気持ち
「樹くん……」
大好きな名前を呼ぶと、大好きな貴方が私を見る。
「どうしたの?」
「あのね」
花火の音、他の人達の声。どれよりも、私の心臓の音が大きく聞こえる。
静かにして。今だけ、落ち着いていて。
今から、伝えられるから。やっと……この気持ちを貴方に分かってもらえるから。
「少し、聞いてほしいの」
せっかくなら、ちゃんと伝えたい。聞いてもらいたい。
「……努力家で、陰での頑張りをひけらかさないところ。人のことをよく見ているところ。ゆっくり話すところ。歩くとき、合わせてくれるところ。勉強ができるところ。他の人からも慕われているところ。私の夢を、応援してくれるところ。」
樹くんは、何が何なのか、分かっていないみたい。
「鈍感なところ……そんな、色んな樹くんが、大好き」
今まで我慢していた言葉と同時に、涙が溢れた。
「紗理奈さん……その……」
突然の告白か、それとも私が泣いていることか。どちらにせよ、樹くんは困っている。
「樹くん、聞いてくれてありがとう……返事がどちらかは、分かってるわ」
当たって砕ける。そう、決めたんだもの。
伝えられただけでも、嬉しかった。
「あと、最後にこれだけ言わせてほしいわ」
樹くんのちょっと困った目を真っ直ぐ見て、伝えたい。
「樹くんも、自分の気持ち……ちゃんと大事にしてね」
それから、お互い、何も言わなかった。
私は、花火を最後まで見てから帰ることにした。
手だけ振って、歩き出した。
気のせいかもしれないけど、少し体が軽い。
「……全部、言えたわ……」
嬉しいはずなのに。言えて、幸せなのに。一緒に居るだけで良かったのに。どんどん欲深くなっていっちゃう、自分が怖い。
樹くんに、全部届いているといいな。
もちろん、後悔なんてしていない。
好きになって良かった。一緒にいれて良かった。色んな貴方を見れて、好きになれて良かった。話せて良かった。触れられて良かった。
全部、嬉しかった。楽しかった。幸せだった。
樹くんも、そうだと良いな。私と過ごしたことを、良い思い出にしてほしい。
そうだと思っても、一度溢れてしまった涙は止まってくれない。
これは、樹くんへの気持ちの分ね。なら、まだまだ止まないわ。
家族がいるから、せめて涙を止めてから帰ろうと思って、公園に寄った。
背中を押してくれた亜澄や貴也くんに報告をしようと思ったら、丁度メッセージが来た。
「電話してもいい?」




