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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私の果てに。

作者: 星賀勇一郎





いつの頃からだろうか……。

私はこの行為に何も感じなくなってしまった。

ただ両足を開き、男を受け入れ、そして果てるのを待つ。

それだけの行為になってしまった。


気持ちいい……。

そんな感覚は忘却の彼方。

愛情を感じる……。

それも何処吹く風。

ただ、しばらく目を閉じて入ってくる男の圧力だけを感じ、薄く目を開けてその男の顔を見る。


やりたい。

そう言われれば断る事は無い。

けど、私がそう思った事は一度もない。


濡れてるかって……。

それはそれなりに濡れているみたいだけど、それと快楽が比例する事はない。


相性が悪いのかって……。

もう何人も受け入れてみたけど、どれも同じ。


私って欠陥品なのかもしれない……。


「お前さ、セックスして気持ちよくないの」


シンヤがさっさと果てて、下着を穿きながら言う。

私はベッドで髪を触りながら黙ってた。


「やってるこっちが拍子抜けするんだよな……。ちょっとは気持ち良い表情とか見せたらどうなの……」


シンヤはそう言うと冷蔵庫から缶ビールを出して飲む。


気持ちいいって感じないのに、そんな表情は出来ない。

そう言おうとして止めた。

それを言うと多分喧嘩になるし、この部屋で大声で怒鳴られたくないし……。


シンヤは缶ビールを飲み終えると、黙って出て行った。

もうしばらく彼はこの部屋には来ない。

それが悲しいとも思わないし、来て欲しいとも思わない。


私はベッドを抜け出し、シャワーを浴びる。

熱いシャワー。

私に染みついた男の匂いを洗い流す。

そしてその匂いを全部流した瞬間。

それだけが私の安堵の時。


私の最初の男……。

それはママの彼氏だったかな……。

中学生だった私の下着を脱がし、ざらつく舌で舐め回した。

それが別に嫌だとかそんな感覚もなかった。

ただ、ママの彼氏がその行為に飽きて終わるのを待ってた。

別にそのママの彼氏がカッコいいとか好きだとかそんな感覚もなかった。

ただ、終わるのを待ってた。

そんなモンだと思ってたし。

中学生の私に挿入するって事を躊躇ったのか、ママの彼氏は指を入れて来た。

痛いって感覚もなかったし、もちろん気持ちいいって感覚も無い。

ただ中学生の私を感じさせようと必死になっていた気がする。

今考えるとその姿が滑稽で、可愛かった。

それでも私から溢れ出る液体を綺麗に舐めてくれた事が、受け入れられている気持ちになった。


高校生になった時、その彼は私に入って来た。

それが正確には破瓜の時。

痛くも痒くもなかったが、ああ……そんなモンか……って感じで終わってしまった。

ただ、ママの彼氏は大人だったから、それなりに優しくしてくれたんだと思う。


次は同級生のヨシユキと彼の部屋で。

ママの彼とは違い、余裕のないお腹の空いた子供みたいなセックス。

濡れても無いのに入れようとするし、入れたら直ぐに終わった。

スカートに彼の白い液体が付いて、取るのが大変だった。

それにヨシユキはその後がめんどくさくて嫌だった。

ほら、一回したら自分の女みたいに私を扱う、そんな典型的なヤツで。

何回かしたけど、いつでもやれる都合の良い女みたいに扱われる。

それが嫌って訳じゃないけど、そう扱われるのが好きな訳でもない。


ただヨシユキが私に飽きるのを待ってただけ。


一つ上のカズマって先輩とホテルに行った事がある。

カズマは私の身体を舐めるのが好きで、眼球まで舐められた。

足の指の間とか脇、もちろんあの部分も……。

黙って携帯を触っている私の身体を舐めて、私が感じるところを探している感じだった。


若い男はとにかく入れたがる。


友達のサチがそう言ってたのを思い出して、必死に私の身体を舐めるカズマが奴隷みたいに見えて、少し優越感に浸った。


結局カズマも私に入ると直ぐに出してしまった。


その後も何人かとセックスしたけど、得るモノなんて何もない。

私にとってセックスなんて男が果てるのを待つだけの退屈な時間。


快楽なんてどこにもない。

愛情を感じる事もない。

無意味なモノ……。


そんな無意味なモノに男たちは必死になる。

