5 ばあちゃんち
「まぁ、座れ。」
ツルを編んだような座布団をしめして、ばあちゃんが言った。
「腹は減っておるか?」
ばあちゃんにきかれてはじめて、僕はものすごく空腹なことに気がついた。
「うん。」
「朝作ったスープとパンがある。さっき取ってきた果物もな。」
ばあちゃんは、床の中心にある、石を並べた囲炉裏の上に細い枝をのせた。火種が残っていたのか、すぐに炎が上がった。そこに鍋をのせ、枝に刺したパンを近くにかざした。
料理が温まると、こぶしくらいあるみずみずしい果物といっしょに出してくれた。僕は、無心でほおばった。途中でおかわりをうながされ、全部おかわりした。その間、ばあちゃんは話しかけることなく、僕を見ていた。ばあちゃんからたちのぼる緑色の気配は、とてもやさしかった。
「うまかったか?」
僕が食べ終わると、ばあちゃんは笑った。
「うん、とっても。」
ばあちゃんは、うなずいた。
「ワシはハナ。ここに住んどる。で?お前の名は?」
「え?」
「え?ってことはないじゃろう。名前じゃ。」
「名前かぁ…。」
僕の名前…。僕の名前はなんだ?そもそも、僕はだれだ?
僕が首をかしげて考え込んでいると、ばあちゃんはあきれた。
「なんじゃ、自分の名がわからんのか?」
いぶかしげに僕を見たあと、ばあちゃんは言った。
「かくしているようには見えんな。まあよい。で、なんで河原に寝ておったのだ?」
僕は、空から落ちてきたときからのことを、順を追ってばあちゃんに話した。
「なんと…。赤鷲と大イノシシと大雷魚におそわれたのに、生きておるのか…。」
「やばいやつらなの?」
「このあたりでは、一番やばいやつらじゃ。そもそもこのあたりは、森の中では安全な方じゃ。だからワシもここに住んでおる。でも、やつらはダメじゃ。やつらには出くわさんようにせんと、ここでは生きていけん。」
「ふ~ん。」
とりあえず、無事だった幸運に感謝しよう。
「その前の記憶はないというわけか…。」
「うん。」
僕は眉を下げてうなずいた。