されたのは、荒い息をつく一行と、森に訪れた、しばしの静寂だった。

初対面の、それも敵意さえ向け合っていた者たちが、まるで長年共に戦ってきた戦友のように、完璧な連携で強大な敵を打ち破ったのだ。


シルヴァは、ゆっくりと弓を下ろすと、一行、特に、的確な指揮で皆を一つにまとめたアリアナを、改めて見つめた。

その、森の湖のように静かだった瞳に、初めて、驚きと、そして微かな信頼の色が浮かんでいた。


「…お前たちは、ただの人間ではないようだな」

彼女は、アリアナの汚れを知らない紅玉の瞳と、ゼノスの曇りなき剣を見て、呟いた。その声には、先程までの敵意は消えていた。

「…いいだろう。森を蝕む元凶を断つというのなら、遺跡まで道案内をしてやる。ただし、それまでの間だけだ」


こうして、女王、騎士、賢者、盗賊、そして竜の血を引く狩人という、およそありえない組み合わせのパーティが、本当の意味で誕生した。

アリアナは、この頼もしい仲間たちとの出会いに、かすかな、しかし確かな希望の光を感じていた。


彼らの旅は、新たな局面を迎える。

それは、やがて王国の運命を、そして世界の理をも揺るがす、壮大な冒険の始まりだった。

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