第6話 チー牛は剣に興味を持ったり持たなかったり
今回は短めです
そういえば、父さんはたまに剣聖様、と言われている。
剣聖ってのは、この世界でも数人しかいない最強の剣の使い手に与えられる称号、みたいなもんだ。
つまり、父さんはめちゃくちゃ強い。
一般の魔法師や剣士くらいなら何人いても虐殺できるほど。
逆に最強の魔法使いは大魔法師と言われる。この世界の俺の母がそうだったらしい。
つまり、俺は最強の剣聖と大魔法使の息子、ということになる。最強と最強を掛け合わせれば、そりゃ当然、最強ができるに決まってる。
実際、魔法の才は自分でもあると思っている。
魔法が憧れで楽しいからのめりこんでるってのもあるが、やっぱ、遺伝子的な要因も否定できない。
多分、剣聖の血を引いているなら、剣も習えばきっとものにできる。多分。
正直、前世は運動神経が良かったわけじゃないので、剣については本当に分からないな。
そこで考えた。父に剣を習いたいと言えば、稽古をつけてくれるんじゃないか?と。ワンチャン、俺は剣も上手く使えるのでは?
……とはいえ、俺は慎重に考えた。俺は運動部の様な熱血系はマジで大っ嫌いなのだ。
ひたすら体力作りのために走らされ、声を無理やり出して、監督やコーチはだいたいアホ厳しくて、無理させて体壊して、本命のスポーツはガチガチで楽しさなんてものは無い。
小学生の頃バスケをやっていたが、正直楽しくなかった。でもチームとか熱血指導とか無く、遊びでやるバスケは楽しかった。
そりゃ上手くなるには熱血指導は必要かもしれん。
でも、そういう暑苦しいノリはマジで無理。
俺はただ、楽しくやりたいだけなんだ。
もしかしたら、この世界の稽古もそんな感じなのかもしれん。
でも、やっぱり暇なんよな。魔法は自分で本読んで独学で習得できるにしても、剣に関してはさっぱりだ。
実際に体を動かしていくものだから、指南がないと剣を振れるようにはならん。
魔法は座学、剣は体育に近い。結局、剣を使えるようになるには、父さんに教えてもらわないといけないのだ。
仕方ない。とりあえず、聞くだけ聞いてみるか。行動できた俺、偉い。
てことで、俺はリビングでソファで休んでいる父に聞いてみた。
「あの、父さん」
「お、なんだ?」
「えっと、その、頼みが……」
「ほう。言ってみろ?」
「えー、その、剣を、教えてほしい、といいますか……」
「なに?」
「ひ!?」
いきなり顔が険しくなる父。なんで?やっぱ俺にはまだ早すぎる、的な?
「さすが我が息子だ!向上心が高いな!どうする?いつからがいい?まずは体作りからだな。木剣も用意しないとな。」
うん。違った。
めっちゃ教える気満々じゃないすか。やっぱ、親ばか気質があるよこの人。
うわあ、体づくりから始めるって言っちゃってる。絶対だるいやつだ。頼まなきゃよかった。
熱血系はごめんだって、さっきも言ったけど。
自分から頼んでおいてなんだが、ひたすら体づくりのためのトレーニングとか、ただ走るだけみたいなのは、俺にとってただの拷問だ。
それに、運動神経も良くなかったから、体育は地獄だった。
ゴミみたいな失敗を他人に見られ続ける。だからわざとやる気なさそうに失敗していたな。まだその方が気が楽だった。
うう、なんか緊張してきた。やっぱりゴロゴロしてたい。
自分から言い出しといて、今さら「やっぱ辞めます」なんて言えるわけがない。最悪だ。
しかも、父さんはめっちゃうれしそうだし余計に「やっぱいいです」とか言えねえじゃん。
はあ。やっぱ、行動してもろくなことにならんな。今度からはもっともっと慎重に行動しよう。
ね、ネガティブになるな。きっと大丈夫、なんせ、剣聖の息子だ、きっと体力もある。筋力もつくはずだ。
と、自分を励ますくらいしかできん。色々準備してた父が戻ってきた。地獄のトレーニングが、今、始まろうとしている……。なんてな。