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半年先の閑話を…

 半年先の未来…

 とある、一室…

 その一室は、この世界の中ではなかなか派手で煌びやかな部屋だ。


 そんな部屋にて…

 

 「アダール様、例の”トランプ”、見本が出来たそうです。」


 アダールの執事であるサーノは、机の上に…

 

 いくつかの書類にグラス…

 グラスの中には、キンキンに冷えた飲み物…

 そして、下からプクプクと気泡が上がっている。

 

 そんな乱雑にものが置かれている机の上に、トランプを…

 その完成品を入れたケースを机の上に置いた。


 トランプを入れたケースを見下ろしながら…

 

 「ほう…。やっとか…」


 アダールは嬉しそうに…

 満足そうに微笑む。


 「結構したからな。」

 「そうですね。」


 そしてゆっくりと、コテコテと太った自分の手をケースへと伸ばした。

 手に取ったケース…

 それを開くと、その中にはトランプらしきものがあった。


 「でかいな…」

 「ええ…」


 二人の発言通り、トランプはでかかった。

 紙はわら半紙…

 藁を原材料として作った…

 少し茶色がかかった薄くて脆い用紙。

 そんな用紙で、トランプは作られていた。


 大きさは、少なくともアダールの手の平より…

 具体的には…

 縦が30、横が25センチはあった。


 「とりあえずやってみるか。サーノ付き合え。」

 「はい、かしこまりました。」

 

 アダールはケースからトランプを手に取る。

 この時の二人は、少しウキウキしていた。


 「どうするんだったか…?」

 「たしか…、ランダムにと…」

 「ランダム…。どうやってだ…?」

 「それは…」


 サーノは答えれない。

 それもそのはず…

 だって、初めてのカード…

 シャッフルの概念なんて知るはずもない。

 

 しかもそれに加えて…

 トランプ一枚一枚の大きさは、30-25…

 つまり、手の平よりも大きい。

 

 だから、よく見る…

 片手でカードを支えて、反対の手でカードを掴んでから上に置くことを連続で行う…

 ヒンドゥーシャッフル。

 それはできない。

 

 そしてこれとは別のシャッフルである、ファローシャッフル…

 カードを二つの山にしてから、片方の山にもう片方の山を横から入れ込むシャッフル…

 当然これもできない。

 カードが手よりも大きく…

 そして紙質が柔らかすぎて、横から入れることができないから。

 

 他に日本で有名なシャッフルである、ディールシャッフル…

 カードを適当な枚数…

 例えば4つに、順番に並べていくシャッフル…

 これならできる。

 

 だけど、カードの大きさは30-25。

 つまり、かなり大きい。

 だから、かなり大きい机か、何も置いてない机くらいでしかできない。

 それに加えて、日本みたいに屋内で靴を脱ぐ文化ではないから、地面に置くことはできない。

 だから、これがそのまま流行るかと言われると…


 「と、とりあえずこのままやってみるか。」

 「そ、そうですね。た、たしか…5枚引くんですよね?」

 「そ、そうだな。」

 

 二人して、5枚引いた。

 そして…


 「この後は…、どうでしたっけ…?」

 「………」


 アダール男爵は何もしゃべらない。

 それに釣られるように、サーノも…


 しょうがない話だ。

 主人公から説明を聞いたのは半年前…

 そして聞いたのも一度っきり…

 それを憶えとけと言う方がひどい。


 まぁ、メモでも取っといたら…

 

 「メモ…、メモは取ってないのか…?」

 「メモ…。取ってます。ただ…」

 「ただ、なんだ?」

 「アダール様が保管していたはずです。」

 「はっ…」


 アダールは、自分の机の上を見た。

 そこには、書類が乱雑に置かれている。


 「ぐ…」


 苦い顔をしたアダール…

 だけど結構なお金をはたいて作ったのに、それで止めますはできない。

 だから…


 「どこだ…、どこだ…」


 アダールは、必死に探す。

 汚く置かれた書類を、下から全部ひっくり返して…

 トランプを、グラスの横に避けてから…

 