セックスしたいがために女に金を使い、チヤホヤする。


私は高二の冬に家出をした。

特に家出する理由もなかったんだけど、何となく。


ママは私を探すかと思ってたんだけど、結局そんな気配もなかった。


初めのうちは、泊めてくれそうな男に近付いてセックスさせる代わりに泊めてもらい、ご飯を食べさせてもらう。

そんな生活をしてた。

生活なんて呼べるモンじゃないかもしれない。

そうやって生きてた。

そして男が飽きるのを待つ。

飽きると追い出され、またその日のうちに次の男を探して、部屋に転がり込む。

そんな男はどこに居ても見つかったし、ご飯を食べるのも苦労しなかった。

ただ、突然飽きられて放り出されるのは、私も心の準備が出来てないから嫌だった。


ある時、街でタカユキって男に声を掛けられた。

不思議な言葉だった。


「いくら……」


その時、私は自分に値段付く事を知った。

私はその日、タカユキに三万円で抱かれた。

三万円が高いのか安いのかなんてわからない。

けど、自分で稼いだ初めてのお金だった。


タカユキとのセックスも今までと一緒で、自分勝手なセックス。

そして出せば終わり。

そんなモノだって思ってた私にはちょうどいい。


その日以来、私はタカユキと会った場所で座って誰かを待つ。

タカユキは不思議な男で、私が座っていると毎日、私の好きなセブンアップとメロンパンを持ってやって来る。

誰に声を掛けるでもなくただ座っている私の横に座って、じっと私の事を見てる。


「お前さ、ウリやってるんじゃないんだな」


そう言って笑ってた。


スーパーに並んでいる林檎は自分から売り込まない。

その林檎を欲しいと思ったお客さんが自分から籠に入れて買って帰る。

私も同じ。

自分から売り込む事はない。

ただ毎日誰かが私に訊いてくる。


「いくら……」


って。


気が付くと私の持っているバッグの中には一万円札がわんさか入っていた。

それで私は部屋を借りた。

何もない部屋に、タカユキが小さなテーブルと使わなくなったステレオを持って来てくれた。

私は初めに真っ白なマグカップとお皿を買った。

するとタカユキが冷蔵庫を持って来てくれた。

エド・シーランのCDとオーブントースター、姿見の鏡とドライヤー、小さな掃除機とホットプレート。

タカユキがパチンコの景品だって言って私にくれた。


私が生活する場所が出来た。

家を出て数ヶ月。

私は一人で生きるって簡単だった事に気付く。


家賃はセックス二回。

食費はセックス三回。

服はセックス四回。

水道光熱費はセックス一回。

月に十回セックスしたら生きていける。

そんな計算。

高校中退の私にも出来る計算。


タカユキが私に飽きて家に来なくなった頃、ユージって男と知り合った。

このユージはヤバい奴。

いつも白い粉を持ってて、私とセックスする度にその粉を使いたがる。

本当は注射器で血管に直接入れるらしいけど、そんなの怖いから嫌だって言ったら、ユージは私のお尻の穴にそれを少しだけ入れた。

私は空に浮いている気分で気持ち良かった。

けどセックスが良かった訳じゃない。

ユージの持っている白い粉のせい。


「お前、薬使っても感じないんだな……」


ユージは最後にそう言って部屋を出て行ったまま二度と来なかった。

私から二度と会いたくないって思ったのはこのユージだけ。


毎日夕方になると部屋を出て、いつもの場所に座る。

そこに座って足をぶらぶらさせていると誰かが声を掛けてくる。

ご飯に行こうとか、遊ぼうとか。

お酒でもどう、お茶でも行こうよ。

パターンは大体同じ。

お腹空いてる時はご飯も行くし、喉が渇くとお茶にも行く。

遊ぼうってのとお酒はパス。

遊ぼうって何して遊ぶの……。

お酒は飲んだことないから断ってる。


ある日、ユキミって私と同じ歳の女の子に声を掛けられた。

すぐに仲良くなって、ユキミはよく私の部屋に来るようになった。

まだ高校生だったけど、塾へ行くって親に嘘をついて私の部屋のコタツで話をした。

けど、お互いに詮索しない。

それは暗黙の了解で、お菓子を食べながら、あったかいココアを飲んでアイドルの話とか学校や街での話をしていた。

そんなユキミがある日、夜遅くにやって来た。


「今日、泊めて……」


ユキミは目に涙を溜めて膝を抱えて座ってた。

私は何も聞かなかった。

買っておいたカップ焼きそばを二つ作って黙って食べた。

