第104話 チー牛は学園祭に強制参加
その後ルーの死体を発見した担任のリーファへの事情の説明は、ずっと教室にいたネクラにやらせた(どもりながらも頑張ってた)し、信教徒なので遺体は学園に引き取られた。その後どうなるのかは知らん。
教室の修復作業のため、今日の残りの授業は中止となった。生徒たちのパニックも完全には収まっていないしね。
あとは教師たちに任せるとして、俺とユリアは二人で寮に戻ることになった。
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その後、俺の部屋に戻る。ユリアは話があるようでそのまま俺の部屋までついてくる。
さっきのユリア救出のこともあって、地味に気まずい空気が流れていた。こういう時、大体話を切り出すのは、俺ではなく、相手の方だ。
今世で友達ができたにしても、やはり自分から話しかけるのは怖い。椅子に座っているユリアは下を向きながら、目を合わさずに話す。
「チー君、その、今日は、ありがと……」
「いえ、その、ユリアの騎士なので」
「うん、そう……だよね」
ユリアはすこし、申し訳なさそうにしている。守られる側は、守る人に対して申し訳なく思う。自分のせいでこうなっていると。それが当たり前だと思っているような傲慢な人ならまだしも、ユリアの様な真面目な人には罪悪感も感じるだろう。
「えっと、最近、私、迷惑かけてばかりで……その、騎士は、もうやめてもいいんだからね?もうチー君も立派で、友達もできたし、私がいなくても大丈夫だよ」
「なんすかそのすげえ保護者目線は……」
「あ、あはは」
やはり、ユリアは感じていた。自分のせいで信教徒のあれこれに俺を巻き込んでいると。
でも、それ以上に俺はユリアに感謝している。毎日、ユリアという美少女を見られるのは眼福だ。まあそんな恥ずかしいこと口が裂けても言えないが。
ただ、ユリアがいなかったらいまだに完全自己否定型・内面チー牛イケメンのまま人生進んでたのは間違いない。だから、離れるつもりはない。
あ、でも、ユリアが俺を遠ざけたかったっていう可能性もある。なんせ、俺の心はまだチー牛のままだから。
「あ、すみません、ユリア、やっぱり俺の事キモくて、その、もう騎士やめてほしかったってことですよね?すみません……」
「いやそんな事言ってないでしょ!?むしろその……何でもない!」
急に大声出すな……。まあでも、ユリアが俺を嫌がっていないんなら、まだこの関係が続いてもいいよな?
「だったら、その、安心してください。その、ユリアの騎士は全然嫌じゃないですから。俺がユリアを守って、ユリアは俺の世話を焼く。これでWINWINじゃないすか」
「え……。でも」
「ユリアはもともと王族の姫で、かつ狙われているんすから、騎士がいて当然っすよ。その……迷惑とか考えなくていいっすから、むしろこのクソみたいな性格で迷惑かけてるのは俺だし」
「……もう。そんなことないから。」
こうでも言わないと、離れてしまうかもしれんから。やっぱ、なんだかんだ言って、俺を受け入れてくれるユリアといるのは、楽しいし。
「じゃあ、嫌じゃなければ、今後も、お願いします、私の騎士様」
「え、あ、はい」
ユリアは顔を上げ、笑顔で言った。その笑顔は、まぶしすぎて直視できない。守りたい、この笑顔、なんつって。
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数週間後、学園は復旧し、再開された。
あの青龍戦の後くらいから、ユリアからのスキンシップが増えた気がした。
ただ、リスク管理としてちゃんと避けたり、直接やめてもらったりしているが、そのたびにむくれて不機嫌な顔をする。それはそれで可愛い。
やっぱ、ネクラの言う通り、俺に気があるのだと勘違いしてしまいそうだ。本当に、マジでやめてほしい。やめてほしくないけど。
今日もユリアとレッドと学園に登校し、教室でネクラと合流する。今日のホームルームで、リーファが軽く今後の動きについて話す。
「よし。学園は復旧した。今日からまたいつも通り授業を再開するが……。お前らお待ちかねの学園祭が今年も始まる。ある程度クラスメイトとも顔も知れたことだし、団結して成功させるように。明日から、クラスでの出し物を決める。考えておくように。以上だ」
はいきましたクソ行事。去年もやってたが、俺はネクラと一緒に逃げ切って不参加だった。それはそれで青春だったぜ。
すると、ユリアが俺のわき腹をツンっとつつく。突然の刺激に反射的に声が出た。
「あんっ!?」
「チー君その声きもい。じゃなくて……今年はちゃんと参加してよ?手伝いもしてよ?」
今さらっとキモイって言われなかったか?まあさすがに急にわき腹つつかれたら変な声も出るわ。とりあえず今年もさぼりたいので否定する。
「ええ……嫌っすよ」
「ねえ、去年は許したけど、来年は絶対出てって約束したよね???ね???」
怖い怖い怖い。ユリアさんなんか声が低くなってるって!……はあ。
「分かりましたから……」
「それでよし。あのね?もう2年生だよ?学園祭は今回含めてあと2回しかないんだよ?今を楽しまないと!」
「え……あと2回もあんのかよ……」
「なんでそう言う考えになるかなあ……とにかく、参加!」
はあ。別にいいけどさ、特に手伝うことも無いし、単純に絶対つまんない。
前世の学園祭でも、何もせず誰とも関わらず、ソシャゲだけして終わった。正直言って、何が楽しいの?
陰キャには陽キャどもが騒いでワイワイしてるだけにしか見えない。人間関係を構築している奴らには楽しいが、陰キャにとってはただの拷問でしかない。