 

 

 そして、10分後…

 

 「あった!あったぞ!!」

 「ふぅ…。それは良かったです。」

 「で、なになに…。なるほど…」


 アダールは、ニカっと笑みを浮かべた。


 「分かったんですか?」

 「あぁ。」

 「では続きをしますか?」

 「そうだな。」


 そう呟いてから、アダールは机の上からトランプを探す。

 そしてあった。


 さて、わら半紙の悲しいところ…

 みんな分かっているかもしれない。

 でも一応…


 それは…

 水にすごく弱い。

 びっくりするくらい。


 水分を少しでも吸収すると、地面とくっついて取れない。

 無理に取ろうとするとやぶける。

 なんとか頑張って取る、もしくは水が乾くまで待つ…

 どちらをやったとしても、紙がよれる。

 つまり…

 少しクシャっとして、字がにじむ。


 そして思い出してほしい。

 アダールがトランプを置いた場所を…


 それはグラスの横…

 そしてそのグラスは、キンキンに冷えていた。

 つまり…

 グラスの置いてあった付近には、結露して落ちてきた薄い水たまり…

 でも、わら半紙が水を吸うには十分な量…

 だから…


 「濡れてるな…」

 「ですね…」

 「まぁ渇けば…」

 

 サーノは、少し顔を歪め始めた。


 「あのこれ、おそらく…」

 「なんだ?はっきり言え!」

 「はい。これ、紙がよれたらまずいのではないでしょうか?」

 「なんでだ?」


 アダールはまだ分かっていない。


 「なんで…。このトランプというもの、紙がよれたりしたら裏面で分かるのではないでしょうか?」

 「だからなんだ?」

 「その…、分かったら勝負にならないのではないでしょうか?」

 「はっ…」


 気づいたみたいだ。


 「ならこれは…」

 「きっと、もう使い道がないかと…」

 「あははは…。かなりの金をつぎ込んだのにか…」

 「え、えぇ…、おそらく…」


 サーノは気まずそうに返答する。


 「ははは…」


 アダールは不気味に笑ている。

 

 「これ、売れますかね?」

 「どういうことだ?」

 「紙をランダムというのが、まず難しいですし…

  それに、水で一瞬でダメになる商品…

  そんなに流行るでしょうか…?」

 「………」


 サーノの言葉に、何も返答できないアダール…

 でもその額には、見えるほどの汗が…

 そして…

 

 「あの男を連れてこい!!!」

 

 そう叫んだ。

 非を他人に向ける行為…

 ほんと見苦しい。

 でも…


 「名前も分からないのにですか?」

 「ぐ…」

 「しかも、あの男の風貌…、アダール様はお覚えでしょうか…?私は…」

 「あ~~、くっそぉーーーっ!!!!!」


 バサッ…

 アダールは、机のモノに八つ当たりした。

 それで全部解決したらよかった。

 でも…


 「これ、生産止めた方がいいですかね?」

 「あっ…」


 何かに気づいたみたいだ。

 

 この世界の紙は高い。

 それなのに、こんな使い勝手の悪いものが売れるのか…

 それは…


 「い、今すぐ生産を止めさせろっ!!!!!!」

 「は、はいーーっ!!」


 サーノはそう返事して部屋を…

 頼んでいた業者を走り回った。

 だけど…


 「もうかなり量を生産しているみたいです。それに…」

 「そ、それに…?」

 「停止は問題ないそうですが…

  先に仕入れていた分、そして今から届く予定の材料費…

  それに、雇った人材分の支払いはこちら持ちでとのことです。」

 「はっ!?」


 アダールは驚いた声を…

 そして、渇いた儚い笑い声をあげた。

 いや、きっとそれしか出なかったのだろう。


 こうして、トランプ事件は終わりを迎えた。


 ちなみに、トランプの売れ行きは…

 ご想像にお任せします。

 

 ただ…

 アダールの部屋から、たくさんの調度品がなくなって…

 そしてかなりの間、禁酒生活を余儀なくされたらしい…

 です。

 

 

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