順番にお風呂に入って、シングルベッドに二人で入る。

寒い日だったからユキミの体温が気持ち良かった。


眠れなかった私たちはふざけて胸の触り合いをした。

するとユキミは私にキスをしてきた。

私は驚いてユキミを跳ね除けた。


ユキミは私の事を好きだと言う。

女の子からの告白は初めてで、どうしたらいいのかわからず、私は目を閉じて考えた。

考えても答えなんて出る筈もない。

私はユキミにされるがままに身を任せた。


ユキミが私のあれを丁寧に舐める。

私の目の前あるユキミのあれを私も舐める。

女の子のあれを舐めるのは初めてで、その湿った部分に舌を這わせて舐め上げた。


ユキミは可愛い声を上げる。

私はそんな声を出した事が無かった。

胸に触れても、耳を噛んでも、あれに指を入れても……。

可愛い声を出し、身体をよじる。

どんどんその声は大きくなっていき、私の胸の上にユキミのあれから溢れ出る温かいモノがポトポトと落ちる。


私はこの先、ユキミがどうなるのかを知りたくなり、どんどんユキミ身体を舐め上げた。


ユキミは私の太ももに跨り、自分で激しく腰を振って果てた。

女が果てるってのを初めて目の当たりにした。


ユキミから溢れ出たモノで濡れたベッドの上で、彼女は動かなかった。

死んでしまったのかと思う程に。


その日、私は裸のユキミと朝まで抱き合って眠った。


そしてわかった。

女にも性欲ってのがあるって事が。

でも欠陥品の私にはそれが無い。


ユキミは私に言った。


「好きならその相手とセックスしたいって思うのは当たり前なのよ」


ユキミはニコニコ笑ってた。


「私の場合はそれが男じゃなくて女だっただけ」


それは理解できるような気がした。

でも、好きって何……。

好きだからセックスするの……。

好きじゃなきゃセックスしちゃいけないの……。


ユキミは私が好きって言った。

私はユキミの事好きなの……。

女の子同士って別なの……。


沢山、ユキミに訊きたいことがあったけど、ユキミには何一つ訊けなかった。


何度かユキミと抱き合ったけど、やっぱり私の頭の中は冷静で、何も感じる事が出来なかった。


そのうちユキミも来なくなって、私はまたいつもの日々に戻って行く。






それから二年。

私も二十歳になった。

俗に言われるウリを辞めて、少しはまともな生活を送ろうと努力してる。


何人かの男とも付き合ったが、そこに好きという感情はない。

そしてセックスで感じる事も無かった。


牛丼のチェーン店でバイトしたり、居酒屋でバイトしたり。

飲食店でバイトするのは、ご飯だけは食べる事が出来るから。

それと結構簡単に採用してくれる事。


居酒屋でのバイトは深夜に終わる。

私は一人、部屋に帰る為に歩いていた。

すると、一人の男が私に近寄って来た。

汚い身なりの男で、アンモニアの匂いがした。


「久しぶりだな……。覚えてるか、ユージだよ」


最悪だった……。

一番会いたくない男に会ってしまった。

私はユージを避けて逃げ帰ろうとしたが、ユージは私の腕を掴んで離さない。


「久々にやらせろよ……」


私は声を発する事も出来ずに、逃げようと必死になった。


「いてて……何をする」


ユージの腕はねじ上げられ、コンクリートの地面に膝を突いていた。


「嫌がっているだろう……」


ユージの腕をねじ上げた男はそう言った。


私は怖くてその場にしゃがみ込んでいた。


片方の足を引きずりながら逃げて行くユージの姿を見て、その男は私に歩み寄った。


「大丈夫かい……」


私は小さく頷く。

まだ身体の震えが止まらない。


彼は私を連れて、近くにあった深夜までやっている喫茶店に来た。


彼は寺井と名乗った。

その日、寺井さんと飲んだホットココアが美味しかった。


私が居酒屋でバイトをしている事を言うと、寺井さんはバイト先に飲みに来てくれる様になり、いつも私を部屋までタクシーで送ってくれた。


少し経った頃に、私に寺井さんは付き合おうと言ってくれた。


寺井さんは私が好きだと言う。

私は寺井さんが好きなのかどうか……。

でも私は付き合う事にした。

寺井さんと私は一回り歳が違う。

干支が同じだって事でそれに気付いた。


そして私は、その瞬間から寺井さんが私に飽きるのを待つ様になる。


三回目のデートの後、寺井さんと初めてホテルに入った。


そうやって私を抱いた男は私に飽きて行く。

私はそんな事を考えながら、寺井さんにされるがままに服を脱がされて行く。


寺井さんは服を脱がしながら、首筋や肩、胸……いろんなところにキスをしてくれた。


そして私の身体に手を優しく這わせ、下半身が熱くなるのを感じていく。

でも欠陥品の私はそれと快楽が繋がっていない。

ううん。

繋がっていない筈だった。


寺井さんの指が私のあれに触れた瞬間、私の身体がピリピリと痙攣するのを感じた。


あれ……。


冷静に構えていた私は、ゆっくりと目を閉じて身体を開いて行く。


いつもとちがう……。


私は意識を寺井さんの手が触れる場所に集めるかのように移していく。


声が出る……。


多分、人生初の喘ぎ声……。


寺井さんは何度も何度も私の名前を呼んでいる。

その声がどんどん荒くなり大きくなっていく。


おか……しい……。

こんな……の、わ……私……じゃない……。


私は無意識に自分の感じる部分を寺井さんに突き出しているような気がした。

ありえない程に自分が濡れているのがわかり、恥ずかしくなった。


寺井さんは優しいキスをしながら、私の濡れた部分に指を這わせる……。


ダメ……。

おかしくなる……。


そう頭の片隅で考えているんだけど、身体はどんどん開いていく……。


寺井さんは私の濡れ方に驚いたのか、一瞬だけど身体をピクリと動かした。

私はそれが恥ずかしくて、更に熱くなり滴らせる。


その部分に寺井さんのキスが降りて行く。


初めは吐息だけをそこで感じ、次は濡れ切った奥ではなく、熱い表面だけに優しく舌を這わせた。

私の身体はそれだけでビクンと動く。

そしてゆっくりと湿り気を保つその奥へと、寺井さんの舌はこじ開ける様に入って行く。


私の身体は音の無い悲鳴を上げる。

そしてこれからはその悲鳴とは相反する声が漏れて行く。


自分でもどんな声を発しているのかさえもわからない。

ただ寺井さんに聞かれると恥ずかしいと思いながら、押し殺そうとすればする程にその声は漏れて行く。


寺井さんがわざと音を立てて私の湿り気を吸い上げる。

それでまた私から溢れて出す。


ゆっくりと寺井さんは上半身を上げる。

そして寺井さんのそれを私の熱い入り口に当てた。

私の身体は勝手に動き、ビクンビクンと波を打つよう……。


そして、寺井さんが私の中にゆっくりと入って行く。


今までも誰とも違う、夕陽が沈む様にゆっくりとした時間を、私は濡れた自分の中に感じた。

そして寺井さんは私の奥に辿り着くと、またゆっくりと引き返す。

それを何度も何度もゆっくりゆっくりと繰り返した。


私は身体の中を寺井さんにかき回されている様な気分になった。


そして私は身体の内部から溶けて、寺井さんのそれと混ざってしまうような感覚になる。


初めての感覚に私は耐える事が出来ず、自分から寺井さんを奥へと引き寄せる様に身を寄せた。


寺井さんは優しく、何度も何度も、ゆっくりと私の中に入っては出て行く。

その一波一波に寺井さんの愛を感じた。


そうか……。

これを伝えるための行為なんだ……セックスって……。


私は愛と快楽を同時に知った。


ただ終わるのを待つ。

そんなセックスばかりやってきた私は、なんて馬鹿だったんだろう。


虚ろになって行く意識の中で、私は寺井さんにしがみ付いた。

何処かに飛んで行ってしまいそうで怖ったから……。


寺井さんはまた何度も私の名前を呼んで、徐々にその揺れを激しくしていく。

それに合わせて私の声も早く、荒くなっていく。


寺井さん……。

私、イクのかも……。


目の前が真っ白になって行き、どこかの空間に浮いている様な気持ちになる……。


寺井さんが私の中に果てるのを感じた。


私の全身の力は抜け、私の体重はゼロになる。


浮いてる……。


心地良かった。

落ちるのを待つような浮遊ではない。


そのまま意識を失う様に私はベッドに沈んでいた。


寺井さんが私の髪を撫でる感覚で目を開けた。


すごく恥ずかしかった。

私は手で顔を隠し、寺井さんに背中を向けた。


私、寺井さんに抱かれながら何を言ってたんだろう……。


それを考えると顔が熱くなった。


この気持ちが好きって事なんだ……。


私が振り返ると、寺井さんが微笑んでいた。








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