男爵…?
目の前には、受付の女性…
「娯楽について思いついたんで、商業ギルドで扱ってもらえないかと思って来ました。」
「なるほど、娯楽ですか…。ちなみにギルド内、もしくは貴族の方に知り合いはいらっしゃいますか?」
「いない、です…」
「そうですか…。なら…」
お姉さんが何か言いかけたその時…
「あーすまん、すまん。そいつは儂の知り合いなんだ。」
急に、後方からそんな声が聞こえてきた。
お姉さん…
そして俺も、お姉さんにつられるように、声が聞こえてきた方へ振り向く。
そこには…
どっぷりと太ったおっさんがいた。
「え…、アダール男爵のご知り合いだったのですね。失礼致しました。」
「えっ…?」
正直、状況がよくわかっていない。
だけど受付嬢が男爵と言ったのに、目の前のデブが一瞬だけ視線を鋭くした…
様な気がした。
で、知り合い…?
ん?
「いや構わんよ。話がしたいから、一部屋借りてもいいかね?」
「はい、ご用意いたします。」
デブと受付嬢だけで、勝手に話が進んでいく。
今のところ、男爵様は人当たりの良さそうな人だ。
だけど、今まで会ったことがない異質感が感じ取れる。
なんというか、薄ら怖い…
そんな感じだろうか…
そしてすぐに…
「お待たせいたしました。ご案内いたします。」
そう言って、受付嬢が…
俺とデブ男爵を、ギルド内の部屋へと案内した。
ある部屋…
その部屋の中には、俺とさっきのデブ男爵、その配下の執事みたいな人、そしてさっきの受付嬢がいた。
受付嬢、何でいるんだろう…
ちょっと不思議に感じる。
でも、この貴族様方とだけいるのは、すごく怖い。
だから、すごくありがたかった。
「で、今日はどういう用件だったかな。」
そう、デブ男爵から…
普通に答えていいよな。
「少し面白い娯楽を思いついたので…」
「あー、そうだった、そうだったな。」
デブ的には、知り合いの体にしたいみたいだ。
「で、どんな娯楽を思いついたんだ?」
さぁ、何についてしゃべろうか…
ベタなのはオセロか…
でも、面白味がないよな。
ならここは…
「トランプ、ですね…」
「「トランプ…?」」
デブ、そして後ろの執事を反応を示した。
「そうトランプです。」
「ほう…。それはどんなのだ?」
「紙に4つのマーク、そしてそのマーク一つずつに1-13の数字を記載して、計52枚、それに2枚加えた54枚の紙で行う娯楽です。」
「「?」」
分かってくれないみたいだ。
当然か…
「そうですね。例えば…
54枚の紙を、順場をランダムにして、見えない状態…
裏返しにひとまとまの束で置きます。
そしてその上から、お互い5枚の紙を引いて、その持っているカードで強さを比べます。」
「ほう…?強さ?」
「そう強さです。
初めに、カードごとに強さを決めておきます。
それで、同じ数字を複数…
もし枚数が一緒なら、最初に決めたカードの強さで決着をつけます。」
「ほう…。なるほど。でもそれは、最初に引いた…、運で勝ち負けが決まるんじゃないかな?」
「はい、結論そうなります。
ただ一度だけ…
自分が引いたカード5枚の中から、好きなだけ相手から見えないように捨てて、カードを入れ替える権利があります。
そして、勝負から降りる…
そういう選択肢もあります。」
「勝負から降りる…?」
「はい。お互いに持っているカードで勝負するときに…
自分のカードの強さ…
そして相手の表情を読み切って、自分にとって分がいい勝負かどうかを判断します。」
「なるほど…。でもそれだと、ずっと勝負から降りればいいのではないかな?」
「そうですね。チップの話もしないといけないですね。」
「チップ…?」
「はい。チップ…、簡単に言うとお金ですね。
そのお金を勝負の掛け金として出します。
まずは、全員が最低保証の金額を…
そしてそこから、自分の完成した5枚のカードの強さによって、後から出していきます。
これが、自分が持っているカードの強さのブラフにもなるので、表情以外での心理戦の要素にも…」
「ほう、面白い!」
「いい案ですね。」
「あー。これは、一流行りできそうだ。」
「ですね。」
目の前の執事とデブが楽しそうに話しだした。
”ポーカー”は、ただの一例なんだけど、けっこう良い感触だし、これはまじで一儲け…
「話は分かった。だからもう、結構だ。」
「ん?」
デブからの一言…
俺は、どういうことか分からなかった。
「はぁ…。これだから、下賤なやつは…。どういう話かは十分分かった。だからお主はもう用はない。だからさっさと、この部屋から立ち去れ。」
言ってることは分かった。
でも全く理解できない。
教えて”あげたのに”…?
まじで、意味が分からなかった。
こいつの思考回路が…
いや、簡単か…
ほんと、この世界の貴族は…
なんで、忘れてただろうか。
はぁ…
正直、少し歯向かいたい気はする。
だけど、きっと碌なことにならないだろう。
俺は一度だけ、空気を吸う。
そして受付嬢のお姉さんにも視線を向けたら、顔を振っていた。
そういうことだろう…
分かったよ…
「分かりました。ではこれで失礼します。」
「あぁ、さっさと出ていけ。」
俺は、部屋を出た。
すごく悔しかった。
せっかく…
せっかく…
ほんと嫌い。
本当に…
はぁ…




