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先にいる

「……私、フラれたんだ」

 誰も居ない、静かな公園。亜澄の弱くて小さな声と、髪を揺らす冷たい風の音だけが、余計に大きく聞こえる。

 何か言おうとしても、言葉が出なかった。ただ、亜澄の言葉1つ1つを聞いたほうが良い気がした。

「告白されて、付き合って……良い人だった。」

 亜澄は、声を震わせながら、一生懸命喋ってくれた。

 その相手が誰なのか教えてくれないということは、多分……俺の知らない人なんだろう。

 いつの間にか、知らない場所で知らない人を好きになっていたんだ。亜澄は、俺より先を歩いていた。

「それを樹、みんなに言ったのは……気付いてほしいから。私は樹の幼馴染みだけど、周りから見たら普通の男女。だから、私は樹の対象から外れたの。樹、女の子に憧れられてるの気付いてないでしょ?」

 気付いてない……のかもしれない。相手からの好意を確信する出来事はなかったから。

 それも、亜澄が言うに誤解があったから。亜澄が居るから。

「でも、逆に樹が対象に入ったよね。まぁ、色んな意見もあるけどさ」

 亜澄は、色んなこと……俺のことも考えてくれていたんだな。

「どうして、フラれたんだ……?」

 亜澄は、言いにくそうだった。そりゃ、自分がフラれた原因を言葉にするのは辛いだろう。

 でも、俺が聞くと亜澄は答えてくれた。

「私、彼の前でも樹の話をしてたみたい。彼に、『俺のこと好きじゃないよ』って言わせちゃった。」

「俺の話……?」

「うん、樹のこと。私は無意識だったけど。兄姉のことを話す感覚だったのかも。でも、それが原因……今考えれば当たり前だよ」

 亜澄の頬、大粒の涙が光った。今までこらえていたものが、溢れ出していた。

 どうしたら良いのか分からなかった。小さい頃なら、泣いた亜澄なんて珍しくなかった。転んだりして、すぐ泣いてしまう。

 今は、分からない。声をかける、何も言わない、触れる、何が正解なのか。

 でも……思ったことは、伝えるべきだと思った。

「……亜澄は、凄いよ。俺よりずっと……先にいる」

 自分を、相手を受け入れている。それは、好きになって、結ばれたことも。関係の結びが、ほどけてしまったことに対しても。

 亜澄は、俺の言葉に対して何か言ったりはしなかった。ただ、いつもの亜澄に戻っていた。

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