やっぱり…
クーロと貴族の話はようやく終わり、俺たちは今後について話し合っていく。何で呼び捨てかって?もういいじゃん。もうこの人に”さん”をつけるのもバカバカしんだよ。
「じゃー、明日から私と一緒にクエスト受けてもらおうと思ってるけどいい?」
クーロがそう確認を取ってきた。
クエスト…。良い…。すごくいい響きだ。なんかこう、心が浮きだつような胸のときめきを感じるよ。
この世界に来てから、ほんと苦しいことばっかだった。唯一心躍ったのも、魔法剣を拾ったとき…
止めよう。自分から心の傷をえぐるなんて馬鹿すぎる。
うん。もう忘れよう。まだそれ、持ってるけど…。
じゃなくて、返事だ。
「いいぜ、それでっ!」
「うん。あっ、今更だけど、レ…、君のステータス教えてもらってもいい?ぱ、パーティになるんだから、それくらい知っておくべきだろうしね。」
クーロは少しウキウキしていた。
ステータス…
なんかすごく嫌な響きだ。死ねばいいのに。そんな設定。
「言わないといけないよな?」
「それはね。」
うっ、しょうがない…。
「身体能力A、魔力S…」
「おぉ~、すごいね。なんで、それで捨てられたんだよ。れ…、君は…。」
そうなんだよ。ここまでだったらすごいんだよ。ここまでは…
あ~、何で言わないといけないんだろう。
「で、残りはどうなんだよーっ?」
クーロは興味津々だ。
うぅ…
「捨てない?」
「捨て、そんなのしないよ。大丈夫だからさっ。」
クーロはニコッと笑った。
なんだろう、さっきまでのクーロとは違う。もうほんと、お姉様って感じだ。
よし。
「スキルなし…。憶えられる魔法なしです…。」
「これまた…」
これが、俺の言葉に対するクーロの回答だった。クーロはすごく哀れみの表情を向けてくる。
罵られるのも嫌だけど、この反応もこれはこれで嫌だ。
どうしてこんな目にあってるんだろ…。
そしてクーロは、唇のあたりに手を添えて何か考えだした。
「捨てない?」
自分でもびっくりするくらいの切ない声が出た。
「ッ!?」
で、クーロは視線を右往左往させ始めた。
涙が出そうだった。
俺、こんな人にまで捨てられるのか。こんな、何考えてるか分からない人に…。
もしかしたら、俺の悲し気な表情を読み取ったのかもしれない。
「大丈夫だよ。捨てないからさ。たぶん…」
「たぶんっ!?」
クーロはあたふたし始める。
「えっ、いやっ。えー、絶…。きっとだ、きっと…。きっと捨てないからさっ。」
意味変わってないし…。
やばい、目に水が…
「えっ!?あーっ、当分…、多少は…、少し…。これだっ!!少しの間なら、面倒見てあげるからさぁ。」
「ありがと…。」
どうしよう。優し過ぎて泣いてしまいそうだった。
というか、泣きたい…。
もういいや。話進めよ。俺が進めていいのか、分かんないけど…。
「明日ってどうするんだっ?」
俺の言葉にクーロは、きついながらも穏やかな目になる。
「とりあえずはギルドかなぁ。冒険者ギルド。」
「冒険者ギルド?」
「そうだよ。まぁ、あれだよ。冒険者に仕事を斡旋してくれるところだよ。そこで、君のギルドカードを作らないといけないしね。」
「なるほど…。」
とうとう、レミーロって言ってくれる努力までしてくれなくなった件について。
いいや。
「じゃー、明日は結構早起きしないといけないのか?」
「まぁ、そうだね。早いに越したことないね。」
「了解。」
ということで、俺とクーロは今日話す必要があることはほとんどし終えた。
残りは…
そう残りだ。
「俺どこで寝ればいい?」
そう寝所だ。
クーロの家は1DKくらいの大きさしかない。当然、ベッドはあるが一つだけだ。
だからもしかすると…
うひひひひ…
「はい、これ。」
そう言われて、俺はクーロから毛布を受け取った。
まっ、そうだよね。うん、期待しかしてなかったよ。
「もしさ、もしなんだけどさ…」
「うん、どうかした?」
「一緒のベッドでって、言ったらどうする?」
俺はちょっとだけ、ほんのちょっとだけ期待を捨てなかった。
だって、中身はちょっとやばそうなんだけど、それに絶壁だけど、クーロはきれいなんだ。少しくらい抗わせてくれよ。
そうすると、クーロは目を据わらしていた。
「いいよ。だけど、明日の朝、なくても怒らないでね。」
口角だけは笑顔だった。不気味に。
なく…
うぅ、はい…
「冗談です。なんでもないです。」
「よろしいっ!」
こうして俺たちは、眠りについた。
あっ、俺の寝床は床だったよ。もちろん…。
固くて、冷たいよ…