大事にしたい
「俺、紗理奈さんにあんな顔させたくなかったな……」
樹が、か弱い声で言った。
紗理奈、電話越しで見えていなかったけど、多分、苦しそうな顔をしていたと思う。
好きな人に告白して、フラれて……諦めて、私のことまで応援してくれて……
紗理奈だって辛いのに。私は、こんなところで立ち止まっている。
「でも、紗理奈は……樹のことを好きになったの、後悔なんてしてないと思うよ。どんな顔してたかは、分からないけど……でも、それで樹がそんなふうに思うことを、紗理奈は望んでないよ」
紗理奈が言ってた。樹のことを好きになって良かったって、樹にちゃんと言えるようになりたいって。
「……でも、これから紗理奈さんと、今までの友達で居られるかな」
樹は、不安そうにしている。なんて言ったら良いのかな。紗理奈が言ってたことを私が伝えるのは、違う。それは、紗理奈が自分で言うべき、言って欲しい言葉だから。
じゃあ、私の言葉を伝えなくちゃ。
「私は、居て欲しいよ。前みたいに、みんなで過ごしたい」
「……そうだよな」
紗理奈は、前を向ける人だって知っているから。樹も、安心できるかな。
私は、言おうとしていた言葉を言える雰囲気ではないことに気付いた。
この状況で、自分の思いを伝えるなんてできない。やっぱり、怖い……
「亜澄、俺、今日紗理奈さんに言われたんだ……自分の気持ちを大事にしてって」
「うん。私も……言われた」
知ってるよ。だから、私は言おうと思ってたの。
でも……それは、樹をもっと苦しめてしまう。
やっぱりこの気持ちは、しまっておかないと……
「だから、考えたんだ。自分の気持ちを」
怖い。その先は、何。どんなことを、言われるんだろう。
「亜澄が彼氏ができたって言ったとき、モヤモヤした。それは、嫌だってことなんだと思う。彼氏が立花じゃないって知ったとき、安心した。亜澄は……」
鼓動が、速くなる。さっきよりも、手も足も、声も震える。
「俺の、幼馴染みなのに……」
幼馴染み。その言葉は、合っているようで、望んではいない言葉。
「俺は、亜澄のことが……好きなんだと思う」
樹は何とか言葉にして、真っ直ぐ伝えてくれた。
「思う」って……何それ。ちゃんと、自信持ってよ……
「私も自分の気持ち、大事にしたい。……好きだよ、樹が」
「……うん」
幼馴染みに、好きな人ができたらしい。




