楽しかった
「おやすみ、樹」
目の下を赤くした亜澄が、静かに家の中に入っていった。
幼馴染みの亜澄のことは、他の人よりも知っているような気がしていた。けれど、違った。何も知らない。何年も一緒に居ても、相手が話さなければ何も分かっていない。
亜澄は、あんなに強くて、かっこよくて、それでいて可愛くて。たまに意地悪で、優しくて。知っていた部分も、深まっていく。
これからもまた、知って行けたらいいな。
「ただいまー……」
家に居たのは、姉だけだった。
「あ、樹。おかえり」
リビングでニュースを見ていた姉が、俺のほうを振り返った。
「みんなとの海は、楽しかった?」
「うん……めちゃくちゃ楽しかった!」
買い物に付き合えなかった分、色々話せと言われた。でも、今日したことを話していても、楽しいと感じた。
「買い物、そうだ。夏祭りがあるでしょ? その日に行かない?」
午前にショッピングモールで買い物をし、そのまま夏祭りに行こうと提案した。
夏祭りは、先に紗理奈さんと約束したんだよな……
「夏祭りは、友達と行くんだ。でも、午前なら行けるよ」
「また5人で行くの?」
「ううん。今日も居た子、紗理奈さんと」
なぜかしばらく返事がなく、リビングが静かになった。
「女の子と2人で行くの!?」
「うん……そうだけど」
女の子って……普通に友達だし。まぁ、誘われた時はそりゃ驚いたけど。
「私お風呂入るね」
そう言って、脱衣所に行った。また静かになったリビングで、通知音が鳴った。
鞄からスマホを取り出して確認すると、5人のグループトークが動いていた。
みんなが撮っていた写真が送られてきていた。
俺と紗理奈さんが話している間、亜澄が撮った2人の写真。
「ははっ、びしょ濡れじゃん……貴也怒ってるし……」
こんなに写真撮ってたんだな。一応俺も撮ってはいたけど、大した写真じゃない。海の写真と、ご飯を食べていたときに撮った写真くらい。
「あれ、紗理奈さん……個人?」
紗理奈さんから、なぜか個人で写真が送られてきた。
2人で撮ったものだった。そういえば、紗理奈さんに言われて撮っていた。
「だから個人で……」
みんな撮ってるし、俺も何か送る雰囲気だけど……特に撮ってないんだよなぁ。
「あ、これ……」
あの時撮った、あのマイペースなヤドカリの写真。よく撮れていたし、結構気に入っている。
みんなになんでヤドカリ? とは言われたけど